第14話 ゴーレムとの決戦
少し時間を遡り、ユーリ達が地竜と対峙した頃、同じく炭坑ではヒロが岩石兵と対峙していた。
(先手必勝だ。取り敢えずショックで―――)
僕はショックを部屋の中央上部に打ち上げる。
ショックが炸裂し、部屋全体に光が当たる。
このショックは目眩まし等ではなく長時間部屋を照らす為、もとい影を作る為に調節してある。
紅蓮にはゴーレムの拘束を頼んである。
影ができた瞬間、紅蓮は瞬く間にゴーレムを縛り上げる。
(よし、今の内に解析を―――)
〔済まないヒロ、コイツ想像以上に力が強い〕
その言葉と共に影の拘束はいとも容易く引き千切られた。
少しは時間を稼げるかと思っていたが、やはり一筋縄では行かないようだ。
どうにかして捕らわれているフェルさんだけでも助け出さなければ……
その時一陣の風が真横を吹き抜ける。マックスさんだ。
一気にゴーレムとの距離を詰め、フェルさんを掴んでいる手を一太刀で切り落とした。
切られた手は本体から離れた瞬間にボロボロと崩れ去っていく。
これが英雄級というものなのだろう、先程の一挙手一投足が全く見えなかった。
この人が加勢してくれれば、という甘い期待をついしてしまう。
マックスさんがフェルさんを抱きかかえ戻ってくる。
「横槍を入れてしまいすまない。しかしこれで気兼ねなく戦えるだろう」
「いえ、助かります。ありがとうございます、マックスさん」
「市民を助けるのは騎士の義務だからね」
(しかし―――)
マックスはゴーレムの手を断った剣に目をやる。
そこにはもう切ることが出来ないほど刃毀れした剣があった。
(借り物とはいえ一太刀でここまで刃毀れするとは。あのゴーレム、想像以上の硬さだ。ヒイロ君、君がゴーレムの攻略法を知らない限り勝ち目はないよ)
マックスさんが隙を作ってくれたお陰で解析も完全に終了している。
LV55、弱点属性は炎、体力が減っているのは先程のマックスさんの一撃だろう。
すると現在の体力の数字が次第に増え始めた。回復していたのだ。
正面を見ると、ゴーレムの手だった物が浮き上がり腕にくっつき始めている。
その後一分もしない内にゴーレムの手は元の形に戻ってしまった。
(マジかよ・・・再生しやがった)
〔驚いている暇はないと思うのだが?〕
(分かっている! 紅蓮、プランBだ! 物理で殴る!)
〔あいよ〕
目の周りに朱い隈取ができ、瞳は深紅に変わる。天帝竜と戦ったときの力だ。
ドラゴンと渡り合ったこの力ならなんとかなるだろう。
何よりゴーレムと言えば強く堅い代わりに、動きが遅く愚鈍であるのが一般的。
コイツも同じタイプと見た。
ならば速さで撹乱しつつ、この力でぶん殴るのが定石。
そう思い、ゴーレムとの間合いを詰めていく。
ゴーレムの射程に入る。
ゴーレムは攻撃の為、ゆっくりと右腕を振り上げる。
予想通り。やはりコイツは早く動けないようだ。
振り下ろされた腕を冷静に躱し懐へ潜り込む。
取った。
「ぅお……らあぁっ!!!」
全身の力を込め、殴る。
―――ゴーレムの表面にはヒビ一つ入らない。
固い、鉄のような“硬さ”ではなく、まるでゴムや筋肉のような“固さ”だ。
“傷付きにくい”というより“壊れにくい”感じの強靱な固さだった。
しかし、それならば斬撃ならどうだ。衝撃に強くても、ゴムのようならば斬撃は食らうだろう。
(紅蓮! アレを切ってくれ!!)
〔承知した〕
俺の影が立体となってゴーレムに向かう。
その先端は細く鋭く尖っている。
これでどうだ!?
―――ガキィン
真剣のぶつかったような音が響く。
影はゴーレムの表面に一点で触れたまま少しも先に進まない。
俺がその事実にたじろいでいると、ゴーレムは再びその巨腕を振り上げる。
急いで距離を取り、巨腕による一撃を躱す。
〔“硬い”な、アイツ。まるで鉄か金剛石のようだ〕
紅蓮が珍しく愚痴を零す。
しかし俺はそのことよりも、紅蓮のその一言に違和感を感じた。
(紅蓮。今、アイツの体の事を“鉄か金剛石”みたいって言ったのか?)
〔……? ああ、少なくとも切れるような硬さじゃ無かったよ〕
おかしい。
俺が拳を打ち込んだ時は確かに“ゴムのような固さ”だった。
しかし紅蓮が切り掛かった時は“鉄のような硬さ”だと?
そんな物質がこの世にあるのか?
考えを巡らせていると次第に周りが暗くなっているのに気付く。ショックのタイムリミットが来たのだ。
長時間照らし続けるのは流石に無理か。そう思いつつもう一度ショックを打ち上げる。
しかしそんな悠長に事を構えている場合ではなかった。
今は戦闘中だ。相手はどんな攻撃を仕掛けるか全くの不明だ。
だのに、そんな最中に延々と悩んでいるとは論外にも程がある。
それは平和ボケした常識をこの世界に持ち込んだ俺の落ち度だった。
ショックを打ち上げた直後、ゴーレムが高速で近づいてきていたのをようやく理解する。既に腕を振り下ろし始めている。
しまった、避ける準備をしていない。防御する暇もない。
駄目だ、喰らってしまう!
そして俺は横に吹っ飛ばされ、壁に激突した。
土埃がその場所を覆った。
マックスは動かない。
彼はヒロが戦闘不可能、または戦闘による死に瀕したときのみ、ヒロを守るため加勢するという条件でここに来ていた。
しかし剣の柄に手を掛けてはいるが、動こうとはしない。それは暗にヒロが戦えるという事を指している。
土埃が晴れる。その先には黒い球体が存在していた。
球体は上から溶けるように、その中身を晒す。
「痛っつー。マジで死ぬかと思った」
〔それいつも言っていないか?〕
(実際、お前が居なけりゃ死んでたんだから別に良いだろ)
ヒロだ。ヒロが球体から姿を現した。
先程の一瞬、紅蓮はすぐにヒロを影で覆いクッションの代わりとなっていたのだ。
マックスはその一瞬を逃さずにいた。
ヒロが戦えると判断したのか、剣に掛けていた手を降ろす。
(にしても何でゴーレムがあんな早く動けるんだ?)
〔ヒロ、アイツの足を良く見てみたらどうだ〕
そう言われゴーレムの足元を見る。
人間の裸足と同じような形をしていた足がキャタピラのように変形していた。
(変形すんのかよ!!)
〔誰も変形しないとは言っていないと思うが?〕
(五月蝿いな! ……まあ、兎に角これでアイツのスピードの理由は分かった。でも問題はどうしたらアイツにダメージを与えられるか、だな)
〔ヒロ、それなら私に考えがある〕
ゴーレムが突撃を始める。それに合わせこちらも走り出す。
間合いがどんどん縮まる。
ゴーレムの射程に入った、攻撃が来る。
またもや大振りの攻撃だ、焦らず慎重に躱す。
そのまま通り過ぎようとする。しかし―――
〔狙うは……〕
(膝の裏!)
ヒロは反転して、ゴーレムの右膝の裏を狙う。同時に紅蓮は左膝を狙う。
〔胴や腕は鎧のような硬い外装が覆っている、しかし―――〕
(肘、膝、脇等の関節は動かす為に嫌でも硬くはできない)
〔(ならばそこを狙うまで!!)〕
二人が同時に膝を打つ。
打撃と斬撃、相反する二つの攻撃ならいずれかは通用するだろう。
―――しかしそれも甘い幻想だった。
(クソッ……!)
〔コイツ……!〕
(固い!)〔硬い!〕
二人の攻撃はどちらも効いていなかった。
ゴーレムの右脚は固く壊れにくく、左脚は硬く傷付きにくくなっていた。
ゴーレムと間合いを取りながら、再び考察を始める。
(一体どういう事だ!? 硬さと強靭さ、二つを両立させる物質がこの世界にはあるのか!?)
〔いや、伝説のオリハルコンでもない限り、そんな物質は聞いたことがない。少なくともあのゴーレムはオリハルコン製ではなさそうだが……〕
(じゃあ何だって言うんだ!? ここにあるのは山ほどの石炭くらいしか……)
そこでようやく気づく。
そう、この場所は炭坑。しかもかなり地下深くだ。そんな所で他の鉱石を持ってくるほどの余裕がこのゴーレムを作った者にあったのか。
いや、そうではない。ここに鉱石を持ってくる必要は無い。
何故なら材料はここにあるからだ。
炭素、石炭を構成する原子だ。
この原子は並び方によって様々な特性を見せる同素体という物がある。
黒鉛のように脆くなったり、ダイヤモンドのように硬くなったりでき、更にカーボンナノチューブという物質は強靭さと鋼鉄以上の強度を持つという。
間違いない。これなら納得がいく。
このゴーレムは“炭素製岩石兵”だ。
(……今の聞いていたか?)
〔ああ、聞いていたさ。君の世界ではこんな事が当たり前に教えられているのだね〕
(何時使うか分からないと思っていたけど、まさか異世界で活用できるとはね)
〔それで、材質が解ったからといって何ができるんだい?〕
(アイツがダイヤモンドになれるのなら一つ方法がある)
ゴーレムと距離を取っていたヒロがいきなりゴーレムに近づき始めた。
それに合わせゴーレムも殴り掛かる。
しかし何度も避けられた一撃、またもや避けられる。
ヒロが影を使いゴーレムを攻撃する。
だがこちらも何度も対応された攻撃、ゴーレムは自身の硬度をダイヤモンドと同じにし、拳で受け止める。
キィンッという高い音がなる。影が止められた。
だが、それだけでは終わらない。
影は円錐状の形に変化する。その後ろに殴る構えをしたヒロがいる。
(テレビで見た。ダイヤモンドはドリルやカッター等削るものには絶対の硬度を誇るが、ハンマー等一瞬で与えられる強い衝撃には弱い。確か靭性と言ったか。硬度と靱性は共存し得ない。ガラスは硬いが割れやすいのと同じ原理だ)
ヒロは釘を打つように影を殴る。
ピシッ、という音がした。直後、ゴーレムの拳が崩れた。
「ぃよしっ!!」
一度距離を取り態勢を立て直す。
これでゴーレムに有効なダメージを与えられる。
―――そう安堵するのも束の間のものだった。
ゴーレムの腕が再生を始めた。
忘れていた。最初にマックスさんがダメージを与えた時、この時も今と同じように再生していた事を。
(クソッ、こうなったら全部潰すまで徹底的にやってやる!)
〔とはいえ、釘打ちができるほどの時間があれば再生できる速さだぞ。どうする?〕
(……! ……確かにそうだ。こんな時、腕が釘だったら……)
〔それは面白いな。やってみよう〕
どういう意味か聞き返す前に紅蓮が、影が俺の体に纏わり付いてきた。
暫くすると全身に影が纏わりスーツのようになった。
〔これで何時でも君の腕を釘にすることができる。更には危険な時は私が君を直接守ることができる〕
そう言うと紅蓮は俺の右腕をパイルバンカーのように変化させる。
これならば再生が終わる前に何度もゴーレムに打ち込むことができる。
ゴーレムは再生を終わらせ、此方に向かってきている。
丁度良い。来い! 跡形も無く崩してやる!!
ゴーレムがその大きな拳を振り下ろす。ヒロはそれを右腕のパイルバンカーで相手をする。
拳と拳がぶつかる。
腹の底まで響くような衝撃音が空間を占める。
ゴーレムとヒロ、お互い拳を合わせたまま動かない。
ヒロが立っている場所は殴り合った衝撃で小さなクレーターのように窪んでいる。
一瞬か二瞬か、それとももっと多くの時間が流れたのであろうか、その二人は漸く動いた。
ゴーレムの拳は崩れ去り、ヒロの拳は再びゴーレムを殴る。
再生の隙を与えず、連続で攻撃を繰り返す。
辺りはまるで工事現場の様にガガガガッという音が五月蝿く響く。
あれから数分ほど経った。
そこにはヒロと土砂の様になったゴーレムの残骸があった。
「ふう、流石に疲れた」
〔これでコイツが動くこともないだろう〕
「マックスさーん! ゴーレム退治、終了しましたー!」
これでクリスも仲間に戻れる。早速報告しに行こう。
そんな陽気な事を考えているヒロとは対象的にマックスはまだ戦闘中の様なオーラを発している。
「……ヒイロ君、ここで帰ろうというのなら、僕は父上に失敗したと伝える」
「っ!? ま、待って下さい! ゴーレムはちゃんと退治しました!なのに何で……」
「ヒイロ君、一つ忠告だ。ゴーレムには倒し方がある。それ以外だと絶対に倒せない」
「それは一体どういう―――」
「――――――エメトゥ」
後ろから機械音の様な声がする。
振り返るとゴーレムの残骸が粘土の様に動き出している。
それは形を変え人型になっていく。
そんな。馬鹿な。嘘だ。
その人型はゴーレムの形となる。ゴーレムが復活した。
「――――――――――――!!!」
完全に破壊しても復活する怪物、岩石兵。
こんなヤツ相手にどうやって戦えば良いんだ。
ゴーレムが攻撃してくる、それを避けパイルバンカーで砕く、ゴーレムは再生し攻撃してくる。
何度も何度もそれを繰り返す。
(これじゃあこっちの体力が切れて倒されるのは目に見えている。何だ、マックスさんが言っていた“ゴーレムの倒し方”って何なんだ!?)
その時不意にゴーレムに刻まれていた文字が目に入る。
EMETH〈真理〉。
初めは暗くてよく見えていなかったが、そこには古代語で“真理”と書いてあった。
能力“言語通訳”は意味のある文字の羅列なら、言葉でも文字でも、古代語でも未知の言語でも理解できるという。
しかし何故そんな所にそんなことが書いてあるのか。
製作者の悪戯か?
〔どうかしたのか?〕
(え? ああ、アイツの胴体の中央にEMETH、真理って書いてあるんだけど、一体どういう意味かなって)
〔・・・EMETH、か。もしかしたらそれが弱点かもしれないな〕
紅蓮がそう口走った。
ゴーレムの弱点、それは一体?
(どういう事だ、紅蓮?)
〔EMETHは真理という古代語だが、その頭の一文字、Eを取るとMETH、死という意味になる。だからあの“E”を砕けば……〕
(待ってくれ、さっきあれほど砕いたんだぞ。その中にEも砕かれていた筈だ。なのにアイツは起き上がった。つまりそのEを砕いても意味ないんじゃないか?)
その反論に紅蓮も口を塞ぐしかないようだ。
……くそ、またショックの効果が切れてきた。もう一度打ち上げない……と…………
いや、一つあった。これならば“E”を消せるかもしれない!
ヒロがまたゴーレムに向かう。
体はダイヤの様に硬く、ゴムの様に固くなり、仮に砕いてもすぐに再生するゴーレム。
それを相手にまだ諦めていない。
何度も繰り返してきたようにゴーレムの攻撃を躱し、その懐に潜り込む。
ここまでは同じだった。しかしここからが違う。
右手で殴ろうとしているが、そこにはパイルバンカーの姿はない。
その代わりヒロの右手が光っている。ショックの魔法を右手に込めているのだ。
そのまま右手をゴーレムの一部分に殴りつける。
「ショック……インパクト!!」
殴りつけた瞬間、ショックを開放する。
ショックの轟音は振動に、そしてそのまま破壊力となる。
だが、真の狙いはそこではない。
(ショックの光を調節して触れた部分を高熱にする。コイツの材質は炭素だから空気さえあれば燃える。手は少し灼けるけどこれで倒すことができる!)
拳を当てた部分はEMETHの頭文字“E”である。
肉の灼ける臭いとともにEの文字は薄くなっていく。
暫くするとEは完全に消え去り、そこにはMETH〈死〉の文字があった。
ゴーレムはゆっくりと動き出す。
動くたび体はボロボロと崩れていく。
それでも歩みを止めない。その先にはマックスさんと未だに目覚めないフェルさんがいる。
その二人の元につく頃には、体の三分の二以上が崩れていた。
そしてフェルさんを見つめ、告げる。
「メトゥ」
その言葉を最後にゴーレムは崩れ去った。
もう二度と動く事は無いだろう。
しかしその最期は何故か物悲しく見えた。
「良くやった、ヒイロ君。これでゴーレム退治は遂行された」
「え、あ、はい、どうも」
「だけど少し待ってくれないかな。今からこのゴーレムが何故造られたか確認したい。だから一緒にあそこの調査をお願いしたいんだ」
そう言ってマックスさんが指差したのは一つの扉だった。
石炭でできた部屋の中に木でできた扉がポツンと存在している。
中に入るとそこそこの大きさの部屋に、机と椅子、大量の本に前時代的な研究器具が所狭しと散乱している。
その中の一角、一つの机に人が横たわっているのを見つける。
そこへ行き、その人物を確認しようとするが
―――そこにはミイラと化した死体があった。
「うわああぁぁぁああ!」
「落ち着いてヒイロ君! 恐らくこの人が先程のゴーレムの製造者だろう。もう何十年も前に亡くなっている」
ここまで地下深くなら細菌も入ってこれず、腐食することなくミイラとなったらしい。
その彼の手には一冊の本がある。
失礼して読ませてもらうことにした。
本はこの人物の日記だった。
この人は僕と同じ異世界人で、生きていた時代は十二世紀頃、魔術と科学の入り混じった錬金術の最盛期だ。
例に漏れず、この人も錬金術師だったようだ。
かつて元の世界で亡くなり、こっちへ来て錬金術の大成をなそうとしたらしい。
しかしこちらの世界ではまだ魔術も一般的ではなかったらしく、悪魔として迫害されていたようだ。
そしてこの地に潜り、ゴーレムを造り、二人で暮らしていた事が書き連ねてある。
恐らくだけど、あのゴーレムはフェルさんをこの錬金術師だと思っていたのだと思う。
だからフェルさんには傷が少しも付いていなかったんだ。
「そろそろ行きましょう。炭坑に長居しては体にも影響が出ますからね」
「っ! はい! 今行きます!」
この場所はどうなるのだろう。
解体されてただの炭坑となるのだろうか。
だが、せめて叶えてくれるのなら哀しき母と哀しき胎児の為に残しておいてほしい。
ゴーレムは古いユダヤの言葉で“胎児”を意味するらしいです。
なので最後の文には“子ども”ではなく“胎児”と書きました。




