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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第二章 誉れの詩〜騎士と魔女編〜
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第21話 夜の語らい、夜の戦い

漸く一話書き切れました!

長らくお待たせしてすみません!


まだ右腕の調子は悪いので話の間隔が開くかもしれません。ご容赦下さい。

 小さい頃、私は自身の赤い髪が大好きだった。

 完全に真っ赤な私の髪、母とお揃いの真っ赤な髪、私と母だけの真っ赤な髪。

 大好きが過ぎて散髪の際、泣きじゃくって拒否した程に私は自身の髪を愛していた。


 私はフルーランスの片田舎、見渡す限り草原しかないような所で育った。

 父は若くして死んだと聞かされている。

 どんな父親か気になったが、あったこともない故人に特段何かしらの感情を持つことは無かった。


 毎日が楽しかった。

 偶に労働を手伝わされる時もあったが、それでも母と一緒ならそれで良かった。



 私が十三になった頃、ある決意をする。

 騎士になりたいと思った。ユニオス連合帝国の騎士ではなく、この国の王族を守る騎士シュヴァリエになりたい、と。

 その要因は一冊の本であった。フルーランスに伝わる救国の女騎士のお話である。

 その女騎士は赤い髪を靡かせて祖国フルーランスの為に戦ったという。

 私はそれに深く感銘を受けた。


 しかし、母にその事を話すと人が変わったように反対してきた。

 いつもは温厚な母が、その時だけは怒りの形相を曝け出した。

 私には何故その夢が母の逆鱗に触れたのか理解できなかった。

 母の言い分は滅茶苦茶で、そこに道理も理由も無く、王族には近付くなの一点張り。屁理屈で固められた言い訳を連ねる母の姿は、まるで子供の駄々のようだった。


 常に母の言う事には従ってきた私だが、この時ばかりは違う。

 私も負けじと説得しようとしたが母は聞いてすらくれなかった。

 その日初めて母と大喧嘩し、翌日、こっそり単身でパリリーへ旅立った。

 後ろ髪を引かれる思いだったが、私は私が正しいと信じた道をひたすら突き進む事に迷いはなかった。




 無事に入団できた私は、そこで才覚を顕にする。

 メキメキと剣の腕は上達し、数年で師団の中で私の右に出る者は居なくなる程となった。

 周りの近衛騎士たちも良い人ばかりで、交友関係も良好。

 ここまでならば誰もが順風満帆と感じるだろう。

 しかし、実際は違った。


 我等が仕える貴族達からは酷く冷遇された。

 何かしらの手柄を立てても、私自身が評価されることはなく、大概は師団の手柄、時には同伴していた近衛騎士の手柄とされたこともあった。

 特に国王からの待遇は冷たく、無理難題とも取れるような依頼を出されては、私を王宮自体に近付けまいとしていた。


 最初の内は私もこれが普通の事だと受け止めていた為、我武者羅に依頼をこなしていた。

 しかし、通常の近衛騎士の三倍近い依頼を遂行しているにも関わらず、国王は一向に認めてはくれなかった。

 そこで漸く国王は私にだけ白眼視している事に気が付いた。


 とはいえ、一介の騎士が一国の王相手に糾弾する事ができようか。

 私はただ、この不当を真摯に受け止め、出された依頼を言われるがままにこなす事しかできなかった。


 私が察した事に気付いたのか、隠す気もなく不当な態度をエスカレートさせていく。

 ついには私の自慢の髪まで罵倒し、「その髪を私に見せるな」とまで言われた。

 私はその苦汁を舐める日々を耐え忍ぶ事しかできなかった。




 そんなある日、一つの転機となる依頼が私に舞い込んできた。

 その内容は第一王子の護衛、という事だった。

 なんでも王子が「森へ狩りに行くため、我に見合う随一の近衛騎士を護衛に付けることを許そう」と仰り、私を指名したらしい。

 その頃からあの方の性格は変わっておられないのだな。


 入団してから一年半、王族に関わる重要な任はこれが初めてだった。

 森に入るのは私と王子だけ、無事完遂すれば私の評価は否が応でも認めざるを得ない。

 しかし、王子に万が一にでも何かあれば私の首は飛ぶ事になろう。失敗は許されない。


 そう躍起になっていると森のほぼ中央部、人の手が入り込めず原生の姿を残したままの巨木林の辺りで、王子がふと歩みを止める。

 私は王子が獲物でも見つけたのかと思い周りを見渡すが、先程から目にする野鳥くらいしか見つからない。

 そんな私を尻目に、あの方は振り返り私にこう告げた。



『今日、貴君を呼んだのは他でもない。貴君と話がしたかったからだ、エピーヌ。

 否、()()()()()()()()“ローゼ=テレーズ・ド・フルーランス”よ』






「それが二年半前の話だ。そこで初めて、私は国王の妾の子だと知らされた。そして国王が私を忌み嫌っていた事にも合点がいった。知らずとはいえ追い出した筈の赤髪の忌み子が目の前に現れたのだからな、気分の良いものではないだろう」


 ここまでが彼女、エピーヌさんの生い立ちであった。


「……その事はフローラちゃんも?」

「いや、知っているのは私とルイ王子、そして国王陛下と彼と親しい一部の貴族のみだ。王子は当時五歳で、私の母が懐妊していた事を覚えてらしたそうだ。アンリ王子はまだ幼く、フローラ王女は生まれてすらいなかった頃だ。

 あくまで、ここにいる私は一介の近衛騎士のエピーヌであり、王と女中の不義の子、ローゼ=テレーズ・ド・フルーランスは死産したとされた」


 彼女は話を続ける。


「その後はルイ王子の手配で今迄の私の功績は正当に評価され、前団長の引退の後に私が正式にその椅子に据えられることとなった。

 そして一年程前、連合帝国騎士団から勇者候補の一人だと告げられた。近く訪れる災厄を払う、世界を救う勇者の一人だと」



 勇者。そう、彼女もユーリと同じ勇者候補の一人だ。

 と言っても、僕自身が余りこの世界の勇者についてよく知らない。


 以前から気になっていたが、ユーリ達は何の為に勇者候補に選ばれ、そして何と戦うというのだ?

 魔王が存在してそれを倒すのならともかく、ただ漠然と『災厄を払う』だの『世界を救う』だの言われても理解できない。


 なら、直接聞いてみるしかない。

 丁度目の前にはその勇者候補がいる。

 話の腰を折るようで悪いが、意を決して聞いてみよう。


「そういえば、今迄普通に聞き流していましたけど、その勇者候補って何なんですか? それに、“近く訪れる災厄”って一体……?」

「ん? ああ、そうか。君はまだ“勇者伝説”を知らなかったのだね」

「勇者伝説?」

「ああ、それはだな―――」






 勇者伝説、それはユニオスに伝わる英雄譚の一つである。

 アルル・サヴァンという吟遊詩人が著作した叙事詩“創世記叙事詩圏”の最終章“勇者の詩”にその物語は記されている。



 遥か昔、まだ国という区切りは無く世界が一つだった頃、世界は魔界の王、魔王の侵略によって未曾有の危機に陥っていた。

 多くの名立たる戦士が魔王を倒さんと旅立ったが、その全てが魔界に入る前に命を落とした。

 世界は魔王に支配されるのを待つことしかできなかったのだ。


 所がある日、救世主が現れる。

 名をアランという十六、七歳程の少年は、五つの固有能力ユニークアビリティと頼れる三人の仲間と共に難関を潜り抜け、ついには魔王を倒した。


 しかし、その“勇者”はその後忽然と姿を消す。

 一説には勇者は天の使いであり、魔王を倒した後に天に帰ったとあるが事実は未だ闇の中である。


 ここまでが勇者伝説の物語の内容である。

 だが詩は少しだけ続く。


 “勇者の詩”の最後の一節、そこには預言とも取れる内容が記されている。



 〜〈身体は朽ちても意思は朽ちず。六つの悪しき心従えて闇の者目覚めん。光の御子、五つの心を持ちこれを打ち砕かん〉〜






「―――それで、その“五つの心”が五人の勇者候補、という訳ですか?」

「ああ、その通りだ。私達、勇者候補には勇気、誠実、正義、強者、明朗の名と共に先代勇者の固有能力を授かっているという。私のアビリティ“完全透写”(パーフェクトトレース)もその一つだ」


 エピーヌさんの話で大体の事情は見えてきた。

 恐らく詩に出てくる“闇の者”がもうすぐ目覚めるのだろう。

 その為にユーリやエピーヌさんが勇者候補として選ばれたのだ。


「他に何か聞きたいことはあるか? 私で良ければ知っている事はなるべく話そう」

「じゃあ、その“闇の者”と“六つの悪しき心”って何ですか?」

「あぁ、すまない。それは私にも―――」




 『分からない』、そう言おうとしたのだろう。

 しかしその言葉は突如響いた爆音で中断させられる。


 爆音と共に王宮全体が揺れるような地響きが起こる。

 轟音と振動で熟睡していたフローラちゃんも堪らず目を覚ます。


「ふぇっ!? な、何事ですか?!!」

「フローラ様! 落ち着いて下さい! 音の大きさからしてすぐ近くで爆発したようではありません! 私が確認して参ります。ヒロ君、フローラ様を頼んだ!」


 そう言うと彼女はすぐさま立て掛けてあった新品のレイピアを手に取り、部屋を飛び出して行く。

 廊下を走る音は次の爆発音で掻き消され、鳴り止んだあとにはもう靴音は聞こえなくなってしまっていた。


 その後、数回爆発は続く。

 フローラちゃんは爆発が起こる度、その小さな体を震わせる。

 僕はただ側にいてやることしかできない。


「大丈夫、フローラちゃん。すぐにエピーヌさんが止めてきてくれるよ。それまで僕が守っているから」

「は、はい。ありがとうございます、ヒロさ……」


 再び爆発音が響く。

 フローラちゃんの体は『ヒッ!』という声と共にビクリと跳ねる。


『守る』とは言ったものの、こんなまともに体を起こす事もままならない姿で何ができようか。

 現に怯える少女から恐怖を取り払う事もできていない。

 その事がなんとも歯痒かった。


(クソッ! 体さえ動かせれば……)


 そう思ってみてもどうにもならない事は重々承知だ。

 不甲斐無いが今の僕には待つ事しかできない。






 赤毛の女騎士は王宮の廊下を韋駄天が如く駆け抜ける。

 どこへ向かっているのか、それは彼女自身も知らない。


 ただ方向はあっている。

 爆発が起こる度、その音は大きく、近くなっている。

 ここまま走り続けていれば、爆発の発生源に辿り着くだろう。


 またもや爆発が起こる。今度は聴覚だけではなく視覚でもそのことを確認する。

 廊下の窓から爆発の光であろう閃光が輝いている。閃光のお陰で夜闇に紛れていた黒煙がはっきりと見える。


(あそこは……礼拝堂か)


 目指す場所が判るやいなや、彼女は更にスピードを上げる。




 暫くしてエピーヌが王室礼拝堂に到着する。

 そこには既に何名かの近衛騎士の姿も見える。

 そのうちの一人、近くにいた近衛騎士に声を掛ける。


「ロザリー! 状況を報告しろ!」

「エピーヌ団長! 只今“宵闇の怪盗団”と名乗る()()()の侵入者から攻撃を受けています! 一人は猫の亜人二世セカンドデミ、もう一人は手練の魔導士です!」


 報告を聴きながら、礼拝堂の様子を確認する。


 礼拝堂の壁は破壊され、大きな風穴がポッカリと空いている。

 見る者全てを魅了していた天井画は無残にも大きな亀裂が入っている。

 荘厳な重音を奏でていたパイプオルガンは管が折れたり曲がったりして、もう嘗ての音色を響かせる事が出来ない状態になっていた。


 吹き抜けになっている二階に目をやると、確かに二人、侵入者であるセカンドデミと魔導士が近衛騎士と交戦しているのが伺える。


「……分かった。お前達は一階で()()()()()の捜索に当たれ! 特に宝物庫や金庫を重点的に調べろ!」

「な!? 団長! あの侵入者を捨て置けと言うのですか!?」

「アイツ等は陽動だ。宵闇の怪盗団は私の記憶が正しければ四人組のグループだった筈。それにヤツ等は怪盗コソドロだ、何も盗まずにただ喧嘩を吹っ掛けにくる訳がない。二人が爆発で我等近衛騎士を誘き寄せ、その隙に他の二人が王宮の財宝を狙う魂胆だろう。

 お前達は一階のみを捜索しろ。途中、他の騎士と遭遇したならその旨を伝えておけ。二階は上の者達に直接伝えてくる」


 エピーヌは部下達に命令を伝えると、彼女達が承諾するよりも早くスキルで二階まで跳んでいってしまう。

 残された部下の一人、先程までエピーヌと話していた女騎士がボソリと愚痴を垂らす。


「……全く、せめて了解の一言でも聞いてから行きなさいな」


 彼女は『まあ、彼女らしいわね』と呟いてから、一階にいる近衛騎士全員に聞こえるよう声を張り上げる。


「聞きましたね!? 我々はこれより残る二名の侵入者の捜索に入ります! 一階だけでいい! 草の根分けてでも探し出しなさい!!」

「「「はっ!!」」」


 その言葉で一階の騎士達は速やかに礼拝堂を後にする。




 一方、二階ではエピーヌが残りの騎士達に同様の命令を下した直後であった。


「あの二人は私が引き留めておく。その間にお前達は二階を捜索しろ」

「……了解しました、団長。この身は我が王の為に」


 団長の命令を承った騎士達は即座に踵を返す。だが


「そう簡単に行けると思うニャ!」


 彼女達が背を向けた瞬間、持ち前の運動神経を総動員させ、セカンドデミが強襲する。


 しかし、騎士達の背中に爪が届くよりも速く、エピーヌの剣がセカンドデミの眼前を掠める。


「それはこちらの台詞だ!」


 あと一瞬、攻撃に気付いていなければその縦に割れた瞳孔は横にも割れ、二度と光を捕らえることが出来なくなっていただろう。

 セカンドデミはその事に恐怖を抱きながら大きく仰け反る。その勢いを逆手に取り、バック転で距離を取る。


 両者が臨戦態勢を取る。

 既に他の騎士達は礼拝堂から退出しており、そこにいるのは三人だけとなった。


「フーッ!」

「……一人で私達二人を相手取ろうなんて、中々度胸があるわね。流石は“誠実の勇者様”といった所かしら」

「私も有名になったものだ。まさか泥棒にまで顔を覚えられるとはな」


「自己紹介が必要かしら?私の名前はブルジトル・ウィザ、宵闇の怪盗団のリーダーをやっているわ。ウィザと呼んで頂戴♪横のこの子はシャトン、見ての通り猫の亜人二世セカンドデミよ」

「自己紹介恐縮の至り。私はフルーランス王国近衛師団“紅薔薇の騎士シュヴァリエ・ド・ラ・ローズルージュ”団長、誠実の勇者、エピーヌだ。

 早速で悪いが、ブルジトル・ウィザ及びシャトン、貴様等を逮捕する!!」


 エピーヌは黒いドレスに身を包んだ魔導士に言い放つ。

 妖艶な雰囲気を醸し出す魔導士は物怖じもせず笑みを浮かび続けている。

 彼女を取り巻く空気にエピーヌは何かしらの違和感を抱く。


(……何処かで会ったような?)


 ブルジトルという姓から恐らく彼女は魔法の郷の生まれだろう。

 しかしエピーヌは一度として魔法の郷の者と会ったことがない。

 況してやウィザとの直接の面識などある筈も無い。

 ウィザも同様だろう。だからこそ態々自己紹介などをしてくれた訳なのだから。


 だが、一度会ったような気がする。既視感がある。

 否、会ったのではない、()()()()()()()。別の誰かの面影が重なって見える。

 あの目元、口元、鼻の形、輪郭、話し方、雰囲気、近い者と出会った事がある。

 しかしそれは一体誰だ? その肝心な部分がどうも思い出せない。


 そんな事を思っているとウィザが行動を起こす。


「逮捕されるのは困るわね。もっと色んな綺麗な物を手にしたいし、もっと色んな知識を手にしたいし、そして、()()()()()()()()()いけないし。だから……」


 ウィザはそう言いながら右目に掛かった髪を掻き上げる。

 そこには金色に輝く瞳があった。


「ちょっと、()()()()()()()


 金色の瞳が一瞬光り輝いたかと思うと、エピーヌは自身の体が硬直していることに気が付く。


「スキル“金縛り(パラライシス)”。さあ、シャトン、今の内に行きなさいな」

「恩に切りますニャ、リーダー」


 シャトンは動けないエピーヌの横を見せつける様に悠々と通り過ぎる。


「そう……簡単、に……行、かせる、かぁ!」


 なんとエピーヌは金縛りを気合だけで振り解く。

 すぐさまシャトンを仲間の元へ行かせまいと剣撃を見舞わせようとするが


「それはこちらの台詞よ」


 エピーヌとシャトンの間から土でできた壁が迫り上がり、彼女の攻撃を妨げる。

 土の壁はすぐに二階の道を分断し、礼拝堂に二人を閉じ込める。


「スキル“地の障壁(グランドウォール)”」


 振り返るとウィザが手を地面に付け、魔力を流し込んでいる。


「……どうやら貴様を倒さないと行かせて貰えないようだな」

「ええ、元々私の役割は貴女達、近衛騎士を引き留めることだもの。多くは取り逃がしたけど、貴女さえ居なければあとはあの子達に任せても大丈夫そうだしね」

「それは此方も同様だ。私の部下は皆優秀だからな。貴様以外ならすぐにでも捕まえられるだろう」


 エピーヌはレイピアを構え、ウィザは“爆発するオバケ南瓜(ジャック・オ・ボム)”を二体発生させる。




 暫くしてどちらからともなく動き出す。

 崩れかけた聖人の彫刻が見守る中、二人の戦いが始まった。

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