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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第二章 誉れの詩〜騎士と魔女編〜
30/120

第30話 突入、グハッツ洞窟

 洞窟の中は酷くひんやりとしている。

 遠くからぴちょんぴちょんと水の滴る音が聞こえる。

 天井や地面から生えた鍾乳石は獣の牙のように白く鋭く、その中に居ると大きな怪物の口内にいるような錯覚に陥る。

 洞窟内に吹く風が反響し唸り声に聞こえる。これのお陰で食われた感覚が一層引き立つ。


 ここはブォワホレの森の奥地にあるグハッツ洞窟、その第六階層だ。

 洞窟に入って一時間も経っていないというのにここまで深く潜れたのは、一概に僕の能力アビリティ“地理理解”の恩恵だろう。


 ここには幾つも分かれ道が存在する。

 その一つ一つを確認して進んでいたら、とてもじゃないが一日では間に合わない。

 流石探索地(ダンジョン)というだけの事はある。


 それに進むたび蟲系モンスターが現れる。

 それも奥に行くほどだんだん凶悪に残酷に強力になってくる。

 ジークとエピーヌが居なければここまで深くに来ることはできなかっただろう。





「それにしても退屈だニャ~」

「どうした? 急に」

「だってダンジョンだよ? もうちょっと探検というか、緊迫感というか、そういうものが欲しいのニャ」

「あー、確かに。それは僕も思った」


 安全に進めているのは何の問題はない。というよりそうであった方がいいのだろう。

 しかしシャトンの言った通り、冒険の浪漫が足りない。


 僕の中でのダンジョン像というのは、道に迷いながらも敵を倒し、時に道端に落ちているアイテムを拾い、そして奥に潜むボスを倒すというのが普通だと思っていた。

 今の状況はその理想とは遠くかけ離れている。

 そのことに落胆しているのだ。


「ダンジョンていうのはさぁ、“仲間と協力してモンスターに何とか勝利!”みたいなのを期待してたんだけど……」

「大概のモンスターはあの二人が倒しちまうからニャ。それにまっすぐ目的地に進むだけだから、アイテムを拾いに寄り道もできんし……。ヒロきゅん、ニャンとかしてニャ」

「僕もそうしたいのは山々だけど、“そんなことせずに進みなさい”と僕の良心がぁ……」

「二人とも馬鹿な会話をしてないで真面目に取り組め。私たちは遊びや探索目的で来たのではなく、天寿草と剣を探しに来たんだ。寄り道をしている暇な……ど……」


 エピーヌが僕達を叱ってきたと思えば、突然歩みを止めた。

 その視線は道の脇に続いている小道の奥を捉えている。


 何かあるのかと思いそこを覗いてみる。

 小道の先は十メートル程で行き止まりだ。

 しかし、突き当りにはRPGなどでよく出てくるいかにもな宝箱があった。


「何故こんな所に宝箱が……?」

「どうしたエピーヌ? なんかあったか?」

「ああ、ジーク。あそこに宝箱が置いてあってな。不自然だと思って見ていたところなのだ」

「ん? ああ、ありゃあボックスミミックかもな。宝箱に擬態して不用心にも近付いてきた人間を襲うモンスターだ。違っていたとしてもたまに罠の仕掛けられた宝箱もあるからな、用心に越したことはないぜ」

「ほう。だそうだ、ヒロ君たちも気を付けることだ」


 彼女が話しかけるがその返事はない。

 おかしいと思い二人がいる筈の方向を見る。

 そこには誰もいなかった。さっきまで話していた筈の二人の姿が忽然と消えていたのである。


 急な事態で彼女は一瞬慌てるが、すぐに二人が居るであろう場所に予測が付いた。

 確認の為、首を動かす。その目線の先は先程のの宝箱の方向だ。


「お宝お宝~」

「金銀財宝がっぽがぽ~」


 やはり二人はそこに居た。

 いつの間にあそこまで移動したのか?


 そんなことは後で考えよう。

 今二人は目の前にある宝箱を開けようとしている。ボックスミミックかもしれない宝箱をだ。


「二人とも! それを開け―――」

「「レッツオープ~~~ン!!」」


 しまった、一足遅かった。

 この距離だと助けにも入れない。

 それを分かっていながら足は独りでに駆け出す。

 間に合わないかもしれない、それでも助けられないわけではない。

 そう思いさらに踏み出す―――!




「なんだ、薬草か」

「お宝じゃニャいニャらどうでも良いニャ」

「ぶふううぅぅぅぅぅ」


 全速力で駆けだしたエピーヌは頭からスライディングをかます。

 そのまま俯せになり動く気配を見せない。


「ん? どうしたんだエピーヌ?」

「ニャんでヘッドスライディングニャんかしてんだニャ?」


 二人は彼女の心配などハナから知らずに話しかける。


「ププッ! 馬鹿じゃねえのエピーヌ。ミミックは賢いモンスターだぜ。こんなとこで間抜けに構えている訳ねえだろ」


 ジークが後ろで彼女を嘲笑っている。

 そんな彼女をめぐる声の中、何かが切れるような音が聞こえた。


 〜〜〜〜〜


「ヒロ君、シャトン、二人とも勝手な行動はよせ。無鉄砲な行動は自分たちだけではなく、周りにも被害が出る。わかったな?」

「「・・・ハイ」」


 仁王立ちするエピーヌの前には頭に大きなたんこぶを乗せた三人が正座していた。


「なぁ、別に俺は関係無いだろ」

「お前は私を惑わせるような発言をした。それに何より私の憂さ晴らしだ」

「そっちが主目的だろ!!」

「さあ二人とも、早く奥へ進もうか」

「「ハーイ」」

「待てやゴラァ!!」


 憤慨する青年を放って三人は奥へ続く道へと歩みを進め始める。

 怒りの収まらない青年も言い足りないような顔をしているが、それを飲み込み後を追い掛ける。






 グハッツ洞窟 第九階層


 鍾乳石の牙は奥に進むたびその数を減らし、代わりに澄みきった地底湖が迎える。

 長い年月をかけ、地面の隙間を通り、自然に濾過された地底湖の水はショックの光を受け青色に輝く。


 その美しい湖の中に切断された大百足の半身が飛び込む。

 百足の半身は湖の奥深くに消え入りながら濁った体液を流し続ける。

 だがそれも暫くすれば大量の水に混じり、薄まり、そして消えていった。


 百足が落ちてきた方を見ると、十を超える数の千脚蟲サウザンドレッグたちが蠢いている。

 足元には同等数の死骸が散らばっていた。

 中心にいるのは四人の男女。彼らはまた一匹、敵を屠る。

 その内の一人、“剣聖”と呼ばれる青年が剣を変えながら、この現状の不当を叫ぶ。


「ったく、倒しても倒しても切りがねえ! 一体あと何体いんだよ!?」


 それに応えるのは赤髪の女騎士。彼女は大百足の頑強な甲殻を破壊しながら青年と話す。


「これでやっと半数程だ。ジーク、お前の凍結剣ジェリダで一掃できないのか?」

「こうも入り乱れての戦闘だと味方にも被害が出る。だからこうやってチマチマと相手してんだろが。

 にしても一体一体の強さは大したことねえが、集団で襲われるとホント厄介だなっとぉ!!」


 彼の一撃でまたもう一匹、百足が絶命に至る。


 彼らの強さは周りの敵を一時間で掃討するのに申し分ない。

 だというのに手を焼いているのは、単位時間あたりの駆除した数より横穴から応援に来る数の方が多いからである。

 その差は実に僅かではあるが、時間がかかるほど敵の数は少しずつ増加していく。

 倒しても新たに増えてくる。その分を倒してもまた新しく増えてくる、とイタチごっこの状態だ。



「ウニャーー!!! ニャんで私がこんニャ目に合わニャいといけニャいのニャ!!」


 また一人、この状況にニャーニャー言いながら文句を垂れる。

 文句を言いつつもその自慢の鋭い爪は百足の弱い部分、節のあたりを捉え傷を負わせる。


「お前が忠告を聞かずに突っ走ったからだろ!!」


 少年は自身の影で百足を牽制しながらそう叫ぶ。


 そもそもこのような事態、“怪物の巣(モンスターハウス)”に足を踏み入れてしまったのは、この猫の亜人二世セカンドデミシャトンが『こっちの方が近そうだニャ』と言って仲間の言うことも聞かずに飛び込んでいってしまったからだ。



 ダンジョンに突入する際に気をつけたいことの一つに“そこがモンスターハウスかどうか”というのがある。

 モンスターハウスかどうかは明確に判別する手段はないが、その傾向があるかないかを判別することはできる。


 先ず開けた場所には注意する事。

 狭い場所には巣は張りづらい。逆説的に広い場所には巣を貼られやすいということになる。


 次にそこが生活に適応するような所かどうか判断する事。

 とくに水場にはより一層注意する事。

 そうでなくとも水場は多くの生命が来訪する。それには勿論モンスターも含まれる。

 逆に、たとえ広い場所に巣を作ったとしても、そこが生活するのに不適当ならば当然暮らすことは不可能だ。


 今回の地底湖のほとりなど正にモンスターが巣を作るのにピッタリな優良物件である。

 そのことはダンジョン攻略に通じているジークとエピーヌにとっては簡単に分かることだ。

 その為遠回りを提案していたのだが、せっかちな誰かのせいで全員が巻き込まれることとなった。


 そして今に至る。




「チッ、このままじゃ全滅だ。一度第八階層まで撤退しよう!」

「そうしたいのは山々だが、もと来た道も百足で塞がれている!こいつらを片付けないと前進も後退も不可能だ!」


 クソッ、絶体絶命か……!

 最初はただ天寿草を拾って戻るだけだと思っていたのに、まさかこんな目に合うことになろうとは。

 僕の二度目の人生はここで終わるのか?こんな辛気臭い所で大百足に喰われて終わるのか!?


 ……こうなったら死ぬより化物になる方がマシだ!

 もう一度だけ鬼人モードを―――


「いや、違うぜヒロ、エピーヌ。撤退なんかしねえ。況してやここで全滅なんかもしねえ。

 俺たちは今からここを()()()()!!」


 横からジークがそう言ってくる。

 目をやると、そこには逆境の渦中にいるというのに満面の笑みを浮かべる勇者の姿があった。

 その口の端が切れそうな程に開かれた笑顔は、不思議と僕らの中から怯えや不安といった感情を取っ払ってくれた。


「だけど“突っ切る”て言ったってどうするんだ!? 先へ続く道は来た道以上に敵がのさばっているんだぞ!?」

「分かってるよ。それよりヒロ、道に居座っている奴等を一分、いや三十秒でいい、足止めすることはできるか?」


 一体何だというのだ?

 もしかしてこの現状の打開策でも思いついたのか!?

 ならこの手に乗るしかない!


(紅蓮、聞いていただろ?どうだ、できそうか?)

〔……何回かやっているが一体なら数分もつことができる。しかし、何体ともなるとギリギリだな〕


 ギリギリか……。

 それでジークの策には間に合うのか?

 いや、それを決めるのは僕ではない。発案者である彼自身だ。


「あの量となるとギリギリだ! それで大丈夫か!?」

「十分だ! 早速やってくれ!!」

「分かった!!」


 言われるがまま紅蓮に百足共を捕らえるように頼む。

 直後に影は広大な地底湖のほとりを縦横無尽に駆け巡る。

 その影に触れた百足は端からそいつに縛られていった。


〔くぅっ……早くしてくれ!〕

「ジーク! 捕まえたぞ!」

「でかした! あとは任せろ!」


 左後方にいるジークに目をやる。

 彼の武器は既に他の物に変わっている。

 剣と言うには些か細く短い。その先の鋭い様はオーケストラの指揮者の振るう指揮棒を思わせる。

 彼はソレを高くかざし、宣う。



「水よ、我が奏でを聴き舞い踊れ。奏でよ、創生なる剣! 191番、水躁杖“アクア・タクト”!!」



 同時にその指揮棒を横一文字に振るう。

 すると地底湖の水がそれに従うように地底湖から飛び出し動き始める。

 ジークが続けて振るうと、水もそれに呼応し様々な形に姿を変える。

 それは次第に細く、長く、そして生き物のような形へと変化していく。



 だが、その美しい光景を崩すかのように一つの影が飛び込んでくる。

 その正体は運よく紅蓮の包囲網から抜け出した大百足だ。

 壁に上って難を逃れたか、新しく参戦してきた一体か、そんなことは今はどうでも良い。


 ヤツは僕達の嫌がることを知っているかのように、まっすぐとジークを襲いにかかってくる。

 紅蓮は他の百足を押さえつけることで手一杯だ。

 たとえ影を伸ばせたとしても、この距離では間に合わない。

 駄目だ、ジークがやられる!!




 ―――ザシュッ!

 肉が斬られた音がする。

 だが、僕の目が捉えた光景は予想とは違うものだった。


 一閃。流星が如き鋭く速い一閃が百足の首にあたる部分を切り裂く。

 その正体はエピーヌだ。エピーヌが目にも止まらぬ一撃でジークを窮地から救ったのだ。


「これで借り一つだな」

「へっ! じゃあ利子付けて今返してやらぁ!!」


 絶命に至らしめることは無かったが、体の半分弱を切り裂かれた百足は怯んでいる。

 その間にジークの準備は万全のものとなった。


 水は伝説の生物に姿を変える。

 蛇のように細長く鱗に包まれた身体。虎のように屈強な掌に鷹のように鋭い爪を持つ。顔には鯰のような長い二本の髭、鹿のように枝分かれした角、そして鬼のように見開かれた威圧のある目。

 それは東洋の“龍”の姿であった。


「題目は、そうだな……“譚詩曲バラード:水蛇ミズチ”!!」


 そう言いながら指揮棒タクトを先程襲ってきた百足に向ける。

 その行動に合わせミズチも動き始める。


 龍はその大きな口で百足を食らう。

 その一撃だけで百足はボロクズみたく呆気なく崩れ去る。

 それだけで龍の体内には高水圧が渦巻いていることが理解できる。


〔ヒロ、もうダメだ。これ以上抑えつけられない……!〕


 しまった、見とれている隙などなかった。

 ブチブチッという音と共に次々と百足が影の拘束から開放されていく。


「ジーク!!」

「分かってる!!」


 すかさず龍を指揮し、百足の大群へ向かわせる。

 たった一撃、龍がその集団に突撃しただけで百足共は体を四散させる。

 残ったのは百足の死骸と奥に続く道だけである。



 凄い、一匹だけでも苦労したサウザンドレッグをこれだけで数匹も蹴散らしてしまった。


「オラ、ボサっとしている暇はねえぞ! 道が開けたからといって安全とは限らねえ。また塞がれる前に奥に進むぞ!」

「っ! ……ああ、今行く!」


 道はできた。なら進むしかないだろう。

 全速力で出口へ向かう。その後を残党が追いかけてくる。

 黒王蟲ほどではないが、やはりサウザンドレッグ達は速い。

 あともう少し、出口まで五メートル。それだというのに、クソッ、間に合わな―――!


「ジェリダッ!!」


 後ろから突然冷気を纏った風が背中を押す。

 追ってきていた百足が凍り付き動きを止めたのを見ずして感じ取る。

 目の前にはジェリダを握ったジークが僕の方に片手を伸ばしている。


「ヒロ!!」


 僕の名を呼ぶ彼の手を取る。

 直後、その手によって僕の体は出口に投げ飛ばされる。


 投げ飛ばされながらも見た光景は、先程まで居た地底湖のほとりが一瞬で氷の世界へと変わる様であった。

 地底湖は氷が張り、千脚蟲共は余すところなく凍結され、仲間が出てくる横穴も氷によって蓋がされる。

 その死の世界でただ一人立つ男の後ろ姿は正に勝利を掲げる勇者であった。






「〜〜〜〜〜っつぅぅぅ……」

「いやぁ、スマン。あん時は必死だったからさ、あとのこと考えてなかったんだわ。ホンッッットにスマン!」


 後頭部を擦る僕の目の前には、手のひらを合わせて謝罪する情けないジークの姿がある。

 何故僕が痛みに悶ているのか、そして何故ジークは僕に謝っているのか。

 これには少々訳がある。


 そもそも地底湖の出口は第十階層に通じる斜面だったのだ。

 そこへ僕は――わざとじゃないにしろ――ジークの手によって投げ入れられた。

 その後はお察しの通り、第十階層まで体を打ち付けながら転がり落ち、トドメに後頭部を強打したのであった。

 正直、僕の体が半分バケモノになっていなかったなら死んでいたかもしれない。というか、一瞬マジで三途の川が垣間見えた。



「まったく、前にもシャトン達に言ったが後先を考えない行動はよせ。打ち所が悪かったなら今頃ヒロ君はあの世に行っていたかもしれないんだぞ」


 実際に行きかけていました、はい。


「むうぅ……。確かに今回は俺が悪かった、そのことは承知している。だけどエピーヌ、オマエにも非はあるんじゃねえか」


 苦手な相手に正論を言われバツが悪そうなジークだったが、それでもただ言われっぱなしでは気が済まないようだ。

 すねた子供のように口を尖らせてそのような事を口走る。


「はあぁ? なんでそこに私が出てくる?」

「だってオマエは俺やヒロより先に出口に居たんだろ?だったら落ちてきたヒロを抱きかかえることくらいオマエならできたはずだ」

「うっ……。確かに、そうだろうが……」


 やはりエピーヌは馬鹿真面目だ。彼の屁理屈を真摯に受け止め、負い目を感じているようだ。


「と、とはいえ! そもそもお前がそんなことをしなければ良かった話だろう!」

「おや? おやおやおやぁ? つまり勇者であるエピーヌさんは自分の非を認めず全て俺の責任にしたいと、そういうわけですかぁ?」

「そ、そんなつもりはない! 屁理屈を並び立てるな! それでも勇者か!」

「その言葉、そのままオマエに返すぜ!」


 ジークと暫く一緒にいて分かったことが一つある。それは彼が極度の“負けず嫌い”であることだ。

 誠実の勇者たるエピーヌが生真面目であるのに対し、勝利の勇者たるジークが負けず嫌いであるのは今考えてみれば納得しうることだ。

 じゃあ、同じ勇者候補のユーリは一体なんだろうな。正義感が無駄に強いし“正義の勇者”あたりかな?


 そんなことを考えている最中にも二人の口喧嘩は拍車が掛かっていく。

 そこへ間に割って入ったのはシャトンであった。


「ほらほら、二人とも。ガキが見ている前でみっともニャいニャ。今すぐ喧嘩をやめるのニャ」


 というかそもそもお前がモンスターハウスに飛び込んだせいだろ!! というツッコミを抑える。

 シャトンの言う事は尤もだ。ここで喧嘩をしているようでは到底デュランダルも天寿草も手に入れることはできない。


「シャトンの言うとおりだ。今は喧嘩するより協力して早く目的を遂行しよう。僕の方ももう大丈夫みたいだし」

「……仕方ない。ヒロ君のいう事を聞いておこう」

「そうだな、どうせこのあと暫くオマエの顔を見ずに済むんだからな」


 そう言ってジークはある方向を向く。

 僕達が下りてきた坂とは反対の方向、そこにはあからさまな分かれ道が待ち構えている。


「ああ、ここからは別行動だ。ヒロ君、もう一度地図を見せてくれないか?」

「あいよ、表示インディケイト


 言われたとおり地図を表示する。

 三次元表示の地図の丁度真ん中あたりに赤い点がポツンと存在する。

 これが僕達の現在位置だ。

 エピーヌはその点に指を添え、そのまま自分達の目的地までの道をなぞっていく。


「……うん、こちらは大きい道を道なりに行けば大丈夫そうだ。シャトン、天寿草の特徴を覚えているか?」

「モチのロンニャ! たしか湿度と瘴気の高い森に自生している双子葉の多年草で、葉の色は紫の混ざった緑色……そんで花は濃い桜色のグラジオラス、だった筈ニャ!」

「よし、そこまで覚えているなら十分だ」


 彼女はこちらに振り向く。


「ジーク、ヒロ君のことを任せたぞ。ヒロ君、君はあまり無茶をしないようにな」

「ヘイヘイ、一々言わなくても分かってらぁ」

「大丈夫だよエピーヌ。いざとなったらジークがいるからさ」

「二人の無事を祈ってるニャ。あとでまた四人で会おうニャ」


 全員で軽く声を掛け合う。

 今生の別れというわけではないが、それでも暫く会えないのは少し寂しい気がする。


「……それじゃあ、行こうか」


 別れの挨拶も早々に出発を切り出す。

 三人は小さく頷くだけで何も言わない。ただ自身がすべきことをしに、向かうべき所へ赴く為に、爪先を分かれ道の方へ向ける。


 エピーヌとシャトンは右の道へ、天寿草が自生しているであろう先へ進んでいく。

 ジークは左へ、伝説の名剣“デュランダル”が眠る奥地へ歩みを進める。


 僕も行くとしよう。

 そう思い左へ、ジークの後を追いに行く。

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