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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第二章 誉れの詩〜騎士と魔女編〜
24/120

第24話 二人だけの部屋

 とある町のとある宿泊施設、そこの一室から大きな悲鳴が響いてきた。



「いっっったぁぁああーーーーーーーいぃ!!!!!」

「我慢してくださいよ、エピーヌさん。コレ(回復薬)付けなきゃ余計に痛い目を見るのは貴女なんですからね」



 ここはウィザ達“宵闇の怪盗団”の潜伏先であるブォワホレの森、の手前にある町だ。


 何故僕らがここで休んでいるかというと、外を見ればわかる通り、既に夜も更けてきているからだ。

 このような暗闇の中、猛獣がひしめき合う森の中に入るのは賢明ではない、ということで日を改めて突入することとなったのだ。

 そしてその間、待機かつ療養かつ英気補充かつ馬車馬の休憩の為にこの宿に泊まることとなった。


 そう、泊まることとなったのだ。

 まだそこまではいい。何故なら正当な理由があるからな、仕方ないな。

 そして、いざ宿泊しようとロビーの受付に話をすると、既に殆ど満員で、残っているのは一室しかなかったのだ。しかもベッドが一つの部屋。

 つまり今夜はこの一人用の部屋で僕とエピーヌさん、男と女が仲良く一緒のベッドで寝ることとなる。


 いや、そこまではまだいい。何故なら僕が床でも椅子でもベッド以外で寝ればいいだけの話だからな、是非もないな。

 で、ここからが問題だ。



 彼女は昨夜の戦闘で背中に大きな怪我を負っている。

 それは一日や二日で治るものではなく、その間常に回復薬を背中に塗る必要がある。

 とはいえ背面だとそう簡単に薬を塗ることはできない。

 そこで僕の出番だ。彼女の手の届かない部分に薬を塗る事を彼女自身から任されたのだ。

 僕はそれを快く了承した、してしまったのだ。


 僕は“背中の傷に薬を塗る”という事を全く理解していなかった。

 彼女の傷は背面のほぼ全体に渡る。その傷に薬を塗るとなると、当然服を脱がなければならない。

 その事は少し考えれば分かるはずだ。いや、頭の片隅にはその事は浮かんでいたかもしれない。

 だというのに、ああ、僕は愚かな判断を下してしまった。



 長々と語ってしまったが、僕が本当に言いたい事、僕の犯した過ちは“薬を塗るくらい大丈夫だろう”と()()()()()()()()事であった。


 僕は目の前の美しい上半身を曝け出した女騎士を見ながらそう思う。

 なんでこうなった。



 彼女は膨らんだ胸部を隠してはいるが、手で覆い隠せない膨らみは僕を魅了し惑わせる。

 薬をすり込む度、妖艶な声が出てくる。


「あっ……ヒロ、君……。そこ、は、デリケー、トな部分だ、から優し……くっふぅ……」


 大丈夫です、薬を塗っているだけです。


 目の前には、鍛えられつつも線の細い背中を惜しげもなく露わにしている女性が一人。

 その顔は(痛みのためか)赤く紅潮している。

 僕が(薬を塗るため)その背中に触れると、彼女の体は(痛くて)ビクンッと跳ねる。

 それを無視し、僕は(薬を塗り込むため)背中を撫でる。その度に彼女は(痛みに耐えるため)声を漏らし身体を震わせる。

 僕がその細い背中から手を離すと、彼女はこれ以上(薬を塗ったり)しないと思ったのか、潤んだ瞳でこちらを見つめる。

 その彼女の期待を裏切り、もう一度触れる。そうすると彼女は一際大きく跳ねてくれる。

 これを何度も繰り返す。



 ……こう言っては何だが、彼女の一挙手一投足が兎に角エロい。

 健全な年頃の男子には刺激が強いくらいにエロい。

 とはいえ、これはあくまで医療活動だ。複雑な気分になりはすれど、そこに不純な動機を持ってはいけない、と先程から強く自分に言い聞かせている。




 そんなこんなでようやっと今日の分の回復薬を付け終わる。


「はい、終わりましたよ、エピーヌさん」

「はあ、はあ、はあ、やっと終わったのか?」

「はい、やっと終わりました」


 彼女も大変なのだろうが、こちらも大変だった。抑える意味で。


「包帯は自分で巻けますか、巻けますよね?」

「ああ、これぐらいは自分で出来る。そこまで君に世話をかけられないしな」

「よし、分かりました。じゃあ僕はあっちを向いてますね」

「ああ、助かる」


 そういうことで僕は壁の隅とにらめっこすることとなった。

 後ろからは彼女が包帯を巻く音や声が聞こえる。


「よっと、ああ、くそ。こうやって……ああ、まただ」

「……」


 多分最初の一周目で苦戦しているのだろう。

 最初は抑えなければいけないぶん、苦労するのだ。


「これをこうやって、と……よし、できた!」

「………」


 お、案外早く出来たようだ。

 あとは大丈夫だろう、と思っていた自分が甘かった。


「それじゃあ、あとは……いつつつ! ……あぁ、また最初からだ……」

「…………」


 背中の痛みで包帯を緩めてしまったのか、振り出しに戻ったようだ。

 これでは早く終わることはないだろう。

 かなりもどかしいが手伝えることはないだろう。

 というか手伝っては問題になりそうで怖い。

 もどかしさの余り無意識に貧乏揺すりをしていることに気付いたのは今頃になってからだった。


「これをこう……あぁダメだ。もう一回……あいつつ! またダメか……。えぇと、これをこうして……」

「ああもう!! 貸して下さい!! 手伝いますよ!! 手伝わせて下さい!!!」


 何度も何度も失敗している様子を聞いていて、ついに僕の堪忍袋の変な所の緒が切れた。

 半ば強引に包帯を彼女の手から取り、腹に手を回し包帯を巻き始める。

 “問題になる”なんて知ったことではない、僕は僕のやりたい事をやらせてもらう。




 ―――何とかして、エピーヌさんとの協力もあり、無事に包帯を巻くことに成功した。

 包帯を巻くだけでどっと疲れた。今日は早く寝よう。


「あの、ヒロ君。先程はどうも、助かった」

「え? ああ、はい。気にしないで下さい。それよりもまだ傷は痛むんですね」

「ああ、まだかなり突っ張る。それに骨の方も完全にくっついている訳ではないらしい。戦闘はなるべく避けた方が賢明だな」


 そう言いながら、ふと、何かを思い出したような表情を見せる。

 何故だろう、何か嫌な予感がする。

 そういう時の予感はよく当たると相場が決まっている。

 僕は適当に『ちょっとトイレへ』とでも言って逃げようとするが、それよりも早くエピーヌさんが発言する。


「ヒロ君、ちょっとベッドの方へ来てくれないか?」

「えっと……僕は今からトイレに……」

「なに、すぐ終わる。それに君は先程トイレに行ったばかりなのだから、そこまで溜まっている訳ではないだろう」


 そういえばさっき行ったばっかだった。

 というか女性レディが溜まってるとか言ってはいけません。


「いいから、ほら。本当にすぐ終わる」


 手を細かく動かし、来い来いと言わんばかりに招き寄せる。

 依然一抹の不安は拭い取れないが、渋々と彼女の腰掛けるベッドの方まで歩いていく。


「それで? どうしたんですか?」

「まあ、取り敢えず、()()()()()()()


「は?」と聞き返すのが早いか、彼女は僕の服の裾を掴み脱がそうとしてきた。


「ちょちょちょっ! 待って下さい! 何で急にそんな!?」

「ええい、抵抗するな! 大人しく脱がされろ!」

「キャーーーーー!!!」


 僕は必死に彼女の手を掴み脱がされまいとするが、エピーヌさんの力は想像以上に強い。

 怪我人のくせに何でこんなに力があるんだよ!?


 必死の抵抗も虚しく僕はベッドに組み伏されてしまう。

 その構図は僕がエピーヌさんに押し倒された形を取っていた。

 彼女の視線は真っ直ぐと僕の瞳を捉えている。


 僕の内には感じた事のない感情があった。

 恐怖、といえばそうであるが今迄とは違った恐怖だ。

 恐怖を感じているというのに、その中に僅かながらも期待とも高揚とも取れる気持ちがあるのを感じる。


 ああ、これが“貞操の危機”というものか。

 僕は受け入れる訳でも拒否する訳でもなく、ただ自身の赴くままに、叫ぶ。


「イヤァーーーーーーー!!!!」

「女々しい声を出すな! ただ私は()()()()()()()()()だけだ!!」

「ァアーーーーーーアアア、ア……あ?」


 彼女の言葉が何度も耳の中を反響する。

 その度に僕の内にあった変な感情も収まってゆく。

 その代わりに先程までのやり取りの真意が見えてくる。

 ……もしかして僕はとても恥ずかしい勘違いをしていたのでは?






 エピーヌさんが言っていた意図を理解し、今度は僕が上半身裸で彼女の前に立っている。

 転生した身体の為、以前とは違い人に見せても恥ずかしくない肉体をしていると自負しているが、いざじっくり女性に見られるとなると、多少の羞恥心は否めない。

 そんな顔が赤くなっているであろう僕を放っておいて、エピーヌさんは何やら呻きながらまじまじと観察している。


「むうぅ……」

「あの、もういいですか?」

「いや、ちょっと待ってくれ。……うぅむ。ヒロ君、済まないが少しだけ触っても良いだろうか?」

「まあ……はい、別に良いですけど」


 感謝する、と小さく礼を言いながら、彼女はその細く綺麗な指を僕の脇腹に触れさせる。

 ひんやりした感覚と小筆で撫でるような細い感覚が相まってこそばゆい。

 くりくりと三回ほど指を動かすと、満足したのかそっと指先を皮膚から離す。


「……もう良いんですか?」

「ああ、確かめたいことは済んだからな」

「確かめたい事って……というかなんで急に“裸が見たい”なんてこと言い出したんですか?」


 気になっていた疑問をぶつけてみる。

 言われるがまま服を脱いでいたけれども、そもそも何故裸を見せなければいけなかったのか、その辺りの理由を聞いていなかった。


「は、裸が見たかった訳ではない。私は傷の様子を見たかっただけだ」

「傷……?」

「ああ、そうだ。君は昨日の昼に私に脇腹を突かれていただろう。その傷だ」


 そう言われてみるとそんな事もあった。

 昨日今日は色んな事があったから、エピーヌさんとの決闘も遠い過去のものだと思っていた。

 実際は僅かに一日半余りか、それほど短時間であった事を今更ながら思い出す。


「で、それがどうかしたのですか?」

「まだ気付かないのか? 君はその傷の他に様々な傷を負っていた。それもまともに動けないほどに。だというのに君は()()()()()()()()()動けるまでに回復していた。それを不思議に思って君の体を診させてもらったのだ」


 その話を聞いてまた改めて気付かされる。

 ふと自分の脇腹を見てみる。そこには確かにレイピアに刺された跡がある。

 しかし、それはもう完全に塞がっており、刺された事は跡としてしか残っていない。

 それは明らかに()()()であった。


 細いことで有名なレイピアとはいえ、深々と刺したなら全治には長い時間がかかる事だろう。

 それも体を貫くほど深く刺されたとなれば、治るのに最悪数ヶ月はかかることになる。


 だというのに僕は数時間程で自由に走り回れるまでに回復していた。

 その時は襲撃されていた事やエピーヌさんの助けになりたい事で頭が一杯だった為に変だと思うこともなかった。

 だがそれは普通に考えてみると異常であるのだ。


「やっと解ったようだな。そう、君は今ここにいること自体おかしいのだよ。君の傷は既に完治している、刺し傷も骨折も打ち身も全てだ。当然普通の人間ならば、いやどんな人間でもこの短時間であらゆる傷を完璧に癒やすことはできない。なら()()()()だとしたら……?」


 エピーヌさんの最後の一言は、僕にとって天啓にも値する一言となった。




 “人間以外”、その言葉は僕の頭の奥にあったある事と結びつく。

 エピーヌさんとの決闘の後、“白い世界”で紅蓮から告げられた言葉、鬼人モードの弊害、“使い続けることでバケモノになる”という真実だ。


 恐らく僕の体は人間では無くなってきている、だからこそこの異常な回復力が身に付いているのだ。

 その事実は僕を恐怖させる。既に、僕は人外に成りかけているのだ。


「……何か、心当たりがあるようだな」


 エピーヌさんの一言で恐怖の淵から現実へ引き戻される。


「私は君を信じている。とはいえ完全に信頼しているとは悪いが言えない。その回復力も含めて、その齢で影魔導を使いこなすことや“鬼人モード”と言っていた技能スキルとはまた違う身体強化、そして何より決闘の最後に見せた異様な姿。いずれも常人ならざるものだ。解る範囲、言える事だけでいい。君は一体何者なのだ?」


 ……伝えるべきか、僕の体が怪物の域に足を踏み入れていることを。

 いや、言うべきなのだろう。その方が彼女も驚きこそすれ理解してもらえるだろう。

 それに僕のこのどうしようもない不安も話してしまえば少しは和らいでくれるだろう。


 いざ伝えようと言葉を出そうとする。だが何を言ったものか、言葉を紡ごうとしても糸が雁字搦めになってしまう。

 何から伝えればいいのか、何を伝えればいいのか、そもそも言った所で信用されるのか、信じられたとして僕は彼女に怪物として扱われるのではないだろうか。


 紡がれない言葉の糸は、悪い予想という鎖に成り代わって連なっていく。


(ただでさえ数時間で傷を癒すという異常。それに加えて僕の中にもう一人人格があって、そいつが鬼であり、そいつのせいで僕が鬼に成りかけている。そんな更なる以上を伝えた所で信じてもらえる筈がない。ならいっそ……。いやでも……)


 伝えるべきか伝えぬべきか、僕が散々迷っているとエピーヌさんの方から話しかけてきた。


「なんてな」

「……へ?」

「君が何者だろうが関係ない。確かに君は異常な力を持っているようだが、君は君だ、その何者でもない。逆にその回復力は誇ってもいい物だと私は思うね」


 彼女は軽くそう言ってのける。

 その言葉は僕にとって光明となった事を彼女は知る由もないだろう。


(ああ、そうか。この人にとって僕が迷っていることなんてどうでも良いのだ)


 迷いが消えていく。迷っていた自分がばからしく思えてきた。

 最初から信じないとか怪物扱いするとか、そんな可能性は微塵も無かったのだ。

 この人は馬鹿が付くほど誠実な人間なのだから。


「そろそろ寝よう。明日はブォワホレに突入するからな。寝れる時に寝ておかなければ」

「……もう少しだけ待ってくださいエピーヌさん」


 就寝しようとする彼女を引き留める。

 やはり、どうしても、話しておかなければならないだろう。

 否、話さなければ気が済まない。


「全て話します。この力の正体を、僕が何者なのかを」






 日が変わる一時間程前、僕はエピーヌさんに全てを話す。

 異常な回復力の要因、僕に潜む紅蓮という名の存在、そして僕が怪物に成りかけている事、全てをだ。


「……にわかには信じられんな」

「僕も誰かから聞かされたのなら信じないでしょう。でもこれは僕に起こっている事実です」


 エピーヌさんは呻いたまま、考え込んで動かない。

 無理もない。急に不可解な現実を突きつけられたら誰でも戸惑うものだ。

 そう思っていると、考え込んでいたエピーヌさんが僕に話しかけてきた。


「ヒロ君、その紅蓮というやつに解決策は訊けないものなのか?」

「え? え、あっと、わ、分かりません。アイツが現れるのは不定期ですから……って、信じてくれるんですか?」


 不意の事で自然と答えてしまったが、遅れて彼女がこんな突拍子もない話を信じてくれたことに反応を見せる。


「……? 当然だろう。君が言った事だ、冗談とは思えない」

「で、でも、到底あり得るような話でもないと思うんですが……」

「それでも、だ。言っただろう、“私は君を信じている”と」


 ……やはりユーリと同じ勇者候補の一人だ。

 子供のホラ話のような事でも“信じている”というだけで易々と鵜呑みにするとは。

 だがそれは僕にとっては有り難いことだった。

 肩の重みがすっと取れたように感じる。


「ところで、その話を知っているのは私と君だけか?」

「えぇっと、紅蓮の話は僕と親しいパーティの四人は知っています。でも“鬼人モードの弊害”の話はまだ誰も……。僕も知ったのは昨日方なので―――」


 そこで僕の話は窓を叩く音で遮られる。

 何度かこの経験をしているので外に何が居るのかは大方察しはつく。

 確認すべく目をやる、そこには――やはりと言っていいのか――伝言鸚鵡の姿があった。


「あれは……私のオウムか」


 そう言って彼女はベッドから立とうとする。

 僕は“怪我人が無理をする必要はない”と取りに行こうとする彼女を宥めて、代わりにオウムを迎えに行く。

 窓を開けると夜の風と共にオウムが部屋に入ってくる。


 夜風は傷に響くと思い、窓を閉める。

 鍵を掛け、カーテンを閉め、振り返る頃にはオウムは大人しくエピーヌさんの傍らに立っていた。


「誰からだろう? 再生してみるぞ」


 そう言ってオウムの咽元を掴む。するとそこから発せられたのは意外な人物の声であった。


〔むうぅ……これで良いのかアンリ?〕

〔はい、それで録音はされております〕

〔なら良い。ん、むほん、あーあー、聞こえておるか。聞こえておるならこの我、ルイ=ジョルジュ・ド・フルーランスの言葉を聞くこと許す〕


 オウムの開かれた嘴から聞こえてきたのはルイ王子の声だった。

 とはいえ急になんでオウムなんか寄越してくれたのだ?


〔エピーヌ、そしてヒロよ。これから話す一言一句を聞き逃すことは許さん。これはウィザ捜索と並行してやってもらう命令である〕






 翌朝、僕たちは商店街に買い足しに来ていた。

 ブォワホレの森に突入する為に備えるためだ。


「食料よし、日用品よし、あとは寝巻と熊避けの鈴か」

「……エピーヌさん、昨日のあの話、信じられますか?」

「あの話って、君のか?それとも王子の方?」

「ルイ王子の方ですよ」


 昨夜伝えられた王子からの伝令、それは次のようなものであった。




〔襲撃の夜、ウィザが逃走する際、奴は何者かに撃たれた。それはそこに居るであろうヒロにでも事情を聴いておけ。そこで我はウィザを撃った犯人と予告状を隠蔽した者が同一人物だと断定した〕


〔兄様だけなら言葉足らずなので、僕が訂正させておきます。僕の話も聞いただけの状況証拠なので信憑性は低いですが、道理は通っていると思います。


 まずウィザを撃った犯人ですが、この者は王宮内の者ではないと思われます。仮に王宮内の誰か、例えば近衛騎士の一人だとして、侵入者を撃ち落としたのにもかかわらず名乗り出ないのは不可思議かと思われます。加えて近衛騎士、使用人、貴族、王族、その誰もが件の光線と似たスキルを持ち合わせていない事も部外者による行動だと推測できます。


 次に予告状を隠蔽した者についてですが、こちらも部外者、加えウィザに何らかの因縁を持っている者かと考えられます。王宮内の者ならば予告状を発見したならすぐに誰かに報告なりをするでしょう。なのにしなかったということは、ウィザに何らかの思惑、宝物を奪うことを良しとする者かウィザを秘密裏に侵入させたい者でしょう。内通者の可能性は無きにしも非ずという考えですが、ウィザが撃たれたことを鑑みるとやはり彼女に対して恨みなどを持っている者の犯行かと〕


〔アンリが長々と説明したが、兎に角我が伝えたい事は“王宮内に何者かが忍び込んでいる事”、そしてその者は“ウィザと関係がある者”という事だ。これは由々しき事態だと考えられる。前々から王宮には何者かが侵入していたという事だからな。

 そこで貴様等にはウィザ確保と同時にウィザの身辺調査をしてもらいたい。こちらでも不審者の話は聞いておく。殺したいほどの強い憎しみを持つ者ならばあの魔女も何か知っているだろう。それでは頼んでやろう〕


 以上が伝言の内容だ。




「王宮内に侵入者が、それもソイツがウィザを撃ったなんて……」

「考えられない話ではない、というよりそちらの方が道理に適っている」

「ですけど……」

「ここで考えていても私たちには何もできないだろう。ならまずは目先の目標、ウィザの確保に専念しよう。そのためには準備を怠ってはならない。……お、薬を買い忘れていた。薬屋は……」


 エピーヌさんの言うことは尤もだ。僕たちが考え込んでいても何も始まらない。

 なら彼女の言った通り目先の事だけを考えよう。


「あったあった。ヒロ君、あそこの薬屋に入るぞ」

「……はい、分かりましたエピーヌさん」




 向かった先は町の薬屋。煙突からはモクモクと異様な色の煙が出ている寂れた雰囲気の小さなお店だ。

 入り口には何故か『薬屋』という漢字が崩れたような文字の描かれてある暖簾がかかっている。


「すいません、薬を幾つか買いた―――」

「ふざけるニャ! なんで解呪用の薬が置いてにゃいのニャ!」


 暖簾を潜ると中から客であろう女性の怒声が聞こえてきた。

 暗い店内に薬が所狭しと並べられた空間の先を見ると、怒声の発生源である女性がカウンターを叩きながら禿げた店主に猛抗議をしている。

 女性の姿は暗くてよく見えないが、話し方やちらちらと見える尻尾から猫の亜人デミだろう。

 それにしてもこの声どこかで聞き覚えがあるような……?


「だからお客さん、解呪用の薬はあるっちゃあるんだが、そんな聞いたこともねえような呪いの薬なんて家にゃあないんですよ」

「だ・か・ら! それを“にゃい”と言うんだニャ!」

「まあまあ、大きな街へ注文したら魔術使さんが一週間で―――」

「そんなにょんびりしていたらリーダーが死んでしまうニャ!」


 どうやら面倒な揉め事のようだ。ここは知らんぷりして立ち去って他の店を探した方が良さそうだ。

 そう思いエピーヌさんに進言しようとする。が、横に居たはずの肝心のエピーヌさんの姿が見当たらない。

 少し辺りを見回すと、すぐに揉め事の渦中に挑む彼女の後姿を捉えた。


 エピーヌさんの事だ、ユーリ同様自ら問題に首を突っ込もうとするだろう。

 それを止めようとするが、もう遅い。彼女は女性の肩を掴み、まさに発言しようとする所であった。


「落ち着いて下さい、御二方。何があったか知りませんが相手の言うことを詳しく聞いてみませんと……」

「五月蝿い!! これが落ち着いていられるかニャ! 外野はすっこんで―――」


 女性が振り返る。その顔は領主邸宅で確実に見た顔だった。


「―――あ」

「あ」

「あ」


 宵闇の怪盗団の一人、シャトンがそこに居た。

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