商人
手持ちの野菜と穀物だけではじり貧というか、代わり映えの無い食生活になる。
だったらどうすればいい?
自分のところに無いなら余所から買えばいいというのは日本人なら当たり前の感覚なんだけど。この世界は流通が発達していない古代レベルの文明レベル。商品が無いどころか商店が無い辺境に購入手段など無い訳ですよ。
だから商人を呼ばないといけない。
相場から見て通常の3倍という高い金を払い、本来であれば来ても得られない利益を与える事でこの村に来る理由とする。
欲しい物は食材に衣類と雑貨、そして人足。
食糧は消費する。
衣類と消耗する。
新しい事をするには、手元に無い雑貨が必要になる。
新しい事をするには、人手がいる。
その中でも特に重要なのは人足。
今、俺が使える人間は60人。
そのうち男50人は漁と伐採、農業に使っている。2:1:2の割合でな。女性陣は娼婦役なのだが、料理もやらせている。
ただし、それらはメインの仕事でその他雑用も任せていたりする。仕事がありすぎて何をやるにも人手が足りない。俺が魔法で作業時間を短縮してようやくギリギリ。
このままでは破綻するのが目に見えている。
改良改善改革などに外部からのテコ入れが必要なのだ。
さすがに、この短期間で子供に期待はできんよ。しばらくは外部からの流入で「使える」人口を増やすしかない。
「まいどー! ヨカワヤでーす!!」
商人は月に一回しか来てくれない。が、これはかなり無理をしてもらっている。
王都からこの辺境まで2週間。仕入れを仲間の商人サヴたちに任せ、ここに来る商人のヨカワヤは移動と販売を担当する。ヨカワヤには毎日旅という、そんな生活を強いているわけだ。
他の人間に替わってもらえばいいとか言ってはいけない。交替要員などと、そんな人間がいない連中なのだ。女商人とは過酷な立場なのだから。
俺はそんな彼女らの弱みに付け込み、儲かるからと誘惑して、こんな状況に巻き込んだわけだ。
「ほほー! なかなかいい毛皮ですねー。下処理もばっちり。これなら高く買いますよー!!」
「塩漬け肉と干し魚ですかー? 塩は……自作ですかー。そうですかー。あれ、でも、これ、完璧に水分抜けてません? どうやったんですか? 魔法? 魔法って言えば何でも通ると思ってません? あ、舐めた口きいてすみませんー! つい商人同士の癖が出ちゃっただけなんですー!!」
罪悪感はほんの少し、ある。
だからと言って、容赦はしない。俺の美食道、その礎になってもらおう。
とりあえず貴族様に舐めた口をきいた分だけ搾り取ってやる。
商品購入には通常の3倍払うと言ったな。それは本当だ。
けど、こっちが売る商品だってあるのさ。そっちでがっちり稼がせてもらう。
「ひー! 確かに売れますけどー!? あんまり買い込み過ぎるとサヴに怒られるんですけどー!!」
頑張れ。
そこまで面倒を見る気は無い。




