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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第一章 はじまりの詩〜依頼遂行編〜
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第11話 エルフとドワーフとラインハルトと

 照りつける太陽、その光を受けて剣が鈍く光る。

 かなり酷使されてきたのだろう、刃毀れが目立つ。

 小さいヒビも所々入っている。

 ユーリは手に掲げているその剣を見て一言零す。


「んー、そろそろ変え時かな?」

「その剣か? 叩き切る分にはまだ使えそうだが?」

「でも僕“叩き切る”よりスパッと“斬る”方がしっくりくるんだよね」


 勇者とはいえユーリは女の子だ。

 自分の力で切るより、剣の切れ味に頼った方が威力は上がる。

 ゴウラも新調した大剣を見つめながら言う。


「俺も新しいのが欲しいな」

「アンタは新調したばっかでしょうが」

「いやそうなんだけどよ、安物を買ったから脆いんだよコレ。思い切り振るとすぐ折れそうなんだ」


 ゴウラはライディンに折られた大剣の代わりに、新しい物をすぐに用意していたが、どうやら体に合っていないようだ。

 その話を聞いていたリンが提案する。


「別に折れても良いんじゃない。折れたら拳で戦えば良いんだし」

「お前と一緒にすんな。武闘家の“ぶ”の字も知らないんだぞこっちは」

「そうだそうだー!」


 そんな後ろの話を耳にしながら僕は残りの距離を確認する。

 この距離ならそろそろ見えてくるはずだ。

 そう思い遠くを眺めると煙が出ているのを発見する。

 馬車を進ませるとその煙の出所が一つの街だということがわかっていく。

 そう、その街こそ目的地テッセンだ。


「もうすぐテッセンだから武器はそこで買い替えたらどうだ?」

「お、ようやく着くんだな」

「じゃあそこで新しい武器を見に行こうっと」

「その前に例の“荷物”の配達とクリスの家に行く準備よ」


 これで四日と三時間の長い馬車旅が終わる。

 着いたら先ずは、アリスが言ったようにエルフのお爺さんから預かった荷物の配達をしなければ。

 その後で武器を見に行ったりしても良いかもしれない。

 そんな事を考えながら、少しだけ馬車を走らせる。




 テッセンの街は炭坑と鉱山によって発展した街である。

 街の中心に大聖堂があり、その前に通称“買い物通り”と呼ばれる通りがある。そこでは作られた武器も販売されている。

 街の北部には炭鉱があり、そのすぐ近くに鉱山もある。

 ほぼ全ての鍛冶屋は元々ドワーフ族が住んでいた鉱山の洞穴の中にある。

 密閉空間にも関わらず常に火を焚いている為、中は火山のように“熱い”。

 荷物の配達先はその中の一つである。

 という訳で僕達はそこにいた。


「「「「「あっっつ!!!」」」」」


 暑い、とにかく暑い。

 全身毛だらけのモフは既にダウンしている。

 陽炎で景色が揺らいで見える。

 そんな中では自然と全員薄着になっている。

 ゴウラに至っては上半身裸だし、リンもマッスルモードだと暑苦しいらしく小さくなっていた。

 駄目だ、早く届けないと暑さで死んでしまう。


 周りは鉄を打つ音、熱した鉄を水につける音、火が燃え上がる音などが重なり荘厳な音楽に聞こえてくる。

 歩みを進める度に音が変わり、時に不協和音に、時に協和音に姿を変えていく。

 そんな中、遂に目的の場所まで辿り着いた。


「着いたの、ヒロ?」

「うん、ここで間違いない」


 というか間違っていてほしくない。

 もうこれ以上歩くのは嫌だ。

 そこにいる全員がグロッキーなのに対し、今日は珍しくゴウラのテンションが高い。


「なあ! ヒロ! 本当にここなんだよな!?」

「え? あぁ、うん、そうだけど」

「まさかここに来れるとは! くうぅ〜、感激だ!!」


 何でこんなテンション高いの? 凄く暑苦しいんだけど。


「なあ、ここに何かあんのか?」

「知らねぇのか!? あ、いや、知らねぇか。ここはな、ヒロ! ここは武器作りの巨匠“ガニム”の工房なんだよ!!」

「さっきから何だ!? 仕事場の前でゴチャゴチャ煩いぞ!」


 工房から一人のドワーフが出てきた。

 蓄えた髭と低い背丈はまさにドワーフそのものであった。

 そんな事はどうでもいい。取り敢えず―――


「「中に入らせて貰っても良いですか」」

「お、おう。構わんが……」


 僕は項垂れて、ゴウラは元気よく同じ台詞を口にした。






 工房の中には常に冷気を発する“氷結石”という鉱石が並べられてある。

 お陰で周りはヒンヤリと涼しい空気が流れている。

 はあ〜、いきかえる〜。


〔俺様、生!還!! いやぁ、一時は最強の俺様でもどうなることかと思ったぜ〕


 モフ、お前はアリスから離れてあげろ。

 魔力を吸われて外と変わらない顔をしてるぞ。


「どうぞ、粗茶ですが」

「あ、どうも」

「んで、オメェ達は何でここに訪ねてきたんだ?」


 ガニムさんはどっかりと椅子に腰掛けて訊いてくる。

 工房の中には僕達とガニムさんの他に、人間の男性とエルフの女性がいる。


「お届け物を運びにきました」

「届け物? オイラは頼んでねぇぞ」

「エルフのお爺さんから預かったのですが」

「何? エルフぅ?」


 エルフという単語を聞いた瞬間、ガニムさんの深い眉間の皺が更に深くなった。

 しまった、これは言わない方が良かったか。

 エルフとドワーフが仲悪いことをすっかり失念していた。

 後悔しているとすかさず男性がフォローに入った。


「オヤッサン、それ俺が頼んだんス。フェルに頼んでお爺さんにこの鉱石を持ってきてもらうようにって」

「……ふん。じゃあバルカよぉ、何故アイツラは直接持って来ずにコイツラ使ってよこしたんだ?」

「そ、それは……」

「馬車が壊れていたんだよ」


 次はユーリがバルカという青年のフォローに入る。


「馬車が壊れたから偶々そこにいた僕達に頼んだんだよ」

「そ、そうらしいッスよオヤッサン! それにその鉱石は前々からオヤッサンが欲しがっていたやつじゃないスか。俺とフェルはオヤッサンに喜んでほしくて持ってきてくれるよう頼んだんスよ。な、フェル」

「は、はい! 私達はただオヤッサンに喜んでほしくて―――」

「エルフに情けを掛けられてでも欲しかった訳じゃねぇよ」


 ガニムさんはフェルというエルフの女性に冷たく言い放つ。

 こればかりはどうしようもない。彼らの問題だ。

 他人が下手に首を突っ込まない方がいい。


「わりぃな、手間取らせた上に恥ずかしい所を見せた。礼としちゃなんだが、出来る事があれば手伝うぜ」

「じゃ、じゃあ俺の大剣―――」

「フェルさんに謝って下さい」


 ゴウラの言葉を遮り、ユーリがフェルさんへの謝罪を要求する。

 そうだった。超が付くほどの正義感の強いこいつの事を忘れていた。

 慌てて全員で止めにかかる。


「バカっ! あの人達の問題なんだから口を出さなくて良いの! すいません、うちのものが」

「何で? フェルさんは何も悪くないよ。フェルさんは自分から歩み寄っているのに、ガニムのオヤッサンが拒んでいるだけだよ! 悪いのはガニムのオヤッサンの方じゃない!」

「だからそういうのは彼らで解決していく話なんだから関わらなくて良いんだよ!」


 僕達が騒いでいる間、ガニムさんは口をへの字に結び何も言わなかった。

 が、少しするとゆっくりと口を開いた。


「……そうだな。フェル、今回はオイラが悪かった。すまん」

「……! 分かってくれたんスね、オヤッサン!」

「うっせぇバルカ。この嬢ちゃんに言われて自分が頑固だったことに気付いたんだよ」


 それを聞いたユーリは満足そうだ。

 フェルさんの方を見ると嬉しさからか、目に涙を溜めている。

 どうやら丸く収まって良かった良かった―――


「じゃねぇぇぇえええええ!!!!! 今回は良かったけど毎度毎度この調子じゃこっちの身が持たんわぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」

「あいたたたたたたたたたたた!!! 痛い! 痛いって!! グリグリは止めてーーーーーー!!!」


 自分の怒りを両手に込めて、ユーリのこめかみに回転攻撃をかける。

 スキル“オカンの制裁(グリグリ攻撃)”!




「「ご迷惑お掛けしました」」


 僕とユーリの謝罪に三人は愛想笑いで返す。

 話を逸らそうとガニムさんがゴウラに話しかける。


「そういえばオメェさんは大剣が何とかつってたよな?」

「あ、はい! 俺の大剣を作って欲しいんです!」

「わりぃがそりゃ無理だ。恐らく他んとこ行っても無理だろうなぁ」


 ゴウラの要望はあっさり却下された。

 それに対しゴウラが抗議する。


「な、何故なんですか。確かに貴方程の巨匠なら断っても当然。しかし他の所までもは―――」

「ああ、違う違う。オイラは作ってやりてぇんだ。でも材料がねぇ、鉄がねぇんだよ」


 鉱山の近くなのに鉄が無い? それはおかしくないか?

 それに外では今も鉄を叩く音がしている。

 一体どういう事だ?


「あの、それはつまり……」

「鉱山にモンスターが現れて採掘ができねぇ状態なんだ。今は有り合わせの素材で協会に納入用の武器を作ってんだ。しかしそんなのをオメェさん達に渡すのはドワーフの意地が許さねぇ。だから作ってやんのは無理なんだ」

「なら僕達が討伐しに行くよ!」

「それには及ばないッス。今、地元のハンターが討伐してくれているはずッス」


 それでも時間はかかるから作れるようになったら連絡する、という話でガニムさんから伝言鸚鵡の魔石を頂いた。

 こればかりは本当にどうしようもないので、クリスの家、ラインハルト邸を目指すこととなる。







 僕達はテッセン郊外のラインハルト邸前にいる。

 ここは鍛冶街とは打って変わって涼しく住み心地の良さそうな場所だ。

 周りには他の貴族のものだろう豪邸が見える。

 それより抜きん出ているのがこのラインハルト邸だ。

 だってこれ“城”だもん。


「……ラインハルト家はアイゼンラント有数の名家とは聞いていたけど」

「まさか城に住んでいるとは思わないよね」


 あまりの凄さに呆けていると城の門が開く。

 開いた先で待っていたのは綺麗にめかしこんだクリスの姿だ。

 クリスはユーリを見つけるとドレスを着ているとは思えない速度で近付いてきた。

 あぁ、なんか懐かしい。


「ようこそユーリ様! あ、それとその他の皆様」

「久しぶり、クリス」

「なんかいつもより扱い雑じゃないか?」

「ユーリ分を絶っていた反動じゃない?」

「私もその他か」

「キュイッ!」


 いやぁ、ホントに懐かしい。

 クリスとの挨拶も早々に邸宅内に案内される。

 外も凄ければ中も凄い。まるで創作の中のお城像そのままだ。

 扉から入った目の前には階段があり途中で二手に分かれている。

 踊り場の上には恐らく当主であろう初老の男の肖像画が飾ってある。


 内装に舌を巻いていると肖像画の人物が階段を降りてくる。

 しかも走って、しかも帯刀して、しかも殺気全開で降りてくる。

 しかも完全に僕の方を見ている。


「貴様が娘の恋人かぁぁぁぁぁああああ!!!!!」


 初老の男性は鞘からレイピアを抜き斬りかかってきた。

 いきなりの事で躱すこともできない。

 ヤバ、死んだ―――



 ―――こっちに来てから死にかけたのは何度目だろう。

 どうやらまだ生きているようだ。

 目の前には影に縛られた男性の姿がある。


「影魔導とは、小癪な!!」

(助かったよ、紅蓮)

〔君は本当に危なっかしいからね〕


「ええい! 離せ! 娘は絶対貴様なんぞに渡すものか!」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 何で僕なんですか!?」

「貴様しか居らぬだろう!!」


 僕しかって、他にも居るだろうと後ろを振り向く。

 しかしユーリとアリスは女性だ。リンは一見男だが女装しているように見える。そしてゴウラはゴリラだ。


「……あー」

「ちょっと待てヒロ。今何で納得した?」

「待ちなさい! アナタ! そう決めつけるのは早計よ!」


 次は美しい女性が階段から現れた。

 ハイヒールをカツカツ鳴らしながらこちらに近づいてくる。

 そしてリンの肩を掴みながら言う。


「こちらの方がクリスの恋人かもしれないじゃない! 大丈夫よ、私は女装趣味の人でも娘を愛してくれたらそれで良いの」

「何で俺が自然と選択肢から外されるの?」

「あの、私女です」

「えっ!?」


 リンがバングルを外してその女性に自分が女性であることを説明していると、またもや階段から声がする。

 クリスと同じ金髪碧眼の青年が現れた。


「待って下さい父上、母上! もしやそのゴリラも恋人候補やもしれません!」

「結局ゴリラ扱いなのか」

「兄様、流石にゴリラは無いですわ」

「なあ、そろそろ泣いていいか」


 なんだか混沌としてきたぞ。

 状況に追いつけずにいるとクリスが僕の腕を掴んできた。


「父様、母様、兄様、ワタクシは、クリスティーナは……この男性と将来を誓いあったのです!!」


 状況は未だ追いつけていないが、今の一言で大分面倒な事に巻き込まれたのは直感で分かった。




 僕達はラインハルト邸の一室にクリスと共に集められていた。

 クリスから事情を聞くと、親が彼女を呼び戻した理由は冒険者を辞めさせ、結婚させる為だったそうだ。

 勿論クリスはその事に猛反対、そして適当に理由を加えていくうちに、既に恋人がいるから結婚できないと言ったそうだ。


「すみません、咄嗟とはいえユーリ様というお方がいるのにワタクシったら」

「僕を巻き込んだ事に対しての謝罪は無いんだ」

「ヒロにもご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。しかしこうでもしないと父様は納得してくれません。ですから今回だけ恋人という事にして下さい」


 結婚って僕達まだ十五歳の少年少女なんだけどね。

 まあ、乗りかかった船だ。腹を括ろう。


 すると扉からノックの音が入り込んだ。

 扉が開きさっきの三人が現れる。

 僕以外の仲間は一度退出させられ、僕は完全に孤立無援に陥る。

 ラインハルト家は部屋に用意されてあった椅子に腰掛け、僕にも座るよう促す。

 やったことはないけど面接とはこんな感じなのかと思った。


「先程は申し訳ありません。お見苦しいものを見せてしまいました。私はフリードリヒ・フォン・ラインハルトと申します。こちらは家内のマルガレーテ、そして息子のマックスです」

「ぼ、僕は泉田緋色といいます。冒険者と御者を兼業しています」

「ほう、その年でそんな苦労を。さぞ大変でしょうな」


 話してみると案外まともな人だ。

 さっきは愛娘の恋人ということでパニックになっていただけだろう。

 このまま話していれば穏便に済みそうだ。

 しかし現実はそう上手くいかない。


「それではヒイロくん、結婚の条件の話なんだが」

「は、はい!」

「私と真剣で決闘してもらう。勿論私は本気でやらせてもらう」


 穏便に済むなんて思っていた自分が馬鹿だった。

 この人は最初から結婚させるつもりはない。普通に考えればそうなるに決まっていた。


「ま、待って下さい! 僕は真剣なんて握ったことも……」

「まあ待ちなさい。そう言うと思って他の案も考えてあるよ」


 他の案、嫌な予感しかしないけど一応聞いてみよう。

 もしかしたら楽なものかもしれない。


「その、他の案というのは?」

「うむ。最近ここの鉱山にモンスターが棲息してね。武器の製造業に陰りが見え始めているんだ。近くの冒険者にも頼んだが、君達が来る少し前に失敗の通達が来た。そこで君にはそのモンスター“地竜ワーム”を倒してきてほしい。それも一人でだ。地竜は亜竜種、つまりは本物とは格は落ちるが竜の一種だ。強い生命力を持ち、切りつけてもたちまち治っていく化物だ。その退治を頼みたい」


 やはり無理難題を押し付けてきたか。

 この親父はどうしてもクリスを渡したくないようだ。

 だからといって引き下がる訳にもいかない。

 真剣勝負だと負ける可能性は高い。ならここは地竜退治の方を受けよう。

 いざ言おうとした瞬間、部屋の扉が勢い良く開く。

 入ってきたのはどうも執事のようだ。


「旦那様! ご報告があります!」

「何だ!? 今は大切な話があると先程―――」

「炭坑を掘った穴の先に謎の空間を見つけ、そこにいたゴーレムにより作業続行不可との情報が入りました!」

「何だと……? 鉱山に続き炭坑までも……」


 すると執事の横からユーリが急いだ様子で顔を出す。


「ヒロ! さっきガニムのオヤッサンの伝言鸚鵡が届いて! フェルさんが炭坑に行ったきり帰ってこないって……!」


 それを聞き体が勝手に動き出す。

 しかしフリードリヒ卿が腕を掴み行かせまいとする。


「貴様一体どこへ行く!?」

「炭坑の人達を、フェルさんを助けに行きます!」

「そんなもの他の者に任せておけば良い! 貴様は私と決闘するか、ワームを退治するか、どちらかしか選べぬぞ! さもないと貴様に娘をやる事はできん!」


 まだそんな事を言うのかこの親父は。

 フェルさんを助けるため炭坑へ行くか、クリスを戻すため鉱山に行くか。

 僕はどっちを選べば良いんだ!?

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