第13話 不死身の怪物
醜悪の亜竜“地竜”
時に人畜を襲う邪竜として、時に土地を豊かにする善竜として様々な伝承に出て来る竜だ。
音と匂いに敏感で、切られても数秒で治る生命力を持つ。
その生命力は真っ二つに切り裂かれても、引っ付ければ何事も無かったように動き出すほどだ。
それがユーリ達の前に現れた。
「ユーリ! リンはどうした!?」
「ワームの腹の中にいる!! 先ずはアイツの腹を掻っ捌いてリンを助ける!!」
ユーリがワームに特攻を仕掛ける。
“疾風加速”と“鎌鼬”を組み合わせ、一瞬の内に何度も斬りつける。
「スキル“疾風連斬”!」
しかし浅い。ワームは大きく仰け反るが、既に傷は再生を始めている。
そこに次にゴウラが突っ込んできた。
ワームの数歩手前で急停止を行う。しかし手に持つ大剣は慣性に従いながらワームへ向かおうとする。
飛んでいきそうな大剣を必死に抑え、ゴウラはその力を回転運動に無理矢理変える。
一二回ほど回転してユーリが作った傷に斬り込む。
大剣の質量と遠心力で威力の上がった一撃はワームを深々と切り裂いた。
「スキル“回転斬り”!」
ワームは痛々しい金切り声を上げる。
だがすぐ体勢を立て直し、太い尾でゴウラを薙ぎ払おうとする。
それに対し、ゴウラは大剣の刃が尾に向くように突き刺す。
ワームの尾はそのままの勢いで大剣にぶつかる。
ゴウラは大剣と共に数歩後ろに後退させられたが、なんとか直撃は免れた。
目の前にはワームの切り裂かれた皮膚がギリギリの所で止まっている。尾は大剣を含んだまま再生を始める。
これでワームの動きを封じた。
「火炎魔術“炎の球”!」
動けなくなったワームにアリスが雨霰と火球を浴びせる。
これにはワームもたまったものではない。
ワームは自分の尾を噛み切り、そのまま地下へ潜っていった。
「ちっ、地下に逃げられちゃ手も足も出ねえな」
「静かにしてゴウラ。ヤツは恐らく音と匂いで獲物を察知している。息を潜めていればワームもあたし達がどこに居るか分からない筈よ」
暫く静寂が続く。しかしその静寂も余り長くは続かなかった。
ゴウラの方から魚が跳ねるような音が聞こえてくる。
目をやると大剣に突き刺さった巨大な尾が意思を持つように動き出していた。
「な!? こいつ動くのかよ!?」
「ゴウラ!! 今すぐ逃げて!!」
ユーリがそう言った直後、地響きと共にゴウラがいる所の大地が盛り上がる。
ワームが顔を出し、ゴウラを上空へふっ飛ばす。
その衝撃で大剣は尾から抜けるが、空中という身動きが取れない場では何の意味も成さない。
ワームは落ちてくるゴウラを喰おうと大口を開けて待っている。
「させるかっての! “炎の球”!」
アリスの特大の火球が下顎に当たる。
それによりワームは無理矢理口を閉じられてしまった。
「ナイスだぜアリス! 手前はコイツでも喰らってろ!!」
なんとかして大剣をワームに向ける。
重力による加速がついた大剣を頭部でまともに受ける。
バギッという音が響く。
着地したゴウラにユーリが駆け寄る。
「やったの、ゴウラ!?」
「・・・いや違うな、こいつを見てくれ」
そう言ってユーリに大剣を見せる。
その表面には大きなヒビが入っている。
先程の音はワームの頭が砕けた音ではなく、この大剣によるものだった。
「安物とはいえ、もう少し根性見せてほしいな」
「悠長なこと言ってる暇は無いわよ! アイツ、もう完全にアタシ達が与えた傷を治し切ってる!」
ワームの体には一つも傷が残されていない。
ユーリが付けた多くの傷も、ゴウラが切り裂いた傷も、アリスの火球による火傷も、噛み千切ったはずの尻尾さえ跡形も無く、最初から傷付けられていないように綺麗に治っている。
その事実に一行は驚きの色を隠せない。
「おいおい、マジかよ……」
「あはは……。これはちょっと厳しいね」
再びワームが襲ってくる。
三人はなんとか躱し、ユーリとゴウラが攻撃に転じる。
しかし―――バキン、という音が重なって響く。
終に二人の武器が限界を迎えたのだ。
二人の武器は既に悲鳴を上げていた。なのに、まだいけるという慢心が招いた結果だった。
二人の剣は途中でポッキリと折れている。これでは攻撃のしようがない。
ワームはまた地中へ潜る。
地中からの予備動作なしの攻撃。攻撃してもすぐに再生される生命力。更にこっちには武器がない。
このままでは此方が力尽きるのが早いのは明白だ。
どうにか攻略法を見つけなければ……
その時ユーリの脳裏に一つのアイデアが浮かぶ。
(二人共、僕に一つ考えがある。ちょっと危険だけど聞いてくれない?)
(今は取り敢えず倒せればそれで良いわ)
(俺もだ。その作戦を教えてくれ)
(うん、それは―――)
ワームは地下で獲物達が動くのをひたすら待っている。
すると地上で音がした。
急ぎその場所に直行する。
地響きと共にワームが姿を現した。
しかし誰もその被害にはあっていない。
音の正体はアリスの出した火球である。ワームは火球が着弾した地点を襲っていたのだ。
ワームは匂いでユーリ達の居場所を特定する。
高速で這いながら、彼らを一口で飲み込まんと大きく口を開ける。
だが、それこそユーリ達の狙いだった。
「大火炎魔術“焔の嵐”!」
「風魔導“突風徹甲槍”!」
ワームが襲うギリギリを狙い、大きく開いた口に二つの魔法を放つ。
二人の魔法が合わさって、巨大な回転する炎の槍と化す。
炎の槍はワームの体内を焼き、削り、そして穿った。
暫く穿ち続けた後、魔法を解除する。
ワームは自身に開いた穴を再生すること無く、ピクリとも動かなくなった。
ユーリ達の勝利であった。
「流石に体内までは治せないか。良かった〜」
「はぁ〜〜疲れた。魔力全部使ったわ」
「うしっ、ワームも倒したし、リンを助けるか」
「じゃあコイツの腹を切り開いて―――」
そこでユーリ達は気付く。
リンはワームの体内にいた。しかし自分たちはワームの体内を思い切り焼き穿った。
つまりリンはワーム共々魔法の被害にあったのだ。
「「「……………………」」」
「うわあああぁぁぁ!!! どうしよう!!? ワームと一緒にリンちゃんまで倒しちゃったよー!!」
「落ち着きなさい!! リンは最強の英雄級よ!! あのくらいどうってことないわ!!」
「お前が落ち着け!! 生命力の強いワームを倒したんだぞ!! 人間だったら絶対死んでるって!!」
「びええぇ〜〜〜〜〜ん!! リンちゃぁぁ〜〜〜〜ん!!」
三人がパニックに陥っていると、後ろで二回轟音が響く。
すぐさま確認すると、ワームが二体、地面から出てきている。
その内の一体は火傷跡があり、尻尾は噛み切られた跡がある。最初に戦ったワームだ。
倒れているワームが現れた時、傷が全く無かったのは元から付けられていなかったからだった。
この事態には流石にパニックになっていた頭も落ち着いてくる。
「やっべぇ、まだいたのかよ」
「アタシ、もう魔力尽きてんだけど」
「俺だって剣折られて何もできねえよ」
「良かった〜、リンちゃんがいるのあっちか〜」
「「お前は緊張感を持て!!!」」
一体倒すのに相当苦労した相手がもう二体。対し此方は武器も魔力も何も無い。
正に絶体絶命である。
二体のワームが襲い掛かってくる。
その時だった。最初に現れたワームが突然苦しみだしたのは。
ウネウネと蠢いて苦しんでいる。
そのワームの体の一部分が膨らみだす。
蜥蜴の胎児が柔らかい卵の殻を破ろうとしているように膨らんでいく。
そして遂にワームの皮膚が破かれた。破れた部分には力強い拳が見えている。
もう一つ拳が現れ、ワームの皮膚を引き千切って開いていく。
そしてその中からリンが現れた。
「ふう、気絶してたわ」
なんとリンは喰われた後、自力でワームの体内から脱出したのだ。
こんなことは前例がない。
唯一つ、己の拳だけで内蔵から肉を、皮膚を突き破って生還したのだ。
その光景にユーリは止めどもなく涙を溢れさせる。
一度は死んだと思った仲間が無事だと知り、喜びで涙が止まらない。
「リンちゃぁぁ〜〜〜〜ん!!!」
「心配掛けてごめんね。でも女勇者がそんなに鼻水垂らしながら泣いたらいけないと思うわ」
「だって、ばって、ズズッ、ビンぢゃんが、じんじゃっだど、エグッ、おぼっでぇぇ」
「何言ってんのか分かんないわよ。まあ、取り敢えずこいつら片付けてから話を聞くことにするわ」
腹を破られたワームは既に傷を再生させ終わっている。
ワーム達はリンに顔を向けている。もう一度喰おうとでも思っているのか。
しかし彼らは知らない、そこに羅刹がいる光景を。
もし彼らに目があったなら恐怖を感じ、逃げる事もできただろう。いや、目が無い方が恐怖に慄くことが無く幸せであるかもしれない。
一体のワームが口を開いて動く。
ワームが迫ってくるがリンは微動だにしない。ただ仁王立ちをしている。
ワームの口が目の前にまで迫る。喰われる―――
次の瞬間、襲っていたワームは左へ吹っ飛び、岩壁に突っ込んだ。
砂煙にまみれワームがどうなったのかは見えない。
先程ワームがいた場所には正拳突きの構えを取ったリンの姿がある。
あの一瞬でワームの横に回り込み、正拳を打ったとでもいうのか。
岩壁を覆っていた砂煙が晴れる。
そこには頭を潰された可哀想なワームの姿がある。
再生の兆しを見せないことから、完全に息絶えているのだろう。
ここに来て漸くもう一体のワームは自分が何を相手にしているのか直感した。
まだ見ぬ強敵、生態系の上位者、初めて出会った天敵、それを相手にしていると理解したのだ。
しかしもう遅い。
リンはその者の頭を地に殴り落とし、ダメ押しに踏み潰した。
絶命しているのを確認する必要もない。
ユーリ達がやっとこさ一体倒したワームを、リンは数秒で且つ三撃で二体を沈めた。
これが“英雄級”である。
「「「――――――」」」
「よし、これで全部みたいね。私の“気配察知”にももう反応はないみたいだし。……? どうしたの? 皆変な顔をして」
「いや……」
「やっぱ英雄級はすごいなと……」
兎にも角にもこれで鉱山の地竜退治は完了した。
後は炭坑に行ったヒロの吉報を聞くだけだ。
しかし本当に吉報となるかは分からないが―――




