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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第二章 誉れの詩〜騎士と魔女編〜
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第16話 異世界の先人が遺したモノ

 ここ最近、プライベートな用事で更新が遅れていた事をお詫びします。ゴメンナサイ。

 ―――此処は夢の中なのだろう。

 本来そうと気付くのは醒めてからではあるのだが、何故か直感的に、今僕は夢を見ているのだと理解した。


 目の前には荘厳なる深山幽谷が霞を纏って連なっている。

 横には幼い童が僕の手を握っている。

 その姿は朧気ではあったが、着物を着た幼女だという事はなんとなく分かった。

 ……何故だろう。一度も見たことない筈なのに、この風景が懐かしくてたまらない。


「兄者よ、――よ。真に行ってしまわれるのか?」


 手を握っていた童が僕に問いかける。

 僕はこの子の兄という訳なのだろうか。

 僕の事を呼んだようだが、肝心の名前はどうしてか聞き取れない。


「――――――――――――」


 自然と口が動き、何かを発する。

 それを聞いて幼子は心ならずも承諾してくれたようだ。



 よくある在り来たりな不思議な夢。

 目が醒めてしまえば泡沫のように消え入ってしまう淡い幻想。

 なのに何故だ。この胸が締め付けられる感覚は。

 ああ、この夢が醒めてしまわなければ良いのに……






 ―――目が醒める。視線の先には今ではもう見慣れてしまった細いヒビの入った天井がある。

 気怠げな体を無理矢理起こし、先程の夢を思い返す。

 ……駄目だ、何も思い出せない。

 何か大切な、忘れてはならない夢だったように思えるのに。


〔やあ、お早う。いい夢は見られたかい?〕


 窓の外から声がする。

 目をやると窓に映った僕の姿が紅蓮となっている。

 その両目からは一筋の涙が頬を伝っていた。


「……お前こそどうした。涙なんて流して」

〔ん? ああ、これか。何を言っている、これは君が流している涙さ〕


 そう言われて初めて頬に水が流れる感覚に気付く。

 僕の涙はポロポロと止めどなく溢れ続けていた。

 抑えようとするが、涙は収まる所を知らない。

 どうして、どうして僕は泣いているのだろう。



 ―――暫くして漸く涙は収まった。

 目にはまだ痒みが残っている。

 泣いたせいで朝から少し疲れたが、今日という一日の為に支度を始める。

 支度を進めながら僕は紅蓮に幾つか質問をする。


「……お前の仕業か、紅蓮」

〔まさか。私には君を泣かせる事はできないし、それにするメリットもない〕


 それもそうか、仮にコイツの仕業だとしても大して被害がある訳でもない。

 やる理由としたらいつもの嫌がらせ程度だろう。


「お前、何か思い出したか?」


 不意にそう訊いてみる。

 何故そう訊いたのか、言った直後にふと疑問に思う。

 何度か紅蓮の記憶について探りを入れてみたが、返ってくるのは「分からない」「憶えていない」という言葉だけだった。

 いつしかコイツの正体を調べるのは諦めていたはずだったのだが、何故、今になって奇妙な確信を持ってこんなことを訊いてしまったのか。


〔……いや、未だに自分が何者か分からないよ〕


 顔を背けながら紅蓮はそう言う。

 少し違和感を感じたが、やはりまだ分からないか。


〔そんな事より早く行かなくていいのかい?今日はお姫様(フローラ)とデートの日だろ〕

「分かっている。急かさなくても間に合うよ」


 薄い外套を羽織りながら懐中時計に目をやる。

 前言撤回だ。少し遅れている、さっき泣いたせいか。

 いや、まだ走れば間に合う。朝食は食べずに済まそう。

 玄関の扉を開ける、同時にもうすぐ冬を告げる冷たい風が入ってきた。






 乾燥した空気を掻き分けて走る。目指す先はフローラちゃんの宮殿だ。

 先程紅蓮がデートと言っていたが、実際はフローラちゃんの実家“フルーランス王宮”へ付いて来てほしいという彼女のお願いだ。


 勿論最初は「そんな畏れ多いこと」と言って断ろうとしたのだが、王女の伝言を伝えに来たアンネさんとクライネさんに「因みにこの命はフローラ様の“勅命”です」「断れば最悪反逆罪として死刑に処されます」と脅され付いていく事となった。

 今考えてみればこれはあの二人がついた虚言だったのだろう。

 だとしても一度交わした約束だ、無下にする訳にもいかない。




 宮殿に向かう最中、必然的に様々な店を目にする事になる。その中には飲食店も勿論含まれる。

 お洒落なレストランからサンドイッチ等の軽食を扱う店まである。

 朝食を抜いたせいで、それらを眺めているとお腹が空いてきた。


 この世界の料理は――素材こそ特有の食材が多いが――元いた世界と変わらない物ばかりだ。

 サンドイッチをはじめ、ハンバーガー、カレー、果てには寿司さえある。

 なんでも僕以外の異世界人が伝来させたのだという。

 電子機器等の“技術”は伝えられていないが、衣食等の“文化”は広く伝わっているようだ。


 伝わった文化は衣食だけには留まらない。

 日本のアイドル文化まである。時折広場などでコンサートを開いているのを見かけている。

 残念ながら漫画やアニメは印刷技術が低いため、伝わってきていても再現できないのが悔やまれる。

 また欧州には珍しく野球も伝わっている。


 だが異世界の先駆者がこの世界に与えた恩恵は文化だけではない。



 この世界に来た時、文明のレベルが中世程だと知った瞬間に二つの心配事が脳を駆け巡った。“医療”と“衛生”だ。

 眉唾且つ偏見だが、中世ヨーロッパの文明について知っていた事は“トイレは道や物陰に垂れ流している為、街は悪臭で覆われている”、“風呂は最悪一生入らない”、“最適な治療法は祈る事”ということだ。


 しかし心配とは裏腹にこの世界の医療・衛生は一概に悪いとは言えないものであった。

 医療においては治癒魔術が世間一般に広まっており、更に安全な薬もしっかりある。

 また衛生も整備されており、街中が臭いという事はない。


 これも異世界の先達のお陰だという。

 彼等がもたらした智慧はこの世界の生活を陰ながら支え続けているのだ。






 宮殿まで続く大きな通りを走ること数分、ようやっと宮殿の門が見えてきた。

 門の前には一台の豪華絢爛な馬車とそこに繋がれた整えられた白い毛並の馬が二頭、そして二人のメイド、その間に小さな女の子が立っている。

 もう既にフローラちゃん達の準備は完了しているようだ。


「ゴメン、フローラちゃん、待たせちゃったね」

「いえ、定刻ピッタリです。馬車の用意は出来ています。すぐにでも王宮へ向かいましょう」


 彼女は微笑んで馬車に乗るよう促す。

 しかし肝心の御者台には誰も乗っていない。


「ねえ、フローラちゃん。御者の方がまだ来ていないみたいだけど……」

「あら、そのことでしたら心配いりません。つい先程到着致しましたから」


 そう言われ辺りを見回してみるが、それらしき人は見当たらない。

 ……なんとなくだが今日呼ばれた理由が分かった。

 確認の為、彼女に聞いてみるとしよう。


「ええと、もしかしてその御者って……僕?」

「はい、そのとおりです。お願いしますね」


 姫は満面の笑みで答えてくれた。

 やはりそんな事だと思った。

 まあ元々それが僕の本業なのだから断る道理もない。

 況してや親愛なる王女の頼みだ。断れる筈も無かろう。


「分かりました、王宮まで確実に連れて差し上げましょう」

「あ、それともう一つお願いがあるのですが……」


 そこで彼女は言い淀む。

 その様は言いたい事を恥ずかしさで躊躇しているようだった。


「……? どうしたの、フローラちゃん?」

「あの、その、良ければ、なのですが、あの、い、一緒に御者台に乗せてくださいませんか!?」


 勇気を振り絞って彼女は要望を伝えてきた。

 一見下らなそうな願いではあるが、王女である彼女にとって恥を忍んでの一言だったであろう。

 勿論僕は快く了承する。


「ちょっと座り心地は悪いけどそれでも良い?」

「……! はい! 大丈夫です!」


 フローラちゃんは目を輝かせて応える。

 ―――かくしてフローラちゃんとの短い馬車の旅が始まる。

 目指すはフルーランス王宮だ!

 中世ヨーロッパの文化を調べていたら、結構ひどいですね。

 あっちでは暗黒期とも呼ばれていた程らしいです。


 少しでも綺麗な世界を描きたい為、名も無い異世界人に少し出張ってもらいました。

 この世界では自由権は有りませんが、社会権は有る、という設定です。

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