第111話 ル・ロワ・エ・モール、ヴィヴ・ル・ロワ
【前回までのあらすじ】
“七つの美徳”の襲撃から生き延びた各国の面々。
彼らは打倒“七つの美徳”のため、国境間横断魔動列車に乗り、作戦会議を進める。
「―――これが、今までの経緯です」
列車の客席の中、シヴァステャンは静かに話を締める。
魔動列車は今、目的地である“七つの美徳”の本拠地から数十キロ離れた地点で停まっている。
この地には“七つの美徳”討伐戦のため、多くの戦士と物資が集められていた。
決戦は明後日。今はそれに向けて、各自できることをしている。
僕はと言うと、まずは万全の状態に戻すことを優先し体を休めていた。
とはいえ、休むばかりでは手持ち無沙汰だ。
だからあのとき……浮島が崩落したあの時に一緒にいたシヴァステャンとイリスに、その後のことについて聞いていた。
彼のお陰で、僕が気を失っていた三日間の経緯は理解できた。
浮島が崩壊したその後。魔女の郷の大婆の死亡。アルトリウス皇帝をはじめとした各国の首脳の危篤。
そして……。
「……グリムは、」
「……、崩壊した浮島の瓦礫から遺体は見つかっていません。現状、安否不明、となっていますが……」
シヴァステャンの口からそれ以上、言葉の続きが出ることはなかった。
だが、本物の小島程度の浮島が高高度から落ちたのだ。行方不明ということはそういうことだろう。
「……ありがとうございます。シヴァステャンさん」
「いえ、感謝されるようなことは何も。……やはり、あのとき私も残っていれば……」
「でも、あのとき私達を連れて逃げてくれなければ、今こうして顔を合わせることもできなかった。私からも礼を言わせて、シヴァステャン」
「姫……」
ハン族の姫―――イリスの言葉に、シヴァステャンは目頭を押さえる。
聞けば、彼もまたハン族。十年前の反乱の生き残りだという。
曰く、元はハン族の族長に仕える重臣であったが、反乱の際に重傷を負ったところをリドニック首相に匿われ、以降は首相の娘、エレーナの世話役をしてきたそうだ。
彼自身、自分以外の生き残りがいたとは思ってもいなかったそうで、族長の娘であるイリスが生きていたとは露とも思っていなかったのだとか。
「こうしてまた姫に会えるとは……。今ばかりは神に感謝せねばありますまい」
「それ、もう何十回も聞いたから。ごめんね、ヒロ」
「いや、僕は大丈夫。そもそも、最初にお願いしたのは僕の方だし」
申し訳無さ気なイリスをなだめ、『さて、』と言葉を漏らしながら立ち上がる。
「ヒロ殿、どちらか行かれるので?」
「はい、ちょっと外へ。今日、到着する予定なんですよ」
シヴァステャンは『誰が?』と問うようなことしなかった。
ただ、優しく微笑んで、『そうですか』と返すのみだった。
「イリス、君も来てよ。君に会いたがっているお客さんがいる。あ、ついでにシヴァステャンさんも」
「「……?」」
―――――――――
「ねーちゃ「イリス姉「「「お姉ちゃーーーん!!!」」」さん!」ん!」
イリスより一つ二つほど年下のハン族の男女を掻き分け、大勢のハン族の子どもが雪崩込んでくる。
覆い被さるように乗りかかる彼らに、イリスはその細い二本の脚で支えていた。流石はハン族。
「あなた達! どうしてここに?」
「いやさ? 闘技場で俺達全員捕まっちゃったんだけど……」
「そこの目付きの悪い騎士が釈放してくれたの」
ハン族の少女が指差す先には、その目付きの悪い騎士―――もとい、ケイロンがムッとした顔で立っていた。
そして周りには僕の友人―――ゴウラたちが囲んでいる。
「よっ、ヒロ。寝込んでたってリンから聞いてたが、元気そうじゃねぇか」
「そっちこそ。それと、ケイロンさん、ありがとうございます」
「……彼らはまだ子どもだ。善悪や正邪の判別もつかないだろう。そこを“七つの美徳”に漬け込まれた。お前のその証言が通っただけだ。俺は別に何もしていない」
「それでもですよ。この子たちを連れてきてくれてありがとうございます」
「特例は特例だ。この面会が終わったら、彼らの身柄はすぐに拘束させてもらう。彼らが自由になれるかどうかは、その後次第だ」
冷たい台詞だが、本気でそう思っているわけじゃない。
そうでなければ、捕縛している彼らを全員この場に連れてくるはずがないのだから。
「……オイ。なんだ、そのニマニマしたニヤケ面は」
「いやー。ユーリも言ってましたけど、本当は優しいんですねケイロン隊長」
「……お前もだんだんユーリに似てきたな」
大きく溜息を吐いて、ケイロンさんはこめかみを押さえる。いつもユーリに対してやっている行動だ。
そこまで彼女に似てきたのか? そう思っていると、困惑した様子でシヴァステャンが僕らに話しかけてきた。
「ひ、ヒロ殿……。この子どもたちは一体……?」
「この子たちはイリスと一緒に“七つの美徳”にいたハン族の孤児たち。僕らが浮き島にいたとき闘技場を襲撃してきたそうなんだけど、ケイロンさん達が全員捕まえたんだって。それで身柄を拘束してたんだけど、口添えしてもらって、ここに連れてきてもらったってわけ」
「こ……この子たちが、全員、ハン族……。てっきり、残っているハン族は私と姫様だけとばかり……」
シヴァステャンは驚愕のあまり、呆然と立ち尽くすことしかできないようであった。
呆けた視線に気付いたのか、ハン族の少年が訝しげな目をシヴァステャンに向けていた。
「イリス姉。あのオッサン、まさか……」
「ええ、ハン族の生き残り。カナート、それに皆、紹介するわ。彼はシヴァステャン。私を助けてくれた一人よ」
イリスが子どもたちに向けて紹介するが、件の子どもたちはシヴァステャンに対して心を開いた素振りを見せない。
それどころか、心做しか険悪な雰囲気を感じる。
「……おいオッサン。俺達と同じハン族ってマジかよ?」
「……はい」
「そうか。じゃあ、十年前の反乱にも当然参加してたんだよな?」
「……仰る通りです」
「だったら、なんで生きてんだよ」
その瞳には、抑えられない憎悪が籠っていた。
そこでようやく気付く。この人は、この子どもたちが苦しむ要因となった“ハン族の反乱”に加わった一人なのだ。
しまった、彼らを引き合わせるべきではなかった!
後悔しても、起こってしまったものは巻き戻せない。
とりあえず引き離すべきかと考えたその時、少年の前に少女が滑り込んだ。
「やめな、カナート」
「止めんじゃねえよウルディナ。お前だって思ってんだろ。こいつら大人たちが反乱なんて企てたから、今の俺たちが苦しんでるって」
「…………」
シヴァステャンは何も発さない。自分が起こした咎に負い目を感じているからだ。
同様に、ウルディナと呼ばれた少女も俯きがちに少年から視線を外し、ちらりとシヴァステャンの方を見つめた。
「……思わなかった、なんて言うつもりはない。でも、彼一人が悪いわけじゃない。イリス姉さんだってあの人を認めている。私は、姉さんを信じる」
「あっそう! じゃあ俺は俺を信じるね! 少なくとも俺は認めねえ。勝手に反乱なんか起こして、後始末は全部俺らに押し付けて、自分はぬくぬくと良い服着て、美味いもん食って、おめおめと生きている死に損ないのこいつを! 俺は絶対に認めねぇッ!!」
激しい怒りが言葉に乗せられる。このままじゃ喧嘩沙汰になる。
どうにか場を収められないか、イリスと互いに視線を配らせながらアワアワしてると、黙していたシヴァステャンが口を開いた。
「……確かに、私は死に損ないです。死んでいった戦友のことから目を背け、ハン族の誇りを忘れ、ハン族としての自分を忘れ、シヴァステャンとしてリドニックに仕え生きてきました。そこに何の嘘偽りもございません」
「……なんだ、認めんのかよ。で、次はどうすんだよ? 俺は謝ったって―――」
「君は、カラトの子だね」
シヴァステャンの口から出た名前を聞いた瞬間、カナートの動きがピタリと止まった。
「……なんで、親父の名前を」
「そこの君は、ウルディンの子だ。性格がまるでそっくりだ」
「……もしかして、お父さんのこと……」
「ああ、知っている。そこの二人はドナートのところの兄弟だろう? そっちの君はバランベルの娘だ。……思ったより、分かるものだな」
ハン族の子どもたちの顔を一人ずつ確認しながら、シヴァステャンはカナートの下まで歩いていく。
カナートは歩み寄ってくる彼を拒絶するわけでもなく、逃避するでもなく、睨むだけで精一杯だった。
「……、……!」
「君が私を許せないことは痛いほどよく分かる。それは、私が謝ったところで収まるわけがないことも。だが、それでも責任は取らせてほしい。一人残ってしまった大人として、君たちの親の友人として。それが、私にとっての贖罪であり、私が今この瞬間まで死に損なった意味だ」
身を屈め、視線をカナートに合わせる。
自身に向けられた瞳を見て、少年もやっと気が付いたのだろう。シヴァステャンが抱えてきた業のようなものを。
申し訳無さそうに押し黙り、しかし引っ込みがつかないように口をもごもごと動かしている。
そうして、ようやく言葉が出てきた。
「……責任、って、何するつもりだよ」
「そうだね。ひとまず、君たちが自由になったらリドニックに来なさい。君たち全員を賄うだけの伝手を知っている」
「へえ。その伝手ってのは、この私、エレーナ・イヴァノヴナ・アレクサンドロヴァのことかしら」
「ええ、そのとおりです。少し高飛車ではありますが、お優しい方なので皆様のことも……ん?」
シヴァステャンがゆっくりと後ろを振り返る。その時に錆びついた機械が動くような音が聞こえたのは、僕の気のせいだろうか。
振り向いた先には、彼の主人であるエレーナが美しくも恐ろしい笑顔をシヴァステャンに向けていた。
「お、お嬢様……どうしてこちらに……?」
「ヒロとかいうのに呼び出されてから帰りが遅かったから、私自ら探しに出向いたのよ。それで? さっき、この私に対して“高飛車”だなんて言葉が聞こえたのだけれど、聞き間違いじゃないわよね?」
「そ、それは……」
「そう、弁明もしないのね。じゃあ、向こうで少し、“お話”しましょうか?」
エレーナは常に笑顔で優しい声色ではあったが、その言葉の奥に冷たい何かがあった。
間違いない。この人、ルイ王子と同じタイプの人間だ。
そうこうしているうちにシヴァステャンが連れて行かれそうになっていると、なぜかイリスが待ったをかけた。
「あ、ちょっと……!」
「……どうかしたのかしら。ハン族のお姫様」
応えるエレーナの顔はシヴァステャンに向けていた先程の笑みとは違い、恐ろしいまでに冷たい表情だった。
まるで人を人とも思わないようなその威圧感に、イリスは思わずたじろぎながらも、意を決して問う。
「シヴァステャンの話……」
「何のこと?」
「っ……。この子達を、リドニックで保護するって話……なんだけど」
「……は?」
帰ってきたのは、まるで氷の刃のようなその一言だった。
イリスを中心に、ハン族の子ども達の間で諦めの空気が流れる。
何もできない自分自身が歯痒くて仕方ない。やはり、世間の風当たりは彼女たちにとって厳しいものなのか。
「だから今からその話をセバスとしに行くんでしょ?」
「……え?」
続いて放たれた言葉に、その場の一堂が目を丸くする。
「うちだって無限に部屋や資産があるわけじゃないんだから。あ、あとそれと、貴女が保護してる子ども達ってこれで全員?」
「え、そうだけど……」
「ふーん。じゃ、なんとかなるか」
「あ、あの……本当に、良いの?」
「別に。私、ハン族がどうとか興味ないし。貴女を通して、あの男に恩を売っておいて損はないって判断したまでよ。打算よ、打算」
エレーナはそう言ってひらひらと手を振りながら、残ってもう片方の手でシヴァステャンのタイを掴み、その場を後にする。
まるで嵐の後のような静けさがだけが、その場には残っていた。
「……え、っと。イリスさん、これはつまり?」
「一応は、皆の受け入れ先は決まった……みたい?」
僕とイリスはどうも納得のいかない顔で見合わせる。
周りの子供達を見ても、頭にハテナを浮かべているものばかりだ。
「ひとまず、当初の通りこの子達の身柄は俺達、帝国騎士団が預かる。リドニックへの引き渡しは……まあ、後日協議とする。今のところはそれでいいだろう」
混乱していた僕らに、ケイロンが落とし所を提示してくれる。
子ども達の処遇はまた後日。結局のところ後回しにしただけかもしれないが、それでその場の全員の意思は決まった。
その後は、イリスとハン族の子ども達がひとしきり談笑し、別れの挨拶を済ませた後に子ども達はケイロンに連れられ戻っていった。
イリスたちが話している最中、ケイロンが『全員が戻りたくないと暴れたらどうしようか』と怖いことを言っていたが、イリスが言い聞かせてくれたお陰か、すんなりと従ってくれた。
「―――さて、と。それじゃあ……」
子ども達の姿が見えなくなったことを確認し、ゴウラが僕らの方に声を掛ける。
「作戦会議、始めるとすっか」
僕を含め、その場の八人が頷く。
そう。この場にイリスを連れてきたのは、“七つの美徳”本拠地に突入する作戦を考えるためだ。
「会議の前に、再度メンバーを確認するわ。お互い、初対面の人も多いはずだからね」
声を上げたのはこの部隊の要、英雄級“破壊僧”のリン。
フルーランスの人間が主軸のこの部隊にあっては、最強の存在だ。
「まずは私、シャオ・リン。改めて説明する必要もないかもだけど、英雄級の一人に数えさせてもらっているわ。今回は私がこの部隊のリーダーだから、指揮には従ってもらうわよ。
そして、そこに並んでいるのが勇者候補ユーリの仲間の―――」
「ゴウラだ。前衛で盾役をやらせてもらう」
「魔術使、アリスよ。後方の魔法攻撃を担当するわ」
「クリスティーナと申します。同じく後衛、回復を務めさせていただきます。こちらはペットのモフです」
「キュイ、キュイ!」
ユーリ一行―――ゴウラ、アリス、そしてクリス(ついでにモフ)が簡単な挨拶をする。
彼らはただ単純に勇者候補の仲間だから呼ばれた、という訳ではない。
れっきとした白銀級の冒険者なのだ。……まあ、実はそれを知ったのはつい最近なのだけれど。
「こちらはルイ王子からの推薦。勇者候補エピーヌと同じく“紅薔薇の騎士団”の騎士である―――」
「副団長のロザリーですわ。以後、お見知りおきを」
「同じく、エマと申します。クリスティーナ殿とともに、治療を行います」
「シルヴィで〜す。回復魔導と支援魔導が使えま〜す。今回はロザリー副団長とともに中衛の任に当たりま〜す」
こちらも見知った顔ばかりだ。
フルーランス王国の近衛騎士団“紅薔薇の騎士団”の女騎士たち―――すなわち、こちらも勇者候補の仲間だ。
さて、これで七人の紹介が終わった。僕とイリスを含めると、これで九人になるのだけれど……
「あれ? リン、お前のパーティは参加しないのか? あのムッキムキのマッチョ集団」
「アイツラ呼んだら物理偏重になるでしょうが。それに、ルイ王子のお墨付きの三人よ。無碍にするわけにもいかないわ」
「ご安心くださいませ、ヒイロ様。我ら三人、かの“破壊僧”のパーティには及ばずとも、エピーヌ団長と肩を並べる剣の腕と自負しておりますわ」
実力の程は知らないが、あの王子の推薦だ、ゴウラたちにも劣らない強者なのだろう。
それに、エマさんとシルヴィさんはそれぞれ治癒魔導の使い手だ。
回復役はパーティの要だという。クリス一人より、複数人いたほうが生存率は格段に上がるだろう。
「そんなことより、ほら、アンタも」
「え、ああ、そっか。……こほん。センダ・ヒイロ。まあ、顔見知りしかいないし、特に紹介することはないけど、今回はこの横にいるイリスと一緒に攻撃役をやる。よろしく」
自己紹介ついでに、イリスにも自己紹介するように進める。
彼女は普段と変わらない態度で、一息ついてから声を発した。
「……イリス・ハン。剣士」
「……それだけ?」
「ん……。えっと、ヒロと一緒に攻撃役をやる……ます。……その、よろしく」
「……うん! ちょっと口下手なだけなんだよ! 実力はすごいから、マジで!」
この娘こんな感じだったっけ⁉
とはいえ、初対面に囲まれて(しかも既にある程度グループが形成されている中で)いきなりフランクに話しかけるのは難易度が高かったか。
そもそも僕が彼女の立場なら確実にアガっている。吃りながらあたふたするのも已む無しだ。
ここは一つ、僕が橋渡しにならないと……!
「そんな身構えんなよ。別に、俺たちゃあお前のことを認めてないわけじゃねえんだからよ」
「そうそう。ヒロが連れて来る人に悪いやつはいないわよ」
「正直、どのような方かと構えておりましたが、会ってみれば純粋な方なのだと分かります。それに、ビジュもとても良い、アリです」
「そうですわね。それに、エピーヌ団長が認めたヒイロ様と互角に渡り合ったとか。その力量、頼りにさせていただきますわ」
「まあまあ〜。堅苦しいことはなしでさ〜、仲良くやろうよ〜」
「あ、えっと、よ、よろしくお願いします!」
僕の心配とは裏腹に、彼らはイリスに対して何の懸念も抱いていないようであった。
ぽかんと口を開いている間に、イリスの周りには質問攻めをする人だかりができており、すっかり人気者になっていた。
かくいう僕は置いてけぼりを食らい、リンに肩を軽く叩かれ慰められていた。
「はいはーい、質問はそこまで。イリスも困っているでしょう。それぞれの役割・配置を確認できたんだから、次は本題の作戦会議よ。さあ、並んだ並んだ」
そう言って、リンは全員を並ばせる。
その最中、僕はふとした疑問―――いや、集まったときから抱いていた違和感について、訪ねてみる。
「そういや、ルイ王子は? こういうの真っ先に仕切りたがるタイプじゃないか、あの人」
「……ああ、王子ね。……まあ、ヒロにだけ黙っているのも悪いか」
「……?」
「あのね、実は―――」
―――――――――
「すまんな、アンリ。遠くまで喚び出して」
自身の兄がそう告げる。
ありえないことだった。あの兄が、この程度のことで労ることなど、今までありはしなかった。
「いえ、兄上。このアンリ、兄上が望むのであれば戦地であろうと馳せ参じる次第です」
驚愕を声に乗せないように、細心の気を払う。
幸い、兄は自身に背を向けて立っている。不覚にもぎょっとした表情をしてしまったが、見られずに済んだ。
「その忠信、見事である。が、あまり無理をするな。いずれ我が国王となったとき、貴様には我が右腕として役に立ってもらう。その日まで体を崩されては困る」
“国王になったとき”。その言葉を聞いて、私は今しかないと思った。
「……兄上、その件なのですが―――」
「今頃、我が臣民は明後日の決戦に向けて支度をしている頃合いだろう」
「兄上、話を―――」
「我が王国の中で、今考えうる最高の人選だ。間違っても“七つの美徳”などに遅れを取ることは―――」
「ルイ殿下。シャルル王が身罷られました」
やっと、言えた。とうとう、言ってしまった。国王の死を――父親の死をついに伝えてしまった。
兄上は何も発さない。顔を上げられない。彼はどのような表情しているのか。
今この場で言うべきではなかったのかもしれない。決戦前に伝えるべきではないのかもしれない。
戦の士気に関わるのは百も承知だ。だがしかし、彼にだけは伝えておくべきと判断した。
「………………」
「正式な継承の儀は後日となりますが、今この時より貴方が実質的なこの国の王―――」
「アンリ」
平坦な声で自身の名を呼ばれる。
その声に怒りはない。悲しみもない。冷徹さすらない。
それ故に私はその呼びかけに応える他なかった。
「……はい」
「……俺は、どんな顔でエピーヌに会えば良い?」
かけられた問に、不意に顔を上げる。兄はまだ背を向けたままだった。
だが、微かに震えていた。
まさか、あの兄が、唯我独尊を地で征くあの偉大な兄上が……。
私は己を恥じる。偉大なる王の素質を持つ兄上ならば、いつもの通り『そうか』と一言で済ませ飲み込むものだろうと考えていた。
だがそれは、彼を人として見ていなかったということだ。
ああ、申し訳ありません兄上。ですが、今貴方に必要なのは人の情ではない。
求められているのは、絶対的な王威なのです。
なればこそ、私は非道な臣下になりましょう。
「……恐れながら、国王陛下。今は我が国の、いえ、連合帝国の大事。……余分な事は考えられますまい」
「……ああ、わかった。忠言、大義である」
私の放った言葉に、兄上の震えは止まった。
その声色は、いつもの冷徹さと傲慢さが満ちている。
それでこそ、私が崇める王の背中だ。
「……勿体無き、御言葉」
入れたかったパロネタ
エレーナ「セバス、私からそこの子ども達の子守りに鞍替えするの?」
シヴァステャン「しません!」
イリス「え……シヴァステャン、助けてくれないの?」
シヴァステャン「しまァす!」




