第15話 新たな武器
炭坑での岩石兵退治、鉱山での地竜討伐を終えた僕とユーリ達は、再びラインハルト邸の応接間にいた。
その場には僕達、ユーリ一行とラインハルト家の全員が揃っている。
正面には、この城の当主にしてこの難題を吹っ掛けた張本人であるフリードリヒさんが納得のいかない顔で相手をしている。
それもそうだろう。ゴーレムとワーム、どちらも一筋縄では行かないモンスターであり、騎士小隊で辛うじて倒せる相手だ。
その事は元騎士である彼には百も承知だ。
それを少数で倒したと言うのだから納得せずとも無理はない。
しかしこのまま何時までも睨めっこを続ける訳にもいかない。
この人にクリスの冒険者としての道を続けさせる許可を貰わないと。
「フリードリヒさん、言われた通り岩石兵退治を遂行してきました。どうかクリスを我々の仲間に戻して下さい」
「……いや、納得できん。こんな小僧一人でゴーレムを倒す事が出来る筈ない! マックス、貴様本当にコイツが倒したと断言できるのであろうな!?」
「父上、私はここを発つ前に言った筈です。我が名と誇りに掛けこの者の不正は許さぬ、と。この者、ヒイロ君は自らの手でゴーレムを攻略したのです」
その一言に頑固親父の眉間の皺は更に深く刻まれていく。
「む、くぅ。し、しかし私が出した最初の条件は“ワーム討伐”だ! そうだ! このガキはワームを倒してはいない! 結婚する権利があるのはそこの四人の誰かだ! 貴様ではない!!」
フリードリヒさんはそう言ってユーリ達を指差す。
この親父、そうまでして認めないとはこちらも呆れ返るしかない。
僕が呆気に取られている横で、隣にいたクリスが不敵な笑みを浮かべていた事を僕は見逃さなかった。
「父様、ワームを倒した方なら結婚は認めて下さるのですね? 仮令相手が女性であろうとも」
「ああ、認めてやろうともさ。しかしこの若造にはその権利は無い! さあ、娘よ。この小僧との冒険は諦めて、淑やかにたおやかに―――」
「父様、クリスティーナは嘘をつきました」
クリスは立ち上がり、ユーリのもとへ向かう。
そしてユーリの腕を抱き、父親に言い放つ。
「ワタクシ、クリスティーナはヒロではなく、このユーリ様を愛しております。ですからワタクシはこの方と結婚致します!」
この瞬間、ラインハルト家には途轍もない衝撃が走ったことだろう。
今まで可愛がってきた愛娘が、清廉潔白にして才色兼備なる聖職者である娘が、まさか同性愛者だとは思わないだろう。
「し、しかしクリスティーナ、その子は女だぞ。しかもまだ若いし、結婚はできないのでは……」
「歳ならワタクシやヒロと同じです。先程まで普通に結婚話を進めていたなら大丈夫でしょう? それに父様はワームを倒した方なら女でも構わないと仰っていましたよね」
「だ、だが……」
「今更駄目とは言わせませんわ。それに元騎士ともあろう方が何度も条件を変えるものではないかと」
それを言われては言い返せないのだろう、フリードリヒさんは口をつぐんでしまった。
「沈黙は了承と得ましたわ。母様と兄様もそれで宜しいですね?」
「え、ええ」
「クリスがそれで良いのなら」
クリスの気迫に気圧され、二人も了承してくれた。
最強の英雄級すら黙らせるとは、流石うちのプリーストだ。
「ユーリ様、これで親から認められました。これからも一緒に冒険しましょうね」
「う、うん……」
……何にせよクリスが帰ってきた事は喜ばしい事だ。喜んでおこう。無理矢理にでも喜んでおけ。
因みにこの後ユーリから“お父さんを黙らせる方便だよね”と聞かれたが沈黙で返す事とした。
クリスが戻ってきた喜びを思い込ませているとコツコツという音が聞こえる。窓の方からだ。
見ると伝言鸚鵡が窓をノックしている。
足につけてあるタグからガニムさんの鸚鵡だとわかる。
しかし一体何の用だ?
「おう、来たか。急に呼び出しちまって済まねえな」
今来ているのは鍛冶街、ガニムさんの工房前だ。
周りにはガニムさん、バルカさんを含め鍛冶職人が数人並んでいる。
「いえ。それよりもフェルさんは大丈夫ですか?」
「心配いらないッスよ。医者様に聞いた所によると命に関わる程でもなく、数日入院すればもう大丈夫らしいッス」
その顔にはもう後悔や諦観等という文字は無く、いつも通り明るい笑顔が戻っている。
そのことからフェルさんの体調が良好である事が見て取れる。
良かった、フェルさんは無事だったんだ。
「所で、なんで急に呼び出したの? それにこんなに人も集まって、どうしたの?」
「よくぞ聞いてくれた。それはな……」
ユーリの質問にガニムさんはニカッと所々穴の空いた歯の壁を見せる。
周りの職人たちも嬉しいことがあった子供のように笑顔を見せている。
「オメェ達の武器をオイラ達で作ってやる」
それはとても嬉しい申し出だった。
武器作りの巨匠ガニムが僕達の為に、僕達だけの武器を作ってくれるというのだ。
その一言にゴウラは今までにないくらい目を輝かせている。
「今日呼んだのはその為に必要なオメェ達のコトを聞き出す為だ。どんな武器が欲しいか。オメェ達に合う武器は何か。それを聞くためにな」
「はい! 俺は大剣を作ってほしいです!」
すかさずゴウラが自分の要望を伝える。
これにはガニムさんも少したじろいでいる。
「た、大剣か。それならオイラよりボポルの方が向いてらぁ」
「ボポル!? ボポルってあの巨大重量武器の達人のボポルさんですか!?」
「おぉ、俺の事を知ってるとは。お前さん、中々の武器マニアだな?」
並んでいた武器職人の一人、比較的大柄なドワーフがゴウラに話し掛けてきた。
「貴方がボポルさんですか!? あえて光栄です!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。気に入った! お前さん、うちの工房で話を聞こうじゃないか」
「はい! 喜んで!」
ゴウラはそのままボポルというドワーフに連れて行かれてしまった。
なんというか、まるで童心に返ったかの様なはしゃぎようだ。
「……で、ユーリとかいう嬢ちゃん。オメェはどんな武器が欲しぃんだ?」
「え、あ、僕? えっと、なるべく折れなくて長持ちできる剣で……あとよく切れる剣がいいかな」
「ふむ……折れずによく切れるか。それなら良いのがある。シュダム、ちと手伝ってくれ」
「む、俺か。構わん」
シュダムと呼ばれた痩せぎすのドワーフが工房の奥に消えていく。
「どんな剣が合うかは後で聞いてやる。他に欲しい武器がある奴はいるか?」
「アタシはこの杖で十分よ」
「ワタクシもです」
「私は新しい籠手が欲しいわ。それも壊れにくいやつ」
女性陣が次々応えていく。
僕も特には要らないし、断らせて頂こう。
「僕は……」
「ヒロ君の武器は俺が作るッスよ。それでいいっしょ、オヤッサン?」
「おう、そん代わり生半可な武器作んじゃねぇぞ」
バルカさんが僕の武器を作ってくれると申し出る。
気持ちは嬉しいが武器なぞ持ったこともない僕にとっては、重荷になるしかないのではないか。
「バルカさん、嬉しいですけど、僕は一度も武器を持ったことが無くて……」
「だったら初心者向けの軽い剣を作ってやるッス」
「いや、それでも……」
「護身用の武器は持ってた方がいいッスよ。それに、なにより俺が恩返ししたいッス。フェルを助けてもらって、何もせずにいるのは俺のポリシーが許さないんスよ」
バルカさんは真っ直ぐ僕を見つめる。
その瞳には絶対に折れたり曲がったりしない鋼鉄の剣のような信念があるように思えた。
その剣に僕の剣の方が折れてしまった。
折れてしまったものは仕様が無い。新しく作ってもらうか。
「分かりました。バルカさん、新しい剣を作って下さい」
「その依頼、確かに引き受けたッス!」
武器は数日でできるらしい。
それまではこのテッセンの街でも回って暇を潰すとするか。
あれから三日後、僕達はテッセンの剣術訓練場にいた。
完成したそれぞれの武器を試そうという話だ。
「……はっ!」
ユーリが新しい剣で試し切りを行っているのが見える。
全長は110センチ程、刃は片刃でほんの少しだけ反りがついている。
剣の根本には刃が付いておらず、その代わり装飾が施されている。
見たところ一般的な剣だ。
「“片手半剣”、通称 雑種剣。
普通、剣てのは切るか突くかのどっちかに特化している。しかしこの片手半剣は切る突く、どちらにも対応した剣だ。
しかも握りを片手半の長さにしてっから、片手、両手のどちらとも使える一品だ。片手で素早く、両手で力強く、と戦術を変えられるつー訳だ。
更に“折れず、曲がらず、よく切れる”を実現させる為に、東洋の“カタナ”てのを参考に作ってある。
鉄を特殊な製法で純度を高め、それを何回も折り畳むことによりパイ生地のように層ができ、剣の強さを上げている。
剣身を幾つかのパーツに分け、刃先には硬い鋼を、峰っつー部分には強靭な鋼を使うことで更に折れにくさを追求した。そのせいでちと反っちまったけどな」
「鋒は突きにも適した“鋒両刃造”。読んで字の如く、本来片刃である所を鋒だけ両刃にした造りだ。
刃根本には疑似刃という刃のない部分がある。ここを持つことで小回りがきいたり、力を加えることができる。
切れ味は心配するな。この“研ぎのシュダム”一押しだ」
「難点は普通の剣と重心が違う事だ。コレのせいで他の剣とは扱いがまた違う。
その為、扱うには特別な訓練が必要となる。
樋で一応軽量化はしてあるが……」
ガニムさん達が長々と説明をしているのを余所に、ユーリは束ねた藁をガンガン切ったり突いたりしている。
「ガニムのオヤッサン! シュダム! この剣すごく切れるよ!」
「……まあ、杞憂だったか」
「流石この俺“研ぎのシュダム”が研いだ剣だ。この藁束では相手にならんな」
目をユーリ達の横にいるゴウラに向ける。
アチラは丸太相手に試し切りを行っている。
「ぅおらよっとぉ!」
掛け声と共に直径1メートルはある丸太が一刀両断される。
ゴウラの持つ大剣は剣先まで幅広で、刃渡りが持ち主の身長とほぼ同じ大きさである。
アレを振り回せるって、やっぱアイツはゴリラだ。
「どうだ!? 使い心地は!」
「はい! 重さも長さも手にしっくりきます!」
「そうだろう、そうだろう! 両手剣、巷ではグレートソードなんて呼ばれているな。
ソイツにはハウド鉱石とグラビー鉱石の合金を使っている。
硬く重い大剣だ。ちっとやそっとの事では壊れねえよ」
「こんな大剣を作って下さって、本当にありがとうございます!! ボポルさん!」
ゴウラの顔が新しい玩具を買ってもらった子供のそれだ。
さぞ嬉しかったのだろうな。
「ヒロ君、おまたせッス! これが君の剣ッス!」
「すいません、遅れました」
バルカさんとフェルさんが遅れてやってきた。
フェルさんは無事昨日退院したらしく、そしてなんでもバルカさんは僕に最高の一品を送るために最後まで打っていたらしい。
バルカさんが取り出したのは二人とは対象的に短い剣、刃渡り60センチ程の両刃剣だ。
特に凝った装飾はなく、目に付くのは持ち手にガードが付いていることと肉厚幅広の白銀の剣身だけだ。
「コイツは片手剣の一種、グラディウス。一般的にはブロードソードとも呼ばれたりするッスね。
一般的な剣で比較的軽く小さいことから携帯用、護身用に持たれることが多いッスね。
実際のグラディウスには鍔は無いんスけど、今回は初めてのヒロ君の為に付けたッス。
更に軽量化の為に樋を二本に増やしたッス」
「これを僕の為に……。ありがとうございます、バルカさん!」
「まあ、話は最後まで聞くッス。この剣には一寸した仕掛けがあるんスよ」
そう言うとバルカさんは剣に力を込め始める。
すると剣身が見る間に赤くなっていく。
「コイツにはマルドルト鉱石を使っていて、魔力伝導性が高く、また流した魔力によって能力が変化する剣なんスよ。今流したのは火の魔力で、水なら冷たく、風なら強靭に、土なら硬くなるッス」
「この鉱石は私の故郷でしか採れず、非常に高価な代物なんですよ」
そんな高価な鉱石で作った剣をただでくれるというのか。有り難いが恐れ多いというか……
……そういえば、フェルさんの故郷でしか採れないって言っていたな。
ということは―――
「これ、もしかして僕達が運んできた……」
「はい、ヒロさん達が運んできてくれた鉱石です」
「え、でもこれってガニムさんが欲しがっていた……。それを使っちゃっていいんですか!?」
「いいんスよ、オヤッサン自ら使ってくれって言ったんスから」
そう言ってバルカさん達はガニムさんの方を向く。
ガニムさんは気付かずにユーリの試し切りを眺めている。
その後こちらに気が付いて、声を出さずに“やめろ”と口を動かす。
「これが俺とフェル、そしてオヤッサンの気持ちだ。受け取ってくれるな?」
「はい、勿論です!」
バルカさんから剣を受け取る。
それは想像以上に軽く、そして重かった。
翌朝、僕達はパリリーに帰るためテッセンの門の前にいた。
周りには鍛冶街の皆が見送りに来ていた。
ユーリ達、鍛冶街の皆、各々が別れの挨拶をしている。
……さて、馬車の準備もできた。名残惜しいが出発しよう。
「さあ、皆! そろそろ出立するぞ!」
「え〜、もうちょっといようよ。それに馬車ってお尻痛くなるから嫌〜」
「問答無用。いざ出発!」
後ろから別れの挨拶とユーリの不満の声が聞こえる。
少し走ると前から一つの馬車が見えてくる。
駅に寄ったときにあったエルフ族の一行だ。
あちらも気がついたようで、お辞儀をしてきた。
こちらも一礼してそのまま通り過ぎる。
「……ねえ、ヒロ」
「テッセンには戻らないぞ」
ユーリが何か言う前に制止する。
ユーリのことだから、引き返してドワーフとエルフの小競り合いを止めようとかそんな事だろう。
「でも、このままじゃまた喧嘩になっちゃうよ!」
「それは当人の問題だ。それに……」
バルカさんとフェルさんの事を思い浮かべる。
片やドワーフの弟子、片やエルフの娘。しかしその二人はそんな事なぞ構いはしないだろう。
だから―――
「きっと、大丈夫だよ」
馬車は街道を征く。
剣の説明は前々から入れたかった話で、今回書けてスッキリしています。
しかし書きたいこと書きすぎて読みづらくなったかもしれません。
上手く書ける人に嫉妬しちゃいますね
それではまた次回




