第29話 三人目の勇者
舞い散る氷片、それが木漏れ日を浴び、煌めきながら消えていく。
その中心にいるのは、一人の青年だ。
体は細身でありながら、しっかりと鍛えられている。
背は彼と同年代の人より少し高いくらいか。
顔は整っており、浮かべている笑顔が眩しい。
右手には霜をまとう剣を持っている。辺りを凍らせたのはこの剣によるものなのか。
僕は窮地から救ってくれたであろう青年に、何者か問う。
「……あ、貴方は……?」
「俺か? 俺はジーク。英雄級の一人“剣聖”であり、勇者候補の一人“勝利の勇者”だ!」
彼は自身が“英雄級”であり“勇者”であると語った。
普通なら信じられないような話だが、僕は何故か納得してしまう。
彼を纏う空気、オーラがそうであると物語っていた。
まるでヒーローの様な魅力が彼にはあった。
「それよりオマエ、腕が折れているようだが……ちょっと待っていろ、確か回復薬があった筈だ」
「え? あ、ありが―――」
「ヒロ君!! 大丈夫か!?」
ジークという名の青年の後ろから、エピーヌとシャトンが飛び出してくる。
そしてジークさんと僕の間を割くように、エピーヌが僕の正面に立つ。
僕の方に置いた手の力強さや緊迫した顔から、相当心配してくれたのだろう。
「ああ、大丈夫だよ。黒王蟲に襲われたけど、この人が―――」
「コイツに何かされてないだろうな!?」
…………え?
“コイツ”ってジークさんのことか?
エピーヌの指先は真っ直ぐとジークさんを指している。
間違ってはいないようだ。
しかし、何故ジークさんが僕に何か危害を加えないといけないのだろうか?
「ひどい言い掛かりだな、エピーヌ。俺が初対面の子にそんな事する筈もないだろ?」
「いや、間違いなくやる。貴様はそういうやつだ! 言っておくがヒロ君に手を出したなら、貴様が何者であろうと私は許さんからな!」
「そうカッカすんな。皺になんぞ」
「何だと?」
「何だよ?」
い、一体何だというのだ?
僕の目の前で突然二人の勇者が口論を始めている。
「ニャんでも、アイツら昔一緒にモンスターを討伐したときにイザコザがあったらしく、それ以来顔を合わせると喧嘩ばっかしているらしいニャ」
「あ、シャトン居たんだ」
「最初からいたニャ」
「それより、なんでそんなこと知ってんだ?」
「来る途中で本人たちから聞かされたのニャ。私達もサウザンドレッグと戦っている所を助けてもらった口でニャ、そんでここまで一緒にお前の捜索を手伝ってもらっていたんだニャ」
そうだったのか、それは迷惑をかけてしまったな。
一言感謝の言葉をかけておかないとな……
二人はまだ言い合いを続けている。
そこへ割って入るように僕は声をかける。
「あ、あの! ありがとうございます、ジークさん! 黒王蟲の件もそうですが、なんでも僕の捜索にも手を貸して下さったらしく……」
「ん? ああ、気にしなくていいぜ。俺がやりたくてやった事なんだから」
そう言ってニカッとした笑顔を見せる。
やはりいい人だ。それにカッコいい。いやでも憧れてしまうなぁ
「ヒロ君、余り近付かない方がいい。彼は英雄級であり勇者であることでも知られているが、生粋の“男色家”としての方が有名な奴だからな」
「……? だん……?」
「要はコイツは“ホモ”ってことニャ」
「ホッ……!?」
それを聞いた瞬間、背筋に悪寒が駆け巡る。
無意識に尻の穴が、その貞潔を守るために収縮しているのが分かった。
「おい待てよ! 俺はホモじゃねえ!」
ジークさんは頑なに否定している。
そ、そうだよな。ジークさんみたいな人がそんな特殊な性癖を持っているはずが……
「俺はホモじゃなくてバイだッ!!」
結局大して変わらないじゃねえかーーー!!!
ショックを受けていた僕の心も、再出発するころにはすでに立ち直っていた。
僕達は再びブォワホレの森の奥地にあるという洞窟へ向け、歩みを進めている。
今度は紅蓮もいる。そして何より英雄級のジークさんまでいる。
たとえどんな相手だろうと怖くはない。
「それはそうと、同行してくださってありがとうございます、ジークさん」
「構わねえよ。俺もちょっとこの先に用事があったんでな。それより普通に話してくれ。敬語なんてくすぐったくてたまったもんじゃねえ」
「そうだぞヒロ君。こんなヤツに敬語なんて使うべきではない」
「おいテメー、それはどういう意味だ?」
「さあ? どういう意味だろうな?」
また始まった。いい加減にしてほしいものだな。
そう思っていたその時―――
「シュゥゥゥゥウウウウウ!!!!」
僕らが歩く道の脇から、空気が抜けるような奇妙な鳴き声と共に突如として蟲が襲い掛かる。
八本の肢、八個の眼、膨らんだ腹。見間違える筈もない、襲ってきたのは巨大蜘蛛だ。
蜘蛛だと認識するのは何とかできたが、如何せん反撃も回避もできるような猶予はない。
ダメだ、やられ―――
「“凍結剣”!!」「“大連斬”!!」
次の瞬間、巨大蜘蛛は幾つもの氷塊に姿を変える。
僕は蜘蛛だった氷塊が地に落ちていく様を、呆気に取られながら眺めることしかできなかった。
「「ヒロ君! 大丈夫か!?」」
二人の声によって漸く意識が戻ってくる。
それと同時に一瞬で巨大な蟲を屠った二人の勇者の実力に舌を巻く。
エピーヌの力は一度戦ったことがあるから分かっていたつもりだったが、これほどの実力を秘めていたとは。
「あ、うん。二人のお陰で怪我もないよ」
「「良かった……ん?」」
仲の良い双子のように生きぴったりに話していたと思えば、また二人の間に険悪な空気が流れる。
「……ジーク、ヒロ君を救ってくれて感謝する。まあ、私一人でも十分だったけれど、な」
「それはこっちの台詞だ。あの蜘蛛は俺のジェリダが先に仕留めた。オマエはその後にチマチマと切っただけだろ」
「相当目が悪くなったのだな。私のスキルがヤツを絶命に至らしめたと気付けないとは」
「あぁ?」
「はあぁ?」
犬猿の仲とはこんなものなのだろう。
慣れとは怖いものだ。最初は二人のやり取りを見てハラハラしていたが、今となっては既に慣れてしまっている。
その二人を見ながら、ふとあることを思い出す。
そのことを問うために仕方なくだが二人の仲裁に入る。
「まあまあ。それよりエピーヌ、あれほど動き回っていたけど傷はもういいの?」
「ちょっ、ヒロ君! それを今こいつの前で言うな!」
え? 何かいけなかったのか?
そう思ったが、ジークのあくどい笑顔を見て理解できた。
自分の弱点を嫌いな相手に知られるのは誰だって嫌だろう。
とはいっても、言ってしまったものは仕方ない。エピーヌには覚悟してもらおう。
「エピ〜ヌ〜〜、オマエ怪我してたのか〜、そうなのか〜。通りで動きが鈍いと思っていたんだよな〜。なあ、誰にやられたんだ? ん? 言ってみ? ん?」
「お前に話す義理などない。それより、私も一つ聞かせてくれ。こんな手負いの女相手と同等の動きをしていたと知った今の気持ちを。なあ、どんな気持ちなんだ?」
「お? やんのか?」
「負傷中の私で良ければ相手になるが?」
これで本日何回目だろう? 歩行中を含めると二桁に行きそうだ。
また仲裁に入るのも手間だ。
どうするか先程から空気になっているシャトンに聞いてみるとしよう。
「これ、止めるべき?」
「もうほっとけばいいんじゃニャい?」
だそうなので僕は傍観することに決めた。
あれから数十分経った。
二人はまだ口喧嘩を続けている。
時折蟲共が襲ってきたが二人があっという間に倒し、そしてそれをダシに口喧嘩を再開する、ということを何度も繰り返している。
しかし、誰かがそろそろ止めなければならない。
早めに洞窟に着きたいというのもあるが、何よりこのままでは二人が真剣での戦闘に入りかねない。
その為に腰を上げようとしたところで、二人の間に動きがあった。
「―――ッつつ!」
白熱しすぎた為か、エピーヌが痛みで見を少しよじっている。
そこに一番に心配に入ったのは僕ではなく、口喧嘩をしていた筈のジークであった。
「おい、大丈夫かよ」
「お前に心配などされなくても……イツツ」
「ったく、無理すんじゃねえ。ほら、怪我したとこ見せろ」
そう言うとジークは手に持っている剣を高く振りかざす。
一体何を……?
「癒せ、守護なる剣。184番、治癒剣“クラッティオ”」
ジークが唱えると振りかざしていた剣は消え、代わりに新しい剣が姿を現す。
その剣には刃は付いておらず、柄に葉のような意匠が加えられた一品だ。
いや、その剣についてはどうでもいい。
僕が気になる、というより僕が信じられないのは“剣が消え、別の剣が現れた”という奇術じみた現実だ。
「怪我してんのは背中か?」
「ああ、そうだ。それと骨にも所々ヒビが入っているらしい」
「要は全身じゃねえか。ったくよぉ、そんなのでよく今まで動けていたな。そのままにしていろ、すぐに済む」
「……済まない、助かる」
ジークが剣を彼女にかざす。
すると剣身が淡い緑色に輝く。その光はエピーヌのもとに降り注ぎ彼女の傷を癒やし始める。
その光はまるで聖母の癒やしを思わせた。
十分もせずに治療は終わる。
完全に治ったか分からないが、エピーヌは前より元気そうだ。
そう思っていたところにジークが僕に話しかけてくる。
「ヒロ、次はオマエの番だ。左腕が折れていただろ?ちょっと見せてみろ」
「あ、ああ」
折れた左腕を右腕で支えながらジークの前に出す。
彼はエピーヌにしたのと同じように剣を僕の腕にかざす。
そうするとまたもや先程の光が降り注ぐ。
僕の場合、左腕だけなのでエピーヌの程時間はかからないだろう。
それでもやはり暇なのは変わりないので、少し先程の奇術について聞いてみることにした。
「ジーク、さっき一瞬で剣を取り替えていたけど、アレどうやったんだ?」
「んー、アレか? ありゃあ俺の固有能力だ。先代勇者のアビリティの話、知ってっか?」
先代勇者。確かどこからか現れ、魔王を倒し、そしてどこかへ行ったというあの勇者か。
そういえば、その勇者は五つの固有能力を備えていて、それは今の五人の勇者候補に受け継がれているって話だったな。
「ああ、知っているよ。エピーヌの完全透写がそれだろ?」
「知ってんなら話は早い。俺のアビリティもそれでな、万剣の鞘つって登録した武器ならほぼ無制限に異次元に保管できんだよ。ジェリダやクラッティオを含めて、現在俺は998本もの武器を保管している」
「九ひゃっ……て、ええ!?」
ジークが保有しているという武器の数を聞き、驚きを隠せない。
圧倒的なスケールに僕の頭は軽くショートしている。
およそ千の武器をこの青年は異次元に内包しているというのか。
「驚いてくれたようだな。……っと、もう傷が治ったみたいだ。案外早く済んだぜ」
そう言ってかざしていた剣を僕の腕から離す。
治ったとは言っていたが、少し前より痛みは引き始めていたのであまり実感がわかない。
試しに折れていたであろう箇所を指で強めに触れてみる。
……痛みはない。指を腕に這わせてみても、折れているような感触はない。
手を開いたり閉じたり、拳を回してみたりしても何ら異常は見つからない。
凄い、あの数分で完治に何か月もかかるような骨折を治してしまったのか。
僕は治った左腕を見て感心しながら、ふとある事を思い出す。
「そういえばジーク、確か来る途中で『この先に用事がある』みたいなこと言ってなかった?」
「ん? ああ、言ってたな」
「それってもしかして、この先の洞窟に珍しい剣がある、とか?」
それを聞くと彼は目を丸くして呆ける。
あれ?違った?と思った瞬間、その静寂を瓦解させるように笑い出す。
「あははは、すげえなオマエ! その通りだよ、俺はこの先の洞窟に隠されているという絶世の名剣“デュランダル”を探しに来たんだ」
デュランダル、確かゲームとかで聞いたな。
なんでもこの世の全てを切り、折れることのない正に絶世の剣、だったか?
しかし、そんなもの本当にあるのか?
デュランダルなんてゲームの中の空想上の武器だろ?
「なあ、こう言っちゃ悪いけど、そのデュランダルは実在するのか? 空想の産物とばかり思っていたけど……」
その言葉に彼は『何言ってんだコイツ』とばかりに眉を動かす。
その後、何か納得したように手を叩く。
「あー……そういえばエピーヌの奴が異世界人て言っていたな。なあヒロ、オマエの知っている伝説の武器、思いつく限りでいいから言ってみろ」
「え、あーと、エクスカリバー、バルムンク、グングニル……くらいかな?」
取り敢えずゲームに出てくるようなメジャーな武器を上げていく。
彼はその一つ一つをよく確認した上で、子供にプレゼントでもあげるような笑みで僕に告げる。
「その全部がこの世界に存在している、つったら?」
「なっ……!?」
その事実を聞き驚愕する。同時にここが異世界だと再確認する。
モンスターや魔法だけでなく伝説の武器まであるのか……!
ああ! 僕は今夢に憧れる少年の顔をしているのだろう!
だが僕はそれを止められない、止めようとも思わない。
この素晴らしい現実を前に興味の無いふりをすることこそ失礼に値する。
「元々コッチとアッチは非常に行き来しやすかったらしい。今でこそ特別な理由がなければ移動はできないんだが、昔はかなりその境界が緩かったのだと。
だが、いつの日か二つの世界は離れてしまった。片方は神秘が生き残り、片方は神秘が死に、あり得ない歴史は伝説となった。
つまり、そっちにとってのお伽噺はこっちでは歴史になっているってことだ」
「そうだったのか……」
僕がそのことに感心していると、夢想から覚ますようにエピーヌが声をかけてくる。
「ヒロ君、ジーク、そろそろいいか? 奥地に長居はできんからな。準備ができ次第出立しよう」
「はいはい、わあったよ。さて、案内頼むぜ村人様」
彼女の言うことは尤もだ。
ここはダンジョンの奥地“害蟲の楽園”。
まだ日は高いとはいえ、活動しているモンスターは少なくない。
夜になればその数はさらに増えるだろう。
なるべく早く天寿草を見つけ、ココから出なければならない。
ならないのだが……
「……エピーヌ、ちょっといいかな?」
「どうした?」
「急がなきゃいけないのは分かっているけど、でも一つだけ頼みがあるんだ」
時間がないのは分かっている。
日のあるうちに撤退しないといけないのは百も承知だし、それにウィザの様子も心配だ。
だけどやっておきたい事が一つ増えた。
「ジークの用事の手伝いをさせてくれ」
僕の言葉に異を唱えたのは、予想通りというべきか、ジークであった。
「お、おい待ってくれよ! オマエ等は確かウィザってやつの為に急いで天寿草を持って帰らなきゃいけないんだろ!? 俺は一人でも十分なんだから、オマエ等は自分のことだけ考えとけ」
「それじゃあ助けてもらった恩を返せないじゃないか。それに天寿草もデュランダルも皆で探せばすぐに見つかると思うし。
ね、いいでしょエピーヌ?」
自然に彼女にふったのはいいものの、正直彼女が賛同してくれるかは半々だ。
快く了承してくれると助かるんだけど……
「……はあ。元々は盗品を奪い返して終わる筈だったのが、まさかそれを盗んだ怪盗を助けることとなり、今度はその先で剣探しか……」
「うっ……」
痛いところをついてくる。
確かに、成り行きとはいえウィザを助けるため、来る予定のなかった奥部まで連れ回され、その上そこでたまたま出会った嫌いな相手の頼みまで受けてくれだなんて自分勝手な話だろう。
やはり虫がいい話だったか?
「とはいえ、ここまで来たのも何かの誼だ。今更用事の一つや二つ、増えても何ら問題はないだろう。何より君の頼みだ、喜んで引き受けさせてもらうよ」
「エピーヌ……!」
よかった、ここで『駄目だ』なんて言われたらどうしようかと思っていた。
しかし、胸を撫で下ろす僕に対し彼女はその行動を切り捨てるかのように話を続ける。
「私はいいとして、シャトンはどうするんだ?」
「あっ……」
ヤバい、完全に忘れていた。
恐る恐る顔をシャトンのいる方向へ向ける。
向けた先には不機嫌の表情を惜しげもなく晒しているシャトンの姿があった。
「……あのー、シャトンさん?」
「お前、私の事忘れていただろ?」
「…………」
図星を突かれては言い訳のしようがない。
だってその通りだもん。僕が悪いんだもん。
自分の非を認めながらも素直に謝ることもできないので、目を逸らし黙秘に徹する。
といっても、このままじゃ埒が明かないので数刻遅れて頭を下げる。
「……すみません、忘れていました」
「まったく。別に私もその剣探しに付き合うのに異論はないニャ。但し、メインは天寿草探し、剣探しはサブだニャ」
「ハイ、それでお願いします……」
何も言えない僕はイエスマンと化す。まあ、彼女の出した条件に不平不満はないので別にいいのだが。
これで取り敢えず全員の総意は決まった。
いざ、天寿草を求めに、デュランダルを見つけに、洞窟へと往かん!!
ジャングルと言っても差し支えない森の中を掻き分け掻き分け進んでいく。
それは突然現れた。
ぽっかりとあいた巨大な穴。全長は一番大きいところで十二メートル程か。
それは山肌に開いた洞窟というより、地が裂けてできた自然の落とし穴と言った方が正しい。
昇り降りが可能であるほどの斜面はあるが、その奥は闇に包まれている。
その様はまるで地獄の入り口を思わせた。
「周囲にほかの洞窟はニャい。ここで間違いなさそうだニャ」
「ああ、ここはブォワホレの森に一つしかない洞窟、人呼んで“グハッツ洞窟”だよ。全二十階層からなる第一級探索地だよ」
僕の口から自然と言葉が漏れ出てくる。
どうやら無意識のうちに“地理理解”を発動していたらしい。
洞窟の情報が次々と頭の中に入り込んでくる。
「それが“地理理解A”の力か、想像以上だな。ヒロ、その情報を表示することはできるか?今後の作戦で参考にしたい」
「いんでぃ……何?」
「表示だ。ステータスの確認と同じ要領でやってみろ」
ステータスの確認、それを言われて思い出すことがある。
それは異世界に来て二日目の事、ギルドで知ったある事実。
(僕、ステータスの確認できないじゃん!)
よくよく思い出してみたら、僕は皆のように“ぽっ”とステータスのポップアップを表示させることができない。
今までステータスの確認は自身に解析をかけて難なく過ごしてきた。
しかし、僕もここに来て数ヶ月、流石にできるだろう。できると信じたい!!
先ずは行動あるのみだ。
右手に全意識を集中させる。そして強く念じる。
(出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろーーーーーーーーー!!!!!)
「……? 何をしてんだ、ヒロ?」
駄目だ、全く出てくる気配がない。
後ろからの視線が背中に突き刺さっているのがよく分かる。
もういっそ『実はステータスの表示すらできませ~ん。ごめんね、テヘ♡』とでも言ってしまおうか。
……いや、流石にそれはだめだろう。
といっても表示ができないなんてとても言えない。
どうする? どうする!?
〔なんだ、そういえば表示ができないんだったな〕
冷や汗をだらだらと流す僕に天のお告げに等しい声が聞こえてくる。紅蓮だ。
そうだ、コイツに頼めばなんとかしてくれるかもしれない!
(紅蓮! 頼む、何とかしてくれ!!)
今まさに五体投地を行うが如き勢いで紅蓮に頼み込む。
いや、マジでお願いします何でもしますから
〔前々から思っていたけど、君、私の事を便利屋か何かと勘違いしてないか? まあ、断る理由もないから協力はするがね〕
紅蓮が言い終えるといきなり僕の目の前にポップアップが表示される。
ポップアップには幾つも重なった3D表示の地図が描かれている。
間違いない、“地理理解”で確認したグハッツ洞窟の見取り図だ。
(ありがとう! 助かったよ紅蓮!)
〔表示のコツは余り力を入れすぎない事。一度感覚を覚えればあとは簡単にいくと思う。
それよりさっき、何でもするって言ったよね、君〕
(え?)
ああ、確かに言った気がする。
でもそれは言葉の綾じゃん。単なる冗談じゃん。本当に何でもするわけ―――
〔問答無用だ。内容は後で決めておくから楽しみに待っている事だ〕
ちょ、紅蓮待っ―――ああくそっ、逃げられた。
まあ、取り敢えずは地理理解の表示もできた。
皆も待っている事だろう。早く報告して作戦を練るとしよう。
「―――なるほど、かなり入り組んではいるが、迷うような難解な道は無さそうだ。しかし問題は……」
「天寿草がありそうな場所と目当ての剣がありそうな所がかけ離れているな……」
地図を見て初めてぶち当たった問題、それはルートが途中で大きく分かれている事だった。
天寿草があるであろう場所は洞窟の上層部、十階層まで潜り再び上へと戻る道である。
対してデュランダルが眠っていると予想される場所は洞窟の最深部、大広間の先にある小部屋だろう。
どちらも得ようとなると確実に日を越す作業となるだろう。
そうすると必然的に今日の寝床は危険な洞窟の内部となる。
そんなことになればモンスター共の格好の餌食だ。
こちらには勇者候補が二人、そのうちの一人は英雄級だ。
頼もしい仲間はいるが、それでもやはり命を危険に晒すことになるだろう。
それは避けねばなるまい。
「ここは、ジークに悪いが天寿草探しに専念させてもらうとしよう。一度戻った後に再突入、これが一番だろう」
「ああ、仕方ねえな。一刻も早く手に入れたいが、人命の方が優先だしな」
二人は既に二回に分けての突入の方向で話を進めている。
確かにその方が被害は少なく済むだろう。
しかし、それだと時間がかかってしまう。
できるものなら用事は一気に済ませてしまいたいのが人間の性だ。
なんとか早く終わらせたいものだが……
「あのさ~、私は何回もここに来たくニャいんだけど~」
「無理を言うな、シャトン。夜を迎えてしまえば危険度は跳ね上がる。それは分かっているだろう」
「分かっているニャ。だから昼間のうちに終わらせてしまえばいいニャ」
……? 何を言っているのか全く分からない。
昼間のうちに終わらせる……? それができたら苦労はしないっつーの。
「あのさぁ、セカンドデミちゃんさ、できたら最初からこんなに悩むことはねえって。オマエさんは一体何が言いたいんだ?」
「どっちも全員で行くから時間がかかるのニャ。だから二手に別れて進めばいいんだニャ」
「「「……あー」」」
盲点だった。確かに二手に分かれて、片方は天寿草を、もう片方はデュランダルを探せば日を越すことは無いだろう。
「よし、それで行くとして、じゃあどうやって分けるんだ?」
「やっぱ……これだろ」
ジークが握りしめた拳を見せる。
これは……あれか。グーとパーで二組を作る伝統的で公平的な方法。
この異世界にも通じていたのか……!
「それじゃあいくぞ……せーのっ!」
「グッチョンパッ!」「グッパでわかれっ!」「グッパージャス!」「じゃんけんぽんっ!」
「「「「……ん?」」」」
……あぁ、これはあれだ。やっぱ地方によって言い方変わるんだ。
というかエピーヌに至っては分かっていなかったようで堂々とチョキを出している。
このあと誰の言い方で決めるかとか、決めたとしてどうもタイミングがしっくりこないとかで少々揉めたが、何とか二組は作れた。
天寿草捜索チーム:エピーヌ、シャトン
デュランダル探索チーム:ジーク、ヒロ
天寿草を探しに、そしてデュランダルを見つけに、僕等はダンジョン“グハッツ洞窟”へと入っていく。




