ノーフォーク農法(下準備)
この村に元農民は1人もいない。
連れて来なかったから、当然だ。
農民を連れて来なかった理由は簡単だ。
この世界の農業の常識を、持ち込まれたくなかったからだ。
人間ってやつは、常識に従って生きる生き物だ。異端を嫌うというべきか。
犯罪者だろうが、あれは常識を知った上で、それを利用するとか悪用するとかしながらも、罪悪感があるかどうかは知らないけど「悪い事」と理解して罪を犯す。
馬鹿や既知の外にいる奴は悪事を悪事として認識せず――って、それはどうでもいい。
とにかく、常識を持っている奴は、俺が提唱する新しい、地球式の農法に従わない可能性が高かったんだよ。
「という訳で、畑から石を取り除けよー」
「「うーす」」
農業初心者がいきなり最高の成果を出せる訳も無い。
やる事はシンプルに。
徐々に改善をモットーに。
積み重ねろ、俺達。
明日はきっと、葬らんだ!
この世界、中世ですらないんだよ。
雑草を抜くのと石を取り除くのと、最初はこの2点だけを徹底する。だけど他ではこんな事すら徹底されていない。近くの農村、メシマズ村で確認したから間違いない。
鍬や鋤で耕すことはする。
大きな岩は取り除く。
雑草は抜く。
けど、掘り起こす土が浅すぎる。
肥料をやらない。追肥も無い。
小石は放置。
抜いた雑草はそこら辺に捨てるから、雑草は生き返る。
案山子とか動物対策もやらないから、獣害も酷い。
駄目なやり方で満足されるわけにはいかない。
とにかく、俺のやり方を徹底させる。
ただしいきなり全部はやらない。一個できたらまた次の一個を。そうやって新しい農法を馴染ませる。慣れさせる。それが常識なのだと、思わせる。
いきなり全部やらせようとしても無駄だからな。
「よーし! 雑草はこっちで、石ころはこっちだ! 小さい石を持ってきてもいいぞ! 集まった量次第だが、ご褒美もある!!」
「「おっす!!」」
育てる作物だが、メインはカブと小麦から。
1年を通して食用可能なカブは救荒植物で、小麦はこの世界で一般的に食べられている代表的な穀物だからだ。
米、稲作がやりたいけど、見つかっていないので、米は無いものと諦めている。
それに、小麦とカブに大麦とクローバーを加えればノーフォーク農法が成立する。
家畜はまだいないけどな! 馬車の馬は返却したし!
準備だけは進めておきたいんだよ。
で、この辺りで収穫可能な作物の品定めをするのも目的だ。
最初の一年は何が育つのかを知りたいってのもある。
近隣と同じ作物を大量に作っても意味が無いので、特産になり得る作物を探すところからスタートだ。
小麦やカブだけじゃなく、小さい農地で色々と試す。
アブラナ、菜の花みたいな黄色い花を見つけたので、個人的にはこれを増やして菜種油が欲しい。搾りかすは肥料になるらしいし、菜種自体が香辛料として扱われもする。食文化の発展の為にも育ってほしいと期待している。
あとは何種類かの根菜と、芋類を試してみたい。
特に芋類は上手く行けば大量生産ができるだろうし、かなり期待している。
とはいえ、本当に全部うまくいくことは無いだろう。
何種類か成功すれば御の字だ。
知識チートは、所詮知識。
経験ではないのだよ。




