妖怪の後継者(そのいち)
娘たちの婿探しは自分で頑張ってもらうとして、俺はアイナのファザコンを緩和するべく二つの公爵領へと向かった。
爺さんの領地、その都は王都なみに人が多い大都市だ。
海岸線沿いの平地にあるその都は、海運の要であり人と物の出入りが激しいため、入り込んだ様々な人種と持ち込まれた異国の品によって混沌とした印象を受ける。
また、爺さんの一族が治める都にしては治安が悪く、少し裏通りに入れば喧嘩が絶えない物騒な場所でもある。
あとは珍品希少品、違法な品を探すのにも向いていて、かつて俺が訪れた理由も異国の珍しい食材を探しての事だった。
表の顔を言うなら商業都市、裏の顔を言うなら混沌都市。
それが爺さんの領都である。
そんな喧騒に満ちた街中をわざわざ歩いて、アイナに世の中って奴を見せておく。
中には幼い子供に見せない方がいいものもあるが、そんなときは話しかけて注意を逸らす。見せるべきものと見せたくない物を勝手に選別しているわけだが、それを子供に覚らせないのも親の手腕の一つである。
ま、オトナって奴は身勝手でコドモを侮ってしまう物なのさ。
多くを学ばせたいと言いつつも、都合の悪い物を隠して危険から遠ざけたいと願ってしまうのだからな。
雑多な印象を受ける街並みはいつまでも続かない。
途中から整然とした、貴族達が居を構えるエリアに切り替わる。
そこに足を踏み入れる前に身分証明を求められたが、男爵である事を証明したので問題ない。顔パスで入れるほどここには来ていないからな。そういう事もあるさ。
爺さんの息子、ここの領主の館に辿り着く。
門番に名乗りをあげ簡単な手続きをして、面会の許可を得る。いくら忙しいとはいえ、爺さんの命令があれば面会するぐらいは出来る。
そうして顔を合わせた爺さんの息子は。
「ひぃっ!?」
人の顔を見ると悲鳴を上げた。
あー。
そういえばコイツ、初対面で人を道具のように扱おうとしたからボコボコにしたっけ。
10年以上前の事をいまだに忘れていないとは、心の弱い男である。
しかも面会に来たのが俺だと門番から聞いていたはずだよな? 数分とはいえ心の準備を整える時間はあったはずだぞ。
って、コイツがこんなんじゃアイナのファザコン治療には役に立たんな。
とんだ無駄足じゃないか。




