甘味育成
リンゴとモモの木はガラスハウスにそれぞれ10本、露地にそれぞれ10本ほど植えた。
気候条件が合わなくてもなんとかなる。そう信じよう。
花が咲くまでに蜂を用意できなかった時は人工授粉に挑戦だ。
単語しか知らないけど、花粉をめしべに付けるだけでいいんだろ? 何とかなるさ。
ヨカワヤに頼んだ果樹の第二陣が来るまでには時間がある。しばらくは水やりを忘れないよう、気を付けるだけでいいだろう。
あんまり水を与えすぎると根腐れするらしいから、最小限にするべきなんだけどね。
果樹の件は一旦区切りが付いたとして、今は他に目を向けよう。
カカオ、現状維持。特に変化は起きていない。夏場は温度管理が難しいかもしれないが、難所の冬ほど難しくはないだろう。
海岸、現状維持。こちらは去年の蓄積がある分、今年は楽な物だろう。
森の探索、現状維持。山芋の収穫は順調だけど、森に入った者から服が破れただの擦り傷が酷いだの、いくつか苦情が届けられている。毛皮のマントで対応させているけど、思ったほど効果が上がっていない。だって暑いんだもの、着ていられないよね、って。だから服が破れたり怪我したりするんだろうが! 森の探索メンバーには教育的指導が必要。
そして農地、品種改良に着手するか検討中。甜菜の正しい育て方を模索するとともに、より糖度の高い品種に変えて行こうというのだ。
甜菜に限らず、甘い野菜というのは昼の暑さと夜の寒さ、その温度差の大きさよって糖度を決める。あと、水分の少なさ。
某タレントが農業をやっていた時に何度もそんな話をしていた。
昼の方は問題ない。ここ最近は晴天が続き、水撒きが大変だと愚痴が聞こえるほどだ。
逆に夜は寒くは無理でも涼しくなってほしいが……どうも、無理っぽい。夜も暖かいのだ。昼夜の温度差は小さい。
課題は「夜を涼しく」となる。
面倒なので、夕方から翌朝限定で作ってみました。氷のモニュメント。
甜菜の畑だけ壁で区切り、その中に氷のオブジェを置いたのだ。冷気は基本的に下の方に流れる。囲いが冷気を閉じ込める事で保冷を助け、他の畑に冷害を出さないようにしてくれる。
融けた時に出る水は用水路で外に出し、甜菜を濡らさないように配慮する。
朝になったら氷は撤去し、昼の暑さを妨げないようにした。
それを10日ほど繰り返し、試験的に一部の甜菜を収穫した。収穫するのは夜が明ける前で、最も冷え込む時間帯だ。
ここで収穫するのが最も甘さを蓄えている甜菜だ。甜菜は太陽の光を浴びて糖分を消費するので、その前じゃないといけないのだ。
収穫直後に葉を落とし、根を刻む。
使った包丁の刃を濡らす汁を少し舐めてみるが、今までの甜菜と比べて格段に甘く感じた。
煮詰めてできた砂糖は――これまでの、二倍以上。
何もしなかった場合と比べ、明らかに糖度が上がっている。かけた手間暇に見合った成果が出ている。
「これを真似させるのは、難しいさね。たとえ果樹に応用が利く方法でも、木の上に生った実と甜菜では労力が違いすぎるさ」
サヴは得られた成果を知っても難しい顔をしていたが、余所の事など関係ない。
育て方に一つの手ごたえがあった。
それだけで十分じゃないか。




