表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

君の影を探してる

【登場人物】

<カタストロフ>

・佐月慎也/サツキ

本編の主人公。コードネームは<破壊を灯す青(フォージェリーダンテ)>。


・里山モネ/モネ=フィーヴァル

本編のヒロイン。政府に勤める裏で、政府反逆テロ組織<カタストロフ>を運営する。


・サリカ

盲目の少女。回復魔法の使い手。あらゆるものを見る視認の能力も持つ。


・カディス

髪の長い男性。あまり話さない。能力は氷で剣を作る。


・カノン

左目にサツキの瞳を持つ。能力は相手の活力の吸引と失った体の部位の再生。



<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>

夏目(なつめ) 雅之(まさゆき)

小学生の頃からサツキの唯一の友人だった。サツキを<エラ・ステラス>に(いざな)った本人。良からぬことを企んでいる。


・レイア/リア・シェイク

<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>のリーダー。



「あーあ、バレちゃったかなぁ」


俺はソファに凭れる。マンションのゴミ捨て場から拾ってきた粗大ゴミだ。綿は駄目になっていて、座り心地は最悪だ。俺が体重を預けると、穴が空いたところから、ぷすっと、間の抜けた音が出た。


「で、どうするつもりなの。夏目(なつめ)雅之(まさゆき)

「今はその名前で呼ぶのはやめてくれよ、リア。俺のコードネームはリンネだ。夏目雅之はこの世界での仮の名前にすぎないよ」


俺は、自分の武器であるハルバードを、タオルで丁寧に拭いて手入れをする。美しい鏡のような銀色のボディに俺の顔が写る。瞳の色は黄色。今の俺は人間ではない。


「佐月慎也。前話しただろ、能力適正値が異常な程高い奴」

「えっと…。リンネのご友人の方ね。<エラ・ステラス>に連れていかれた」

「そうそう。ま、俺が友達だと思っていても、あっちがどう考えているか分からねぇけどな。下の名前で呼ぶだけで嫌な顔するし」

「そうね。貴方みたいな胡散臭い男と親睦を深める理由が分からないもの。あなたもボクも、他者に幻影を見せない限り、老いない化け物」

「うるせぇよ!?少なくとも俺は人間扱いして欲しいかな!?」


胡散臭い、と呼ばれてしまうことは否定出来ないが。正直、小学生時代から佐月と高度を共にしてきて、迷惑がられた回数は数知れない。人間という生き物は群れたがると思っていたが、何故だかあいつは孤独を望んでいた。変わった野郎である。


「どうするのかしら?貴方の計画だと、<兵器>になった時点で、サツキを回収する予定だったのでしょう。フィーヴァルが捨て駒にしなかったのが予想外…よね」

「何か特別な思い入れがあったんだろ。…俺のこともあの女に気づかれたし、近々こちらに来るだろうな。あー参ったな、こりゃ」


ソファーと同じく、拾ってきたままのテーブルに顎を乗せる。拭いていない天板は、なんだか生臭くて、嫌な匂いがした。


「ボクが殺してしまう?既にサツキは<終わらない災厄(カタストロフ)>の手先。生かしておいてもこちらに得はない」


「…そう言うなら処分してしまってもいいよ。―――リーダー」


<カタストロフ>と<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>。同じ政府に反逆する組織でも、それらは決して交わることはない。

交わってはいけないのだ。



昼下がり。今日は、政府で働く社会人2人組は、仕事を休み、我が家で計画を練っている。それもそのはず。今回の目的は、僕から見た元の世界に行き、反政府である<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>の尻尾を捕らえるためである。

僕たちは、いつものメンバーで机を囲んでいた。


「…こんなの見つけた」


ミルファーが出したのは履歴書のような紙だ。顔写真と個人情報が細々と記されている。汚い文字で殴り書きにされた文字よりも、写真の方に目がいった。


「レイア…?誰だこれ。夏目の女装した姿か?」

「どう見たらそうなるのよ。そんな訳ないでしょう。佐月にしてはつまらないジョークね。―――しかし、これが見つかったということは、こいつは政府の元職員に間違いないようね」

「元?既に辞めて組織に移ったのか?」

「私たちと違って属しながら反逆している訳じゃないのよ。完全にあちら側。分かりやすく表すと…、『過激派』かしらね?」

「僕から見たお前のやり方も『過激派』だと肯けるが」

「そういうものじゃないのよ。<ディスミス>並に話が合わない連中だわ。女王(クイーン)を蔑ろにして、<ダンテ>を崇拝することだけは、まあ…それなりに筋が通っているのだけどね」


僕は先日、<ダンテ>と出会った。歪んだ世界の時空を正す管理人。魔法使いと呼ぶより、彼の肩書きはそちらの方が相応しいと感じる。ただ、何らかの陰謀で、この世界<エラ・ステラス>では、<ダンテ>という存在は女王(クイーン)を堕とした忌まわしい人間として恐れられている。<ダンテ>とステラ―――つまり里山モネの正体を知っているのは、ここにいる僕だけだ。話を合わせるべく、僕は適当に相槌を打った。

里山モネはミルファーの方を一瞥する。彼女は紙を手に取り、視線を落とす。そこに書かれた女について語り出した。


「この人は<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>のリーダー。コードネームは<リア・シェイク>。仲間からはリアとか…、そんな感じで呼ばれている…らしい」

「リアって女の人なの?」

「カノンには男に見えるのか?髪型も女性っぽいし、顔の骨格も丸い。どう見ても女だろう」

「顔だけは女性みたいだけど、…鎖骨の辺りが男っぽいのよね」


少女はまじまじと異色の双眸を細めて写真を見つめる。

レイア。コードネームから、モデルはシェークスピアの『リア王』だろうか。あらすじはよく覚えていないが、四大悲劇のひとつだったはずだ。

栗色のウェーブがかったセミロングに満月を埋め込んだような黄色い瞳。その目元には微かながら魔力紋が滲んでいる。この人間も魔法の使い手なのだろう。


「性別は不明よ。戦うのにその情報は必要ないでしょう。まあ、こんな奴がいるってことを覚えておいて」

「こいつと一緒に夏目がいるのか。しかも<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>のリーダー…。なんだか実感が湧かない」

「組織である以上、別々に行動する理由がないもの。夏目がこいつの部下だったかしら…?私だったら一緒に行動するわね。あちらも<カタストロフ>がいつ攻めてくるか恐れているはず」

「もし、別々に行動していたらどうするのですか?向こうじゃ、能力や魔法に頼るのも限界があります」

「そう。だから、向こうに着いたらサリカの魔法が使えるか実験。出来るようなら二手に別れて探す。それでどうかしら?」

「それが最も合理的なら俺は従いますよ」


カディスが頷く。それに合わせてその場にいた全員も頷いた。


「向こうでの滞在時間は3日。それ以内に奴を捕まえて情報を聞き出す。そして処分するわ。覚悟は良い?」


処分。その単語が僕の中で響く。

こちら側に来るまで、僕にとって友人のような関係だったのだ。夏目が僕のことを利用していたとしても、失うのは躊躇ってしまう。


「…よし。じゃあ今から行きましょうか」

「え?今から?モネ様正気です?」

「とりあえず行かないことには始まらないでしょう。ここにいてもやる事ないし。ミル、車を頼むわ」


里山モネが立ち上がると、つられて他のメンバーも椅子から腰を上げる。向かう先は外だ。恐らく、ミルの扱う乗り物で、壁の外へと出るのだろう。


「どうやら本当に行くみたいだな」

「…そうみたいね。シンの故郷か。…ちょっぴり楽しみ」

「ここよりは良いところだと思うぞ。俺がいた時代とはかなり時間が経ってるみたいだけどな」


コートを羽織り、玄関でブーツに履き替えて、外に出る。既に止まっている車に僕達は乗り込んだ。6人乗りの大型車のみたいだ。座席は運転席がミル、助手席は里山モネ、2列目がカディスとサリカ、そして最後が僕とカノンだ。


「これで壁の外に行くのか?どうやって?」

「裏ルートじゃなくて、あの巨大な門を突っ切っていくわ。今日の半時間ぐらいしかあの門は開かないの。だから、滞在時間は3日ってこと」


「エンジンをかけて」と里山モネが言うと、ミルファーは黙ってそうする。

「ねえ、モネさん。これって政府側の組織での仕事なんだよね?私たちっていても平気なの?」

「全然平気よ、<兵器>だけに。ああ、そうそう。忘れてたわ」


里山モネは鞄から仮面を出す。真っ白い表面に青い魔力紋が刻まれた代物だ。認識阻害の魔法がかけられているため、テロを起こす時によく使われている。


「これを付けて」

「怪しすぎないか…?逆に見破られそうだ」

「私がいるから問題無いわ。あと、悪いけど」


里山モネはこちらに振り向く。そして、白い手袋に包まれた指を重ねた。青い瞳が光を帯びて魔法が発動される。


「悪いわね、少しだけ眠っててちょうだい」


意識を持つことを許されず、言葉を発することなく、虚無へと落とされる。襲いかかる眠気に僕は逆らえない。

僕はそっと瞼を閉じた。



「わあ…空が綺麗っ!寒い…ですね…!まるで冷凍庫みたい」

「あれは朝焼けっていうのよ。サリカとカディスは寒くない?寒くなくてもコートは来ておきなさい」


話し声と異常な寒気を感じて目を開く。頬をピリピリと刺すような寒さだ。仮面をしていても分かる。吐いた息は白い。真っ白なそれは、僕が驚く間もなく霧のように消えていく。


「佐月?いつまで寝てるの?」


里山モネにつつかれて、シートから体を浮かす。空はまだ暗い。ビルの隙間に見える朝焼けから、夕方の暗さではないことが分かる。闇の帳を切り裂くように滲んだ緋色は、僕の目をじくじくと刺して痛い。


「着いたのか」

「そうよ。私の部屋に通すからさっさと起きて。ミルが困っているでしょう」

「ああ…。すまない。ミルファーはどうするのか?僕たちと一緒に行動しないのか?」

「…私は送り迎えが仕事だから。この車体じゃ目立つし。任務を遂行したら精霊(シャオン)を飛ばして。モネのアパートまで迎えに来るから」


精霊(シャオン)?」

聞き覚えのない単語に、僕とカノンは首を傾げる。


「カノンや佐月にも分かるようにこれから説明するわ。じゃあ、ミル。あとは私たちに任せて」

「…ご武運を」


ミルファーは運転席から身を乗り出して片手を上げる。僕たちが手を振り返すと、軽く頷き、その場から消えるように走り去った。


目の前には古びたアパートがあった。ここが今回の任務で寝泊まりする場なのだろう。一人暮らし用のようで。テラスやベランダのようなものは無い。

彼女の後に続く。手にした鍵で開けたドアは101号室だ。


「入って良いわ。政府が急遽用意した仮屋だから、物はあまり無いけど。体を休めるのには問題無いはずよ」


「お邪魔します」と挨拶して入室する。長い間掃除をしていなかったのだろう。噎せ返るような埃のにおいが鼻を劈く。

玄関を開けてすぐの六畳間に僕たちは座る。唯一の家具は卓袱台のみ。自然と僕たちは卓袱台を囲むように腰を下ろした。そして、顔を隠していた認識阻害の仮面を外す。


「思ったより狭いですね。…これ5人で寝れます?」

「男は押入れがあるし。あなたたち寝なくても生きていけるから大丈夫でしょう」

「開き直ってる!?」


押入れで寝るなんて初めてだ。暗くて狭いところは嫌いではないから僕は構わない。

改めて、僕は里山モネに質問をする。


「で、精霊(シャオン)ってなんだ?今回の任務はそれが鍵になるのだろう?」

「その説明をするわね。どうせ試さなきゃいけないし。サリカ、腕を出して」


促されたサリカは手袋を脱ぐ。普段、彼女はどのような場合出会っても手袋をしている。能力が自己制御出来ないカノンもそうだが、サリカの場合は肩口まであって、とても長い。黒いヴェールが外れて肌が顕になる。


――――初めて見たサリカの両腕には、歪な魔力紋がぎっしりと刻まれていた。


透き通るように白くて、壊れそうな細い腕に浮かぶ、禍々しい赤茶色の入れ墨。中指にだけ指輪がはめられている。恐らく魔法を使う上で、媒介として、必要なものなのだろう。


「あ、今ちょっと引きましたね?気持ち悪いですもんね、これ」


視認の能力を持つサリカにはどんな建前も通じない。その腕の模様に奇妙であると感じたのは真実だ。僕は素直に頭をさげる。


「…悪い」

「大丈夫だ。俺も初めてサリカのそれを見た時、すげービビったから」とフォローをしてくれた。


「気持ち悪いもんな、それ。魔力発動がどうとかよりも、例え俺にあったとしても手袋で隠すぞ」

「父親に施されたんですよ。あの人から見た私は唯の実験体です。運良く成功してくれたので、魔法に関してなら、並のヒューマンよりは出来ますが。モネ様には及びませんけれどね」


サリカ伏せた目を上げ、両手をパンと鳴らした。

「辛気臭い話はやめてさっさとやりますか。…魔力が切れたらリカバリーお願いしますよ、モネ様」

「ええ。私がいるのだから安心しなさい」


サリカは両手を組み、祈るようなポーズをする。

魔力が注ぎ込まれると、刻まれた魔力紋が青く発光し始めた。導線で火を付けられたように、次々に光は伝わり、指輪まで流れていく。青白く輝いた光はやがて、燐光を放つ蝶に生まれ変わった。


精霊(シャオン)、お願い。リア・シェイクと夏目雅之。彼らが潜む<禁忌の赤い箱(ブラッディパンドラ)>の居場所を見つけて」


盲目の少女が青い蝶に話しかける。するとそれは、蝋燭の火を吹き消したように、光が儚く散った。


「…消えたのか?」

「成功です。探しにいっただけですよ。…もって半日ですかね。結構キツいです」

「半日なら上出来よ。胸を張って良いわ」


里山モネはそのまま続ける。

「いいかしら?ステラの魔力が溢れている<エラ・ステラス>とここはちがうのよ。こちら側だとね、魔法も能力も弱体化するわ」

「弱体化?お前もか?」

「私は魔力紋無しで行使できるぐらい強いから、あまり関係ないわ。サリカは元の魔力紋がしっかりしているから、そこそこ行ける。だけど、能力は別ね。…特に佐月、あなたの場合」

「俺のような中途半端な<兵器>は体を壊す、ってことか」

「相変わらず勘が良いわね。そう。使えないことはないけれど、最悪、懲罰(ペナルティ)だけを被ることになる。だから気を付けること。サリカの治癒も限界があるわ。…佐月だけじゃなくて、カディスもカノンも良いわね?」


「分かった」「分かりました」と青年と少女は返答した。


「さて、そろそろ日も登るわ。探しに行かないと。私は精霊(シャオン)を追いかけに行く。佐月たちは…どうしようかしら?」

「あいつの家、何回か遊びに行ったことがある。もしそのマンションが残っているなら、管理人に問い合わせて跡を追えるかもしれない」

「…殺すことになる。そうなっても…本当に覚悟は良いの?」


「ああ。――――僕は真実を知りたい」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ