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ボルシチもどき

 この世界のこの時代、兵士というのはそのほとんどが工兵である。例外は騎兵や貴族などの将軍職ぐらいだろうか。

 あ、この世界に古代ローマ軍のような戦車兵はもういない。弱いので。


 まず彼らはグラメ村とメシマズ村の間にあった田舎道を舗装し、交通の便を良くした。

 物資のピストン輸送で重要なのが道路なのだから当然の話である。

 俺がこれまで道路整備に力を注がなかった一番の理由は、将来、道の悪さを理由に動かせる兵数を減らしたかったからなのだが。その目論見があっさりと潰えた。


 ただ、ヨカワヤはこの道路整備で行き来がずいぶん楽になるだろうけど。

 ……今度、強気の値切り交渉をしてやる。



 で、舗装道路ができてしまえば馬車の行き来は活発になる。

 物資のやり取りが活発になると、ついでに商人までやってくる。工兵たちに物を売り娼婦を手配するだけではなく、グラメ村の住人相手に商売をしようとやって来るのだ。

 娼婦の手配は兵士の士気を維持するために公爵あたりが手を回したんだろうけど。人の手配は俺だけではどうにもならないからなー。


 しかし、俺の用意する物もあるのだ。

 当然、それは料理だ。





 ザワークラウトがあったのでこれを使った煮込み料理を作る。

 ザワークラウトはキャベツの漬物で、基本は肉料理の付け合わせだ。しかし、一部の地方では煮込み料理にも使われる。


 まずはフライパンで肉に火を入れる。これはある程度火が通ったら火を止め、置いておく。

 同時進行でみじん切りにしたニンジン、玉ねぎ、ニンニクを炒める。玉ねぎの色があめ色になるまで火を通す。

 肉と小麦粉を入れ、小麦粉から粉っぽさが無くなるまで更に炒める。ここで玉ねぎが焦げ付かないように注意する。終わったら鍋に放り込む。

 鍋に角切りにしたカブ、ザワークラウト、赤ワインを入れ、軽く煮込む。

 煮立ったら少し水を足し、また煮立ったら水を入れる。これを数回繰り返し、最後に塩で味付けをする。


 トマトかカレースパイスが欲しくなるが、これで完成。

 俺流、ボルシチもどきだ。

 本来はテーブルビートという赤カブを使うのだが、手持ちが白カブなので「もどき」という訳だ。一応赤いスープ(ボルシチ)の名に恥じないようにと赤ワインを使ったので、「もどき」は付けなくても怒られないかもしれない。


 使った鍋がかなり大きい寸胴鍋なので、大飯喰らい共にも安心して出せる一品だ。





「うめぇ! お代わり!!」

「おい、こっちが先だ! 割り込むんじゃねぇ!!」

「大将! 俺にもお代わり!!」


 お味の方はというと、これはまだ残念な出来栄えである。

 肉にコショウを使えばもっと味が良くなるし、いくつか追加したい調味料もある。特にサワークリームが無いのが痛い。

 記憶にある味には程遠い。


 しかしザワークラウトがその代用になっており、ほんのりと酸味が利いているため、本物を食べたことが無い者にならボルシチといっても通じるだろう。

 酸味と塩味が利いた温かいスープは疲れをとる効果があり、肉体労働者には打って付けだ。


 具だくさんになるよう作ったので、食べ応えもある。とろみつけに小麦粉を使ったので、栄養価の面でも悪くは無い。パンを浸して食べるなら小麦粉無しでも作れるけど。小麦粉ありの方が人気なのでこちらをメインで提供している。

 パンは白パンではなく黒パンがメインなので、小麦粉の方がいいという事らしい。それでもパンを欲しがるマニア層もいるにはいたけど。


 アレンジレシピとして大麦を使った時は不評だった。やっぱり味に大きく違いが出て、苦みが強かったように思う。

 この辺りは要研究といった所か。



 料理を作り饗するのは、俺が多くの人間と触れ合うのに都合が良かったからだ。人数が多いから、一回では終わらないんだよ。何度も関わり漏れなく催眠を使うにはこれが一番効率が良かったんだ。それに催眠は短期間しか効果が無いし、何度も関わらなきゃいけないんだよ。


 集まった人間の認識やら記憶を狂わせ、村の情報を外に漏らさないように操作する。

 我ながらあくどいとは思うけど、美味いと言ってくれるものを提供しているわけだし、そこはもう美味い物の対価という事で。俺の中にあるちっちゃな良心が痛まないように、()福を味わってくださいな。

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