王都の新年祭(衣服合わせ)
独りで行動するなら、移動に時間をかける必要など無い。
俺は魔法で王都まで1日かけずに移動した。王都には貴族専用の屋敷があるので、そこの一室を借りる事になっている。
飛んで移動すれば距離の短縮になるし、飛ぶという事は高速移動する事である。飛行機だって時速100㎞なんて鈍足で飛行状態を維持できないので当たり前の、物理法則に従った話なのだ。
魔法とは物理法則をいかにうまく騙すかという技法だと思うけど、同時にどれだけうまく物理不足を活用するかという技法でもある。
この点は魔法チートと言うより現代知識チートに相当する。
同じレベルの魔法使いがいたとしても、俺が負ける事はまず無い。
ヨカワヤが15日かけて移動する距離を10倍以上の速さで踏破した。
その事を知ったヨカワヤはこっちをじと目で見ている。
「ずるいですー」
「荷物を運ばないなら、お前らだってもっと早く動けるだろ」
「それはそうですけどー」
なお、俺の高速飛行は荷物の上限が5㎏ぐらいで、完全に個人用だ。
普通の人間を抱えて飛ぶことなど出来ないし、もし出来たとしても急激なGによって下手すれば死ぬ。俺は自分を強化して誤魔化しているが、飛行の魔法はいくつもの魔法を組み合わせた高等魔法だ。他人までフォローできるほど余裕を作る事など出来ない。
訓練すれば克服できると思う。
が、そこまでするメリットを、俺は今のところ感じていない。
「お似合いデスヨー」
「うわ。その棒読み口調。不敬罪でしょっ引きたい」
俺がヨカワヤの所を訪れたのは、衣服の調達だ。
貴族用の、見栄えのいい服が手持ちに無いのでヨカワヤに用意させたのだ。金貨2枚とかなりのお値段だが、絹の衣服だったので相応の出費である。
「東の果て、砂漠を超えた先の商品なんですよー」
どうやらこの世界にもシルクロードがあったらしい。
ただし、今はそんな時代じゃなかった気もするけど。地球じゃないから気にする程でもないのか?
「珍しい物をいっぱい扱ってますけどー、私達の所には還元されませんからー」
「そりゃ、金を出している奴優先だろ。俺もその話に混ざりたいなー」
「混ざりたいですねー」
俺とヨカワヤは揃って項垂れた。
だってなぁ、言ってて無理だと分かるし。
正直に言えば、シルクロード交易は絶対に一枚噛ませろと言いたい内容だった。
だが、悲しい事に俺はまだ零細村長な男爵である。魔法を除いて噛み込める要素は無い。そして大貴族の犬になる気は無いので無理と言う事になる。
今はまだ雌伏の時である。
何もかもが思うとおりに行かないのは普通なのだし、いつかを信じて牙と爪を砥ぐのが今やるべき事である。




