表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
101/120

第101話 最終演目

 七日続いた大統合武闘祭も、残すところ最後の団体戦のみとなってしまった。

 この団体戦の結果をもって、優勝国が決定する。

 参加する選手の誰も彼もが、大なり小なり目の前の栄光に胸をときめかせ、目前の戦いに血を沸き立たせ肉を踊らせている。中には雄叫びを上げ、奮起する者まで出る始末だ。


 その中にあってなお、ヒロは静かにある人物に目を光らせていた。


「ヒロ、どうしたの? さっきから険しい顔でモーラの方を見ているけど」

「ん? いや、なんでも……」


 覗き込む黒髪の少女の問いかけに、ヒロはハッと我に返り、明後日の方向へ視線を移す。


 ヒロたちは今、闘技場の中央に集められていた。

 彼らフルーランスの代表だけではない。この祭りに参加する全ての国の代表が一堂に会して、この場に集結している。

 ヒロはその七ヵ国の一つであるモーラの代表たち。そのうちの一人、ソテルに対し警戒心を露わにしていた。

 隠すつもりのないその視線に気付いていないのか、それとも気付いた上で流しているのか。ソテルはヒロのことなど気にも留めず、ただ静かに開幕の刻を待っていた。




 さて、この闘技場の舞台に全ての選手、全ての国の代表が集められた目的は唯一つ。

 ()()()()()()()()()()()()()


『勇猛果敢な戦士の諸君! よくぞ集まってくれた!』


 拡声用の魔道具越しに、初老の男性の声が響き渡る。

 ふっと目線を上げてみれば、各国の首脳が集まる特別席に一人、拡声魔道具(マイク)を前に立ち上がるアルトリウス皇帝の姿があった。


『ここまでよく闘い、よく競い合ってくれた。まずはその働きに、その名誉ある闘争に、最大の称賛と感謝を』


 皇帝はそう言うと深く頭を下げた。

 その行為に対していの一番に、皇帝直轄の聖騎士であるキャメロスの面々が跪き、一拍遅れて各国の騎士職の者たちが続いて身を屈める。それに習ってか、次々に選手たちは低頭の姿勢を見せ、皇帝に敬服の意を示す。


『さて、だが愉しい時というのは早く過ぎるもの。この大統合武闘祭も一演目のみとなってしまった。名残惜しくはあるが……いや、ここで躊躇えば今まで頑張ってくれた皆に無礼というもの。

 今ここに! 大統合武闘祭、最後の演目! 団体戦“偉大なる戦い(バトル・ロイヤル)”の開会を宣言するッ!!』


 宣言とともに割れんばかりの喝采が沸き起こる。

 選手も観客も一つとなり、今この瞬間に、そしてこの後の戦いに、栄光あれ、祝福あれと、声を上げる。


『では、ルールの説明だ。まずはこれを観てもらおう!』


 皇帝の言葉とともに、闘技場の上空に魔導によって映し出された映像が浮かび上がる。

 そこには山脈の頂きに至るほどの上空に浮かぶ巨大な浮島があった。

 島が宙に浮く、という現象だけでも目玉が飛び落ちんほどの衝撃だが、その島はただ陸地が浮かんでいるだけではない。その島の北方には険しい山が聳え立ち、山の西側半分が火山、東側半分が雪山となった異様な姿であった。

 異様なのはそれだけではない。島の中央には砂漠、東には木々が生い茂り、西には古代文明を思わせる遺跡群、そして南には広大な湖が広がっている。

 明らかに自然にできたものではないのは確かだが、人が造ったものと言うにはあまりにも規格外が過ぎる。


『今見ているものは本団体戦のため、魔女の郷からお越し頂いた大婆様が創造した特別ステージ! 全ての属性魔法を操り、天候すら左右するその力を以て、全八つのフィールドを包括する特殊な舞台だ!』


 ありえない、と誰かが言葉を漏らした。それは皆の気持ちを代弁するものであった。

 魔術・魔導はあらゆる事象を可能にする“技術”ではある。しかし“不可能”を可能にするような“奇跡”ではない。それはもはやこの世界で言う“魔法”に他ならない。

 魔女というものは、ここまで規格外の存在なのかと改めて実感させられる。


『それではここで大婆様から皆へ一言いただこう。さあ、大婆様、こちらの魔道具にお言葉を』


 そう言って皇帝は、脇に控える腰が曲がった小さな老婆に魔道具を差し出す。

 老婆は皇帝の腰元にさえも及ばないほど小さく、深く被ったフードから半分ほど見えているその顔は無数の皺が刻まれており、開かなければ口の位置さえ覚束ない。

 そんな彼女ではあるが、あの浮島を形成し、今も天空へと維持し続けているほどの魔力をその身に秘めている。

 その彼女から一体どのような言葉が出てくるのか。ヒロは知らず唾を飲んだ。




『いんがすんがすん』

(吉本だーーーーーーーー!?)


 突如として耳に飛び込んだのは、前の世界でいつか耳にしたギャグであった。

 当然、ヒロ以外の選手は言葉の意味がわからず頭上にハテナを浮かべていた。


 その後すぐに大婆様の横に付き従っていた若い魔女がすかさずフォローに回った。


『失礼。大婆様はご高齢のため、滑舌のほうがよろしくなく……。先程のお言葉は、『猛き戦士たちよ、聡き賢者たちよ、存分に力を振るいなさい』と申しておいでです』

(いやいやいや絶対違う絶対違う)

「流石は魔女を束ねる者。言葉の重みが違うな」

(信じた!?)


 発言とミリも合っていない解説に、ヒロは心の中で首を高速で横に振る。

 それでも他の選手は納得したようで、感嘆の声が聞こえてきた。


『大婆様からのお言葉を頂いたところで改めて……これから皆の者にはこの浮島で最後の団体戦に挑んでもらう!

 ルールは単純! 今から選手たちは代表国ごとに、中央の砂漠フィールド以外の七つのフィールドへ転送される。各フィールドのどこかには遺物(レリック)が眠っており、その遺物レリックを砂漠フィールドの中央に聳え立つ塔の頂上に納めた者から順位がつけられる』


 なるほど。要は借り物競走ならぬ探し物競争のようなものか。

 ヒロは気を取り直し、一人、得心する。


『但し! ルールは単純だが、簡単ではないぞ。各フィールドには遺物レリックを守護する番人が用意されている。帝国騎士複数がかりでも苦戦する強敵だ。

 また、塔に納める遺物について、()()()()()。加えて、本団体戦において妨害行為に対する()()()()()


 その言葉を聞き、一部の頭が回る者の目がギラリと光った。


『このことが何を意味するか。それは敢えて言わないでおこう。それでは、正々堂々の闘いを期待する』


 最後に皇帝が督励の言葉を告げると、いつの間に現れたのか、運営の人間たちが各々の国の代表たちの元まで赴く。

 その手には、水晶のような半透明で球状の魔道具が五つ。豪奢な台座の上に乗せられ、大事そうに抱えられていた。

 これが恐らく、あの浮島へ転送するための魔道具だろう。

 選手たちは迷うことなく、次々とその魔道具を手に取る。

 そして全員に魔道具が渡りきったのを確認すると、再び拡声用の魔道具が起動する。



『それでは―――健闘を祈る』



 ―――――――――



 健闘を祈る。皇帝のその言葉を聞いた瞬間に眩い光が視界を覆ったと思ったら、体の芯に独特な感触が襲った。

 それが“浮遊感”であることを気付いたときには、僕の体は下に向かって動き始めていた。


「うわあああああああああ!!?」


 世界がぐるり、ぐるりと回り、青空と大地が交互に飛び込んでくる。

 体を捻じり、手足を大きく広げることでなんとか体勢を維持するが、その時には緑の大地が目前まで迫ってきていた。


(影魔導! ダメだ、影から遠すぎて形成できない! だったら鬼人化で―――)


 鬼人化で衝撃に耐えるしかない。その考えに至るが早いか、猛烈な風が自身の正面から吹いてきた。

 どう考えても自然のものとは思えないその上昇気流は、落下のスピードを見る間に奪い、僕の体を優しく地上に降ろす。


「ふぅ。みんな、大丈夫?」


 その声で、先程の突風の正体はユーリの風魔導であることを理解する。


「ごめん、ユーリ。助かった」

「うん。ヒロは大丈夫そうだね。他のみんなは?」


 見渡すと、同じフルーランスのメンバーがそこに立っていた。


「私は無事よ。お陰様でね」

「フン。この程度、貴様の手を煩わせるまでもなかったが……まあ良い。許そう」

「王子……。少しは素直に感謝したらどうですか。ああ、私も大事ない。無事だ」


 リン。ルイ王子。エピーヌ。他の三人も特に負傷した様子は無さそうだ。

 団体戦が始まる前に一人も欠けることなく全員が無事であることに、胸をほっと撫で下ろす。


「どうやらここはあの映像で見た浮島……それも草原のステージのようだな」


 周囲を見渡すと、疎らな樹木に緑の草原、そして草原を切り裂くように河川が蛇行しながら横たわっている。

 右手に目を向けると、森と思しき鬱蒼とした木々。左手には、川とつながる水平線。そして正面には、砂原と遠く塔らしき存在が目に映る。

 闘技場で見た浮島の全景から考えるに、ここは島の南東側。湖と森の境目にある草原のステージのようだ。


「さて、ここからどうするか」

「どうするも何も、番人を倒して遺物(レリック)を手に入れるんじゃないの?」

「阿呆。……もう一度言おう。阿呆」

「二回も言われた?!」


 ショックを受けるユーリを尻目に、ルイ王子はそのまま話を続ける。


「皇帝も言っていたであろう。“納める遺物は問わない”、“妨害もあり”とな。つまりは“我らが直接遺物を手に入れずとも、遺物を手にした他の代表から奪い取っても問題はない”ということだ」

「今回の団体戦は“先に遺物を納めた”順に点数がつけられる。どこにあるか分からない遺物を探すより、先に塔で待ち伏せした方が効率的ってわけね」


 確かに、ルイ王子とリンの言う通りだ。

 相手から遺物を奪い取れるのかという問題はさておき、一位になるには間違いなくその方法が最適だろう。

 だがしかし、()()()()()が僕の脳裏によぎる。


「それで、我らが勇者候補たちはどうしたい?」

「勿論!」

「遺物を探す!」


 勇者候補の二人は屈託のない良い笑顔でそう答える。

 そうだ。この二人は効率などより己の信条を優先する。

 特に誠実の勇者であるエピーヌはどう説き伏せようと、変わることはないだろう。


「……仕方あるまい。地道に遺物を探すとするか」

「「オーッ!」」


 勢いよく掛け声を上げるユーリとエピーヌを他所に、僕たち三人は小さく鼻を鳴らした。



 ―――――――――



 七ヵ国の代表たちがそれぞれ七つのステージに到着したと同時に、浮島のさらに上空に用意された浮遊観客席にも数人の影が転送される。

 その場に姿を表したのは七ヵ国の首脳陣であった。

 否、それだけではない。先程紹介のあった大婆をはじめ、ケルティンを構成する他三つのカントリーの王たち、アイゼンラントの陸軍幹部にケルティンの海軍提督、世界一の美女と名高いフルーランス王妃まで、各国の名だたる著名人がこの場に参列していた。


「さあさあ。皆様、どうぞこちらの席へ。闘技場の大画面ヴィジョンで見るのも良いですが、闘いは生で観てこそ。望遠用の魔道具も用意していますので、そちらもお使いください。もちろん、飲み物や軽食も取り揃えていますぞ」


 そう言って皇帝は手ずから各国のVIPたちを案内する。

 観客席には、護衛のためだろう、すでに数人の帝国騎士が待機していた。その中には聖十二騎士(ゾディアック)である“磨羯宮”のディカプラと“双児宮”のアンジェラの姿もあった。


「ほう、これはなんとも豪勢な。アルよ、君もなかなか人を楽しませる才能を持っているようだ」

「ははは! 皇帝を引退したら旅芸人でも目指してみるか! その時はジューダス、貴様も一緒にやってくれるのだろうな?」

「謹んで遠慮しよう。こんな私を教皇として慕ってくれた人々に報いるためにもな。それにしても、キッド、それにエラ、ご無沙汰だな。元気そうで何よりだ」

「同窓会じゃねえんだ。今は仕事中なんでな、ゲストと護衛って立場は忘れんでくれ、モーラ教皇猊下」

「キッドちゃんはお堅いのです。ジューダスちゃんが教皇になってから、こうやって話せる機会自体減ったのですから今日くらいは良いのですよ。ねえ、アルちゃん?」

「そうだな。我々も数十年来の仲だ。たまには昔のように語り合うのもまた一興。その時はフリードリヒも誘うとしよう」


 懐古しつつ昔馴染みと言葉を交わすアルトリウスに声をかけるのは、何も顔見知りだけではない。

 もてなす側とはいえ、ユニオス帝国の最高権力者だ。知らぬ間に彼の周りには人だかりができていた。


「アルトリウス皇帝陛下。この度は我らケルティンの諸王もお招き頂き感謝の至りでございます」

「何を言うか、リチャード王。そも、私とお前は従兄弟同士。堅苦しい挨拶はなしにしよう!」

「はじめまして、皇帝陛下。わたくし、シャルルの妻のマリアと申します。この度は私のような身分のものまでお招き頂きありがとうございます」

「おお、そなたがシャルルの! ヤツめ、このような麗しい女性を娶りおって。よし、仕返しにヤツの恥ずかしい過去でも語って聞かせるとするか。あやつは今でこそああもおとなしいが、昔は息子のルイ王子に負けず劣らずの荒くれ者でな―――」

「まあ。続きが気になりますが、それはまた別の機会に。今は挨拶までとさせていただきます」


 談笑を交わしつつも、それぞれ決められた席へと腰を下ろす。

 目の前には選手たちが降り立つ広大な浮島。そして彼らの行動を詳細に映し出す映像魔法(モニター)

 映像魔法は闘技場にも用意されているが、全体の戦況を俯瞰できるこの状況は流石VIP待遇といったところか。


 今、自身を除いた最後の一人が腰を掛けたことを確認し、皇帝は己の椅子に深く体を預けた。

 団体戦は既に始まっている。戦いの熱気は未だ燃え上がらずとも、それは火の付いた炭のように静かに蠢いていた。



 ―――――――――



 ―――北部。溶岩洞エリア。


「我々の目的は唯一つ! 勝利のみ!! そのためには、たとえ非道と罵られようとも、あらゆる手段を用いなければならない!」

Jawohl(ヤヴォール)!』


 浮島の北に聳える巨大な山。

 その東側を望めば吹雪吹き荒れる雪山。西を望めば所々緩やかに溶岩が流れる岩山。

 相反する風景が衝突するその麓に、彼ら―――アイゼンラントの代表たちはいた。

 彼らの背後にはポッカリと口を開けた洞窟があり、その奥は燃え滾る溶岩によって赤々と照らされていた。

 溶岩洞から吐かれる灼熱の吐息を背に、彼らの隊長であるルーデル少将は部下であり共に戦う戦友でもある他の選手たちのため、奮起の演説をしていた。


「我らアイゼンラントの兵士たちは勇猛果敢にして一騎当千! さらに、その統制された動きは、恐ろしくも軍隊蟻をも凌ぐ! その我らが他国の烏合の衆に劣るはずもなし!」

『Jawohl!』

「だがまだ足りない! “盤石”では足りん!! “絶対”……“絶対”の勝利こそ我らが求めるものッ!!」

『Jawohl!』

「我らは今から中央の塔を目指す! 塔の最上階を陣取り、初めに遺物(レリック)を持ってきた他国の代表からこれを奪い取り、優勝をもぎ取るッ!! この中に私より仁義に反することを恐れる臆病者はいるか!?」

Nein(ネイン)!』

Gut(グート)。ならば……総員、前進ッ!! アイゼンラント万歳ハイル・アイゼンラントッ!!」

アイゼンラント万歳ハイル・アイゼンラントッ!!』


 アイゼンラントの代表は一糸乱れぬ動きで行進を始める。

 その向かう先は、蜃気楼の中、遠く聳える砂上の塔だ。



 ―――――――――



 ―――南西。湖畔エリア。


 南部に広がる広大な湖。その畔で、ケルティンの代表たちは今後の方針について話し合っていた。

 ……否、“話し合う”というにはそれはあまりにも非・建設的であり、主張をぶつけ合うその様は“口論”と言える程にまで発展していた。


「だーかーらー! 待ち伏せすべきだっつってんだろ!」


 エリンの戦士、セタンタはさも当然のごとく塔での待ち伏せを提案する。


「だ、駄目です! い、遺物を探しましょう!」


 それに真っ向から反対するのは、セタンタの背の半分ほどしかない半・小人族(ハーフハーフリング)の魔導師、ルークであった。

 傍から見れば幼い子供に強面の大男が食ってかかっているように見える。

 だがその実、意見を一向に曲げようとしないのはルークの方であった。


「どこにあるかも分からない遺物なんか探すより、塔で待ち伏せしたほうが確実だし手っ取り早い!」

「ほ、他の選手が必死で手にした遺物を、その、よ、横から掠め取るような真似、僕には絶対、できません!」

「あーもぉー埒が明かねぇ! じゃあ俺一人でやってやる! それなら文句ねぇだろ!」

「駄目です!!」

「何だよオマエ!?」


 まるきり進展しない二人のやり取りを眺めながら、ジェームズは溜息を吐いた。

 女王よりこの一癖も二癖もある代表たちの取り纏め―――もとい、お守りを仰せつかっている身としては、ここらで一つ鶴の一声でも上げたいところだが、生憎と単独任務が多かった彼にとっては難しい話だった。

 自身の不甲斐なさに辟易としながらも、仕方なく側で静観している二人に意見を求める。


「シャーロット・フューリアス卿、ロビン・フッド。貴方達の意見は?」


 問いかけられた内の一人、男装の麗人と呼ばれるに相応しき赤毛の女騎士は、畔にあった丁度良さげな小岩に腰掛け、持ち込んでいた詩篇から視線を外さず答える。


「興味ないね。どちらにせよ、今の戦力なら一位を取れる確率も、それにかける労力も同程度だ。君たちの判断に委ねるよ」


 予想はしていたが、本当にこの騎士崩れは自身の興味が向かない事柄に関しては無関心である。

 今に始まった話ではないかと諦めの色を浮かばせ、ジェームズはもう一人に声をかける。


「ロビン・フッド。貴方はどうか?」

「生憎と、そこのレディと同意見でさ。まあ雇われなんでね、上のご指示には従いますよっと」


 緑の衣を身に纏い、フードを目深に被った青年は飄々とそう答える。

 まあこちらも分かっていたこと。予想通りといえばその通りだ。

 彼の立ち位置は一貫して“雇われ”。今大会へは、あくまで金銭による契約の上での参加だった。

 戦士としての誉れや騎士としての誇りなど当然なく、それ故、勝利への頓着もない。

 他の代表と比べれば聞き分けがよく、御し易い。が、勝利への執着がない分、常にどこか無気力で、本気を隠しているように見える。

 関心のないことに対しては実力を出さない、という点において二人は共通している。


「私が言えた立場ではないが、随分と人任せだねロビン・フッド。それにしても、まさかあの有名な義賊がお金欲しさで女王陛下と契約するとは。この私の頭脳でも予想できなかったよ」


 ピクリ、と緑のフードが揺れた。


「マジで言えた立場じゃねっスね。まあ、うちら庶民はお貴族様に大量の税金を取られてるんでね、常に金欠なんすわ。それこそ、その毒にも薬にもならないような詩篇を買う余裕すらないくらいにね」


 パタム、と本が閉じられる。


「そうかそうか。まあ君のような教養の無さそうな盗賊には、この詩篇の一行ですら理解できないだろうとも。おっと、そもそも読めるのかな?」

「生憎、“クソ”と“ゴミ”しか分からないんでね。まあ騎士や貴族相手にはこれで十分なんだが。ああ、そうだ。書きたい単語があるんだが、良ければ教えてくれませんかね? “くたばれ放蕩騎士”ってさ」

「ハッハッハ! いいだろう! ついでに決闘の作法も教えてやろう。実践込みでね!」

「ありがたいねぇ! そんならお返しに獣の狩り方でも教えてやるよ。作法とかぬかすノロマな獣の狩り方をよ!」


 今にも取っ組み合いを始めんばかりに、シャーロットとロビンは嫌味を大いに混ぜた舌戦を繰り広げる。

 周りでやいのやいのと言い争う中、ジェームズは隠すことなく―――むしろ周りに聞こえるように、先程よりも何倍も大きな溜息を吐いた。

 今なら女王の心労も分かる。意見が食い違う四国を取り纏めることのなんと大変なことか。それもまだ二十歳にも満たない少女がだ。

 改めて、尊敬とともに女王へ忠誠を誓い、仲間割れ一歩手前の彼らを諫めんと、ジェームズは頭を押さえながら気を取り直す。



 ―――――――――



 ―――北東。雪山エリア。


 極寒の吹雪(ブリザード)が吹き荒ぶ中、風の音をかき消すかのように大きな高笑いが響く。


「ホーホッホッホ! この勝負、私達の勝ちね!!」


 高らかに勝利を宣言するのは、リドニック一の我儘令嬢、エレーナであった。

 彼女の目には揺るぎない勝利の確信、そしてその鼻には美しい容姿をぶち壊す細く伸びた氷柱があった。


「私達、リドニックにとってはこの程度の寒さ、微風が肌を撫でた程度しかないわ! 謂わばこのエリアは私達の“ホーム”も同然……。この勝負、私達の勝ちね!(2回目)」

「お嬢様。もう分かりましたので、そろそろ行動を起こしましょう。このままですとお嬢様の氷像がずっとこの地に残ることになりますぞ」

「そうねセバス! 私の美しさが後世に残るのは至極当然ではあるけれど、こんな誰の目にもつかない辺鄙に置かれたら氷像が可哀想だわ! 行きましょう!」


 そう言うとエレーナはその場で踵を返し、躊躇うことなく吹雪の中へ前進を始める。


「ところでエレーナ様、向かう先は決まっているのですか?」


 邁進するエレーナを呼び止めたのは、体中を布や衣服で覆い纏ったハイエルフであった。


「……誰?」

「エゼリアです。上に立つ度量があるのならチームメンバーの顔と名前くらい覚えておきなさい」

「えー。だって見た目わかんないくらい厚着してるし、そもそも話しかけても貴女、反応薄いじゃない。あとそれと、エルフって北部出身よね。寒さに強くないの?」

「エルフは元来樹木や自然の精霊がルーツです。このような草木の薄い場所は得意としません。それと、私はハイエルフです」

「ああ、そう。どっちがどっちかなんて私には知らないけど。……ああ、そうそう、さっきの質問の答えだけどね、当然“遺物”がある方向に決まっているじゃない」


 彼女は自信満々にそう答える。そこに、一寸の迷いはない。


「……正直、驚きです。貴女ならてっきり他の選手から遺物を奪い取るものかと。こう、『貴方の物は私の物』的な感じで」

「私をなんだと思っているのよ。……まあ、別にやってもいいんだけど、そこまでしてやる()()がない、ってのが正直なところね」

「それは、何故……?」

「勿論それは、私達には最強のバルザークがいるからよ」


 指差す先には、吹雪に晒されながらも微動だにせず直立する大男の姿があった。

 英雄級“狂戦士”バルザーク。今は全身の拘束具によって両脚以外の行動は制限されているが、一度動き出せば目に映るもの、耳で感知したもの、鼻で嗅いだ臭いの元すべてを粉砕せんと暴れ回る、文字通りの狂戦士(バーサーカー)

 なるほど、とエゼリアは得心が行く。


「少数の遺物をかけて他の英雄級と争奪戦を行うより、先に遺物を獲得して“狂戦士ベルセルク”に守らせたほうが堅実だから、ということでしょうか」

「消極的な言い方だけど、ほぼほぼ正解よ。

 そもそも、代表たちの多くが同様の考えなら遺物の数が足りなくなってしまう。フルーランスやアイゼンラントくらいなら相手できるかもだけど、組まれたりキャメロスのマックスが参戦するなら流石のバルザークも加減はできないわ。そうなれば試合どころではなくなる。勝ちの目はあるにはあるんだけど、それに対する想定被害が大きすぎるわ。

 それなら逆に、バルザークに遺物を警護させたほうが他の選手たちも手が出しにくいし、突破力も十分。さっきも言ったとおり、このエリアは私達のホームも同然なんだから、遺物を守る番人とかも恐るるに足りないわ」

「……貴女も意外と頭が回るのですね」

「不敬〜」


 頭まで覆った衣服の間から覗く顔は依然無表情ではあるが、その声色は――会ったときと比べるとだが――多少柔らかさが宿った。

 傍で二人のやり取りを見ていたセバスはそう感じた。


「方針は理解しました。それで、そちらの方向に遺物があるのですね?」

「は?」

「……え?」

「いや……場所までは知らないけど」

「…………そうですか」


 柔らかくなったと思えたその声に、再び鉄のような冷たさと固さが戻る。

 この大会を通して少しでもエレーナお嬢様に気心知れる相手でもできれば。そんなことを夢想していたセバスは己の思慮の浅さに呆れる。


「……そう上手くいかないものか……」


 ガクリと肩を落とし、誰にも気付かれないように小さく息を吐く。

 ふと、目の端でもう一人のリドニック代表を捉える。

 白兎の面を被った異国の女剣士。彼女はただ静かに、観察するように佇んでいた。


「イナバ殿」

「ん? ああ、相済まなんし。ちっとばかし、ぼうっとしてありんした。して、何用でありんすか?」

「お嬢様の仰っていた通り、これから遺物を探しに行きます。貴殿にも当然、手伝ってもらうことになりますが……」

「勿論、わっちもお手を貸しなんす。そも、わっちは雇われの身。エレーナ殿の言うことは絶対なればこそ」


 そう言い残すと、スタスタとエレーナの背を追っていく。

 気付けばエゼリアやバルザークでさえも、既に彼女に付き従うように吹雪の奥へ進んでいく。

 セバスはなんとも言えない気持ちを胸に仕舞い込んだまま、彼らと同じ方向へ足を進めた。



 ―――――――――



 ―――東部。樹海エリア。


「これから私達は遺物を捜索する。異論がある者はこの場で名乗り出てほしい」


 東シュラーヴァの代表、ゲオルゲは仲間たちにそう告げる。今後の蟠りがないように、反論があるのなら受け入れると。

 しかし、シュラーヴァの面々は誰一人として声を上げない。

 彼の意見に賛同するものは勿論のこと、仮に対立意見があるとしても英雄級であるゲオルゲの判断に真っ向から逆らう者はこの場にはいない。


「文句なんてありませんよ、隊長! 俺を含めこの場にいる全員はアンタの実力と頭脳を認めている。アンタが“白”と言えば、なんだって白になる。な! アバシン!」

「そうだぜ、旦那。アタシたちアマゾネスは強い奴に従う。旦那は強い! だから従う! それだけだぜ!」


 ドラガンとアバシンは肩を組みながら和気藹々と答える。

 いつの間にこの二人はここまで仲良くなったのか。恐らく波長が合ったのだろう。

 ゲオルゲは肩を竦めながら視線を彼らから移す。


「グリム。君の意見も聞きたい」


 話を振られたグリムは顔を向けず、背を木に預けながら答える。


「……異論ない。と、言うより……俺も、そこの二人と……同意見、だ……」


 同意見、というのは『ゲオルゲの意見には全面的に従う』ということだろう。

 ゲオルゲとしては思考放棄などではなく、仲間たちの意見を聞いた上で方針を決定したいと思っているのだが。


「どうしても納得できない……と言うなら……そこの、魔女にでも……占ってもらえ……」


 指差す先には、少し離れたところで、たった一人で手持ち無沙汰に杖を弄っているアリーナの姿がある。


「おーい、アリーナ! そんなとこにないでよー、アンタの自慢の占星術で占ってくれよー!」

「あー? あー、うん、大丈夫じゃない? それで良いって言ってます、私の占星術が」

「いや、占ってねえじゃん。つか、占星術でそんな脳内に語りかける感じだったか?」

「うるっさいわ―――ン゛ン、うるさいですね。そんなだからパッとしないんですよ貴方は」

「なんか当たり強くない!?」


 いつもと異なり、やや投げやりな態度ではあったが、方針としては反対ではないようだ。


「では決まりだな。皆、行こう」



 ―――――――



 ―――北西。岩山エリア。


 この場には、本大会の優勝候補筆頭、キャメロスの代表たちがいた。

 その一人、帝国騎士団の団長にして、英雄級最強の男―――マックスが帝国騎士の同胞に声をかける。


「皆、準備はいいね。それでは、―――」



 ―――――――――



 ―――西部。遺跡エリア。 ―――モーラ代表。


「……作戦、」




「「―――開始」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ