巨大生物(下)
深海に潜ったのは、ここまで来たぞという目印が欲しかっただけだ。
こんな化物イソギンチャクを探しに来たわけではない。
もちろん、深海に潜ったことで何かしらの発見はあると思っていた。それがどのようなものか、考えてもいなかったが。
一般的なイソギンチャクの大きさは、俺の感覚では手のひらサイズ、大きい物でも1mぐらいだったはずだ。
それなのに目の前のイソギンチャクの大きさが数m、おおよそ10mかそれ以上はあるので、俺の常識が間違っていたんじゃないかと思ってしまう。
水中は重力の支配が緩むというか、海水に支えられるので大きな体の生き物がいても不思議ではない。
だが、ここまで大きなサイズになると、それだけで説明がつかない気もする。いやホントに。
その巨大イソギンチャクだが、見た目はたぶんイソギンチャクである。
海底にへばりついた体は円柱状。
円柱の天辺には無数の触手があり、ゆらゆらと揺れている。また、天辺は口になっており、歯の様な物も見える。
その体が伸び縮みする事で周囲の海水と深海魚などを取り込み、餌としている。
で、それだけでは飽き足らず、触手で近くにいる、吸い込めなかった深海魚を捕まえるわけだ。
あと、海底にへばりついているが、動かない訳では無い。吸盤のような足を摺る様に動かし、歩いている。
ジャンプすることもあると言うが……このサイズがジャンプしたら、どんな事になるのかと思ってしまう。水中なのに。
俺は巨大イソギンチャクを見て思案に暮れる。
イソギンチャクだったら海綿動物ではないので、コイツを殺したところでスポンジは手に入らない。
イソギンチャクではなく別の生き物だった場合、コイツを殺せばスポンジになるかもしれない。
仮にスポンジになったとして、どうやって運搬する?
今いる場所はサウボナニ島の南に400㎞ぐらいの地点だ。
今回は見逃すとして、またここに来た時にこいつが居てくれるのかどうか。
居てくれるのであれば、一部を切り取ってスポンジになるかどうかを考えればいい。
考えた結果、俺は一部を切り取って持ち帰り、その欠片がどうなるのかを見て判断することにした。
馬鹿みたいにデカい体の一部を抉り取り、それを持ち帰る俺。
巨大イソギンチャクは反撃で触手で俺を絡めとろうとするが、それは触手ごと周囲を凍らせて防ぐ。
体の一部分でも凍らされることに危険を感じた巨大イソギンチャクは、水中とは思えない機敏な動きで俺から逃げていった。
……今度ここに来ても、きっと居ないんだろうな。
ちょっと失敗したと思いつつ、バスケットボールより大きめの肉片を抱え、俺は帰る事にした。




