第3話 村人Aとお姫様
えーと、まず僕は道端に座り込んでいて、そしてお上品な女の子に道を尋ねられて、で何て言ったんだっけ僕?
「ここはパリリーの城下町だよ」
あーこれ知ってる。多分日本のRPGやっている人全員知ってる。一番最初に出てくるね。スラ〇ムの次に有名じゃないこれ。うん、これあれだ。
―――村人Aじゃねぇかぁぁぁぁぁあああああ!!!!!
異世界に来て自分の役割が村人Aてなんだよ!? 何回話しかけても「ここは〇〇の町だよ」ていうアイツじゃねぇか!! たまにどの町に行っても出てくるヤツじゃん!! 看板でいいのにわざわざ口頭で説明してくれるいいヤツじゃん!! てかパリリーて何なんだよーー!!
―――と頭の中でツッコミまくっている横で、例のお嬢様がクスクス笑っているのが聞こえる。
「ウフフッ。ええ、それは存じ上げております。私がお尋ねしているのは、ここがパリリーのどこなのかということですわ」
「あ、あぁ。だよね。実は僕もここの土地には詳しくなくてね」
「まぁ! なら貴方様も迷子なのですね」
「まぁそうなるね。……ん? 貴方様“も”?」
「ええ、私も道を詳しく知らないもので。いつもは部屋に籠りきりでして、外に出たいと父上や兄上方に言ってもダメとしか……」
そうか、この子はそんな生活をずっと送っていたのか。
家族がこの子を大切に思いやる気持ちは分からんでもない。けど、この年頃の子は外に出て遊びたいだろうになぁ。
「ですが、今日はメイド二人と家族には内緒のお散歩に来たんです! 二人とも優しくて、いつも側に居てくれる最高のメイドなんですよ!」
「そうか、その二人も鼻が高いだろうなぁ。こんな素敵なお嬢様に最高って言って貰えて」
「え、えへへ」
素敵といわれたのが嬉しかったのか、彼女は少し照れくさそうに笑った。
しかしすぐに表情は曇った。
ふと空に目をやれば今にも降りだしそうな曇天だ。それは彼女の心を表しているように僕は感じた。
「でも、でも私ったら、つい初めての外で、舞い上がってしまい、ひぐ、そのふた、二人とはぐれてしまって、うぅ、ひぐ……」
何も知らない世界、誰も知り合いがいない場所で、たった一人でいたら誰だって不安になるだろう。
それもこんな小さな子だと、その不安に押し潰されてしまうだろう。
僕は、僕自身とその今にも壊れそうな少女を重ねられずにはいられなかった。
「一緒にメイドさんを探そう」
「え?」
お互い独りぼっちどうし。一緒にいれば、少しでも不安を取り除けるだろうと、そう思っての言葉だった。
「で、ですが、よろしいのですか?」
「うん、困ったときはお互い様だろ?」
少女の顔から不安の色が消えていく。
彼女が顔をあげる。頬にはその涙が通った跡がある。
そのあとからまた新しい涙が伝ってゆく。
これは先ほどまでの涙ではなく、それはきっと一番暖かい涙。
「~~〜! ありがとうございます!」
感謝の言葉とともに、彼女は僕の体に抱きついてきた。
「人という漢字は人と人が支えあってできてるからね」
僕は前の世界の名言を口にした。
「……? それは一体どういう意味なのですか?」
あ、こっちでは通じないか。
話を聞くと、この小さなお嬢様はフローラ=カロル・ド・フルーランスと言うらしい。
お付きのメイドさんはアンネとクライネと言うのだそうだ。
最後に一緒にいたのは城下町の国立公園らしい。
そこでフローラは偶々見かけた猫を追いかけていたら道に迷い、そこで僕に会ったということだ。
で、その国立公園は城下町内に少なくとも3つはあるとかなんとか。
「それでフローラちゃん、その三つのどれかは分かるの?」
「いいえ、私も初めて行ったので名前すら……」
これは困ったな。名前が分からなかったら誰かに聞いても無駄だろう。
それに、そこにそのメイドがいるか分からない。
さらに、太陽がかなり傾いてきている。あと数時間で日没だろう。
それまでには見つけないと……。
などと考えていると、フローラちゃんが急に声を上げた。
「そういえば、その公園には大きな剣のモニュメントがありました!」
モニュメントか。他の二つの公園にもあるかも知れないけど……。
「あの、お役に立つでしょうか?」
「……うん、やってみなきゃ分からないな。その情報を元に探してみよう!」
「っ! はい!」
さて、先ずは聞き込みのために人通りの多い道に出ないとな。
ええとあっちかな……?
―――いやぁ、まさか誰一人尋ねる事なく、勘だけで目的地に着くとは思わなかったなぁ。
遠くにはフローラちゃんが言っていた剣のモニュメントが見える。まずここで間違いないだろう。
「フローラちゃん、ここで合ってる?」
「はい! 間違いありません! ここです!」
さて、場所は合っているようだが、恐らくこの公園も大分大きい。この中で人探しするのは骨が折れるな。
それでも、フローラちゃんのために何としてでも見つけ―――
「「お嬢様!!」」
「アンネ! クライネ!」
……どうやら杞憂だったようだ。
ここまであっさりと見つかると、なんだか肩すかしを食らったような気分だ。
まあ、フローラちゃんも嬉しそうだし、結果オーライかな。
「貴方様がフローラお嬢様をここまでお連れして頂いたのですね。感謝してもしきれません」
「どうか御恩をお返しさせて頂けませんか? 貴方様の家に金をお送りしましょう」
この二人のメイド、恐らく双子なのだろう。全く同じ顔でこちらに詰め寄ってくる。
「い、いえ結構です。当然の事をしただけですから」
「それでは我らの気がおさまりません」
「何でもよろしいのです」
と言っても困るなぁ。今欲しいのはこの世界で生きる術、さしあたっては寝床と食料が……あ、それでいいじゃん。
「あの~、だったら……」
「「はい、何でしょう」」
流石双子、息ぴったり。じゃなくて
「今晩一泊だけ泊めてくれませんか? 僕ここに来たばっかりで」
「今晩?」
「一泊だけ?」
二人は顔を見合せ、何やら相談しているようだ。
当たり前だ。フローラちゃんの衣服や境遇、お付きのメイドがいる時点で、相当お金持ちの家だろう。
そこに素性の分からないものを入れる訳には―――
「「是非いらっしゃってください」」
えぇ、マジでぇ……
「あの、頼んどいてあれですけど本当にいいんですか?」
「はい、構いません」
「素性が全く分からない相手ですよ? もしかしたら悪人かも……」
「いいえ、それはありません」
「フローラ様を助けて頂いたお方、それだけで十分です」
それだけで十分って、それでも危険だろう。
それなのにこんな易々と人を信じて、もしフローラちゃんが誘拐でもされたらどうするんだ。
「それに」
「……? それに?」
「フルーランス王国全体に喧嘩を売るほどの胆力は無さそうですし」
ん? 王国全体に?
「アンネ。この御仁は“ここに来たばかり”と仰っていたわ。もしや、お嬢様の身分をご存知無いのでは?」
「あらクライネ、そうでしたわ。申し訳ありません、その様なことに気付かず」
「あの、もしかしてフローラちゃんって……」
「はい、フローラ=カロル・ド・フルーランスお嬢様はフルーランス王国国王のご息女に在らせられるお方です」
「フフーン、どうです? 驚きましたか?」
当の本人はどや顔で自慢しているが、こちらは身体中の穴という穴から嫌な汁が噴き出す勢いでビビっている。
要はフローラちゃんは一国のお姫様だ。そのような相手にちゃん付けや、あまつさえ家に泊めてくれ言ったのだ。
「「それで、来てくださいますか?」」
「ヒャイ、ヨロコンデ」
この日二度目の死を感じた。
暫くして、僕はフローラちゃ……フローラ様の家の応接室にいた。
アンネさんとクライネさんは「「どうぞごくつろぎください」」と言っていたが、正直内装が豪華過ぎて緊張しっぱなしだ。
壁に掛けてある動物の剥製もこちらを見ているようで落ち着かない。
内装も豪華だが外装もとても豪華だった。写真で見たヴェルサイユ宮殿そのもののようだ。
そして出迎えも超豪華。恐らく使用人全員の“お帰りなさいませお嬢様”は圧巻だった。あれ本当にあるんだな。
そんなことを思い返していたら、応接室の扉が開きアンネさんとクライネさんが姿を現した。
「「お部屋の準備が整いました、ヒロ様」」
「あ、ありがとうございます」
「そんなに畏まらないでください」
「いつも通りでよろしいのですよ」
二人は優しい笑顔でそう言うが、この状況で畏まるなという方が無理である。
「その前に」
「少々」
「「お話が」」
二人の雰囲気が変わる。応接室全体に張り詰められた空気が漂い始めた。
「な、何でしょうか?」
「ヒロ様、貴方様は何処から来られたのですか?」
その質問に僕の背筋は凍った。
こんなところで“異世界から来ました”なんて言える訳がない。
そもそも信じて貰えないだろうし、言ったとしても最悪不審者として処理されるかもしれない。
「ヒロ様、早くおこたえください」
「それとも言えない事でも?」
ど、どうする? な、何か、なにかないのか?!
小さな脳みそを必死にフル回転させていると、ふとアリスさんが言っていた事を思い出す。
―――もしかしたら陳の国の人かも―――
確か、その国には僕と同じ色の肌の人が多いと言っていたな。
よし、それなら―――
「ぼ、僕は陳の……」
「まさか陳の国の人ではありませんよね」
僕の言い訳は言う前にクライネさんに否定された。
「な、何でそう思ったんですか?」
「陳帝国はここからかなり離れた土地です。来るのは行商人くらいでしょう」
「その行商人も通常十何人かで移動します。一人はぐれていることはありません」
「さあ」「貴方は」「「何者ですか?」」
……八方塞がりだ。もう何も言い訳はできない。
ならいっそ正直に告白してしまおう。
「実は、僕は、……」
どうしても言い淀む。
言ってしまえば、即座に首を切り落とされるかもしれない。そんなどうしようもない恐怖が喉の奥で言葉を押さえ込んでいる。
ふと視線を上げ彼女達を見る。彼女達は僕の言葉をじっと待っていた。僕の口から紡がれる言の葉を忠犬のようにただ待っている。
それは僕が言うことを期待しているようでもあった。
僕はなけなしの勇気を振り絞り一つ、また一つゆっくりと言葉にする。
「っ。僕は……この世界の住人では、ありません。別の世界から……転生したん、です」
言ってしまった。
彼女達の顔が見れない。僕はただ歯を食い縛り、目を瞑り、全身に力を込め次に起こる事を待った。
「―――なるほどそうだったんですね」
不意を突かれた。全身から力が抜けるのを感じる。
てっきりバッサリいかれるものかと思っていたが、彼女の返答は意外にもあっさりしすぎていた。
「え、信じるんですか?」
「はい、信じます」
「もとより貴方様のことは信頼しております」
理解が追い付かない。もとよりってならさっきのは?
「実はこれを使い、ヒロ様を試させて頂きました」
そう言ってアンネさんは懐から水晶玉のような物を取り出した。
「それは?」
「これは嘘を見破る魔道具です。」
「赤なら悪性の、青なら善性の、そして白なら無害な嘘と見抜きます」
「色が変わってないということは」
「「嘘はつかれておりません」」
緊張が全てほぐれ、代わりにどっと疲れが押し寄せてきた。
「「脅すようなことをして申し訳ありません」」
「な、何でそんなことを?」
今度は二人が言い淀む。やはりこんなことをして罪悪感があるのだろう。
「我らは貴方様を信頼しております」
「だからこそ」
「「貴方様の事を知りたかった」」
その言葉に混じり気がないことは、その魔道具を見ずともわかった。
「我らは幼少の頃から相手の気持ちを感じとることのできる固有能力を持っています」
「この能力のお陰でお嬢様を悪しき者どもの手から未然に防いで来ました」
「「そして貴方様には邪気を感じなかった。」」
―――そういうことか。
だから見ず知らずの僕をすぐに信頼して、ここに泊まることも許可してくれたのか。
だがしかし……
「何故僕が“転生者”ということをすぐに信じたのですか?その能力というものや魔道具で本当だと証明してもにわかには信じられない話だと思うのですが」
二人はキョトンとした顔で見つめあい、その後納得したような顔でこちらを向き説明を始めた。
「こちらでは異世界人、転生者は珍しくないのです」
「古来より異世界人を呼び出す術式等もあり、貴方様が思うほど信じられない話ではありません」
…………もうなんだかよく分からない。とりあえず、できればすぐに休みたい。
「お疲れのようですね。付き合わせてしまいすみません」
「この世界のことはまた明日にしましょう」
「「さあ、御部屋に御案内致します」」
こうして、漸く長い異世界生活の初日を乗り越えられた。
明日はこの世界の勉強だ。役職、能力、魔道具、どれもニュアンスで大体分かるが他にも大切なことがあるだろう。
とりあえず今は寝ようか。
物語に出てくるアンネとクライネはアイネクライネナハトマジークから。でもこれドイツ語らしいですね。フルーランス王国はフランスをモデルにしていたんですが・・・




