ため池?
工兵たちは優秀だ。一月程度で屋敷一軒を建ててしまった。
屋敷の規模は20人ぐらいは住めるだろう豪華な平屋の本宅一軒と、50人を押し込めるように作られた通いの使用人が済むための3階建てのアパートみたいな別館が一軒だ。
本館が平屋で別館が3階建てと言うと別館の方が凄そうに感じるかもしれないが、平屋の方が敷地面積が広い、つまり無駄が許されている事からより高貴な者が住まうに相応しい造りであるという理屈のため、本館の方が凄いという結論になるのだ。
そろそろ工兵に帰ってもらえると、俺がほっとしたところで工兵隊長がこんなことを言いだした。
「この村には広い農地がありますが、ため池は作らないのでしょうか?
もし宜しければ我々でお作りしますよ」
今まで水に困った事が無いので、考えた事も無かったよ。
グラメ村の周辺は雨季が無いのに、乾季も無い。
どの季節もある程度雨や雪が降る、とても農家に都合のいい気候風土だ。
川が無いというデメリットはあるけど、無くても何とかなるというのが今までの感想だ。
しかし、それに慢心するのはどうだろうか?
俺が居るうちはいい。魔法で何とでもなる。近くにある海水をろ過して真水を作れば日照りになろうと対処可能だ。
では、俺が居なくなったら?
当然、作物は全滅するだろう。飢饉になるのだ。
海産物が獲れれば飢える事は無いかもしれない。だが、ため池一つである程度の日照りに備えられるなら、その方が良いのではないか?
無論、ため池まで枯れる心配はある。
だったら枯れにくいため池を作ればいいだけの話で、そのためのアイディアも出せる。何ら問題は無い。
そうと決まれば善は急げだ。
さっそく作るとしよう。
「えぇっと。我々の手伝いは……?」
要らんよ。
むしろ邪魔だと言ってあげよう。
「はぁ。分かりました」
俺が作るため池のイメージは地底湖だ。
ぶっ飛び過ぎと思われるかもしれないが、保水性能を考えるとこれ以外の選択肢は無い。
と言うのも、日照りの時にため池まで枯れる一番の理由が蒸発により水が逃げてしまう事だからである。
これを防ぐ簡単な方法が蓋をすることだ。水が流れ込む水路よりも高い天井を設ける事で蒸発した水分を再びため池に還元する環境を作る事である。
まず、≪丘創造≫で地面を一部、隆起させる。この魔法は≪土壁≫の魔法の応用で、広範囲の土を盛り上げる、ただそれだけの魔法である。大体半径100m、高さ10mの丘を創った。
で、創った丘の端っこあたりから斜め下に向けて穴を掘る。掘る! 掘る!!
水路と通路になる穴を丘の真ん中まで掘り進めたら、水を溜める池の部分と水蒸気を捕まえる為の天井を作る。押し潰したような球状の空間を、上下幅10m、横20mぐらいで確保する。これは掘るというより上から押しつぶし、固めるように行う。
天井部分はそのままでもいいけど、底の方は水が逃げられないように固めておこう。表面を高温で焼いて陶器のような状態にする。釉薬も何も使っていないから適当な処置だけど、何もしないよりはいいだろう。
最後に丘の上に植林などをして、禿山状態を回避する。これをしないと数年で丘が消えてなくなるからね。木が生えているのは必須なのだ。
この部分だけは人手が必要だったので工兵の手を借りることにした。
村民の手を借りても良かったんだけど、彼らにも仕事を与えた方が良いという判断だ。何も仕事が無いと言われてけっこう落ち込んでいたからね。
彼らには彼らなりの立場があるのだろう。たぶん、公爵から何か言われていたんだと思う。
「閣下からはセガール様のお役にたつよう言われていますから。我々にできる事なら何でも言ってください!」
やっぱりそうか。
出来たばかりのため池に水を注いでみて、具合を確かめてみる。
思った通り、いい感じに水が溜まった。
その時はそれで良かったんだけど、数日後、水がよどみ汚くなっているのが発覚した。汚物などがため池に流れ込み、水が腐ってしまったのだ。
水草かなんか、放り込めばいいかな? 水質ってどうやって維持しようか。
どうやら人工の地底湖はまだまだ使い物にならないようである。




