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銀杏

 思わぬ収穫物、銀杏とイチョウの葉っぱを手に入れた俺はさっそく試食をする事にした。

 銀杏は電子レンジに入れて1分チンすると殻を勝手に割って食べられるようになるというけど、正直、面倒くさい。出来ないとは言わないが、手間なのだ。大出力をブッパする魔法は簡単だが、小さい威力でじっくりと何かするのは集中力が必要なのであんまりやりたくない。


 なので、まずは普通に殻を剥いて炒める。油が無いので脂で代用。キャノ○ラ油などと贅沢は言わないが、菜種油やごま油、オリーブオイルが欲しい今日この頃。

 銀杏は加熱されて透明感と艶のある緑色になったら火が通ったと思っていい。焦げ付かないよう、フライパンを揺すりながら強火で1分ほど炒める。

 火が通った後、そのままだと美味しくないので軽く塩を振ってみた。



「大将、なんすかそれ?」

「食えるかもしれない木の実だよ」

「へー。なんか変な匂いっすねー。ちょっと癖になる感じっす」


 俺は普段からみんなと同じものを食べているので、個人用の調理場を持たない。料理ができるのは専用の建物一つである。つまり、人の出入りがある所でこれを試している。


 運良く通りすがった1人が匂いに惹かれ、俺の所に来た。

 何人かは嫌そうな顔で去っていった事を考えると、それなりに強い癖がある匂いなのはこの世界でも変わらないという事だろう。


「お前も食うか?」

「食います!」


 匂いに誘われたのであれば同志なのだ。折角だから一緒に食べよう。

 俺は漁師の男と二人で銀杏を食う事にした。



 日本にいた頃は茶碗蒸しのしか食べなかったけど、俺は銀杏が嫌いという訳ではない。銀杏がレアと言うだけだ。


 むっちりとした独特の食感。大豆などとは全く違うその食感は、味だけでない楽しみである。

 甘みの中にもわりとくせの強い苦みがあり、酒に合う美味さだ。塩味のおかげで甘みを強く感じるので、苦みはあまり気にならないし、この苦みがあるのが良いと思える。きっと苦みを取り除いた銀杏はそんなにおいしくないに違いない。

 使った脂の味が邪魔だが、これはこれで悪くない。


「うめーっす! 大将! これ、もう無いんすか!?」

「……森に群生地があったから。採りに行けばまだたくさんあるよ。場所は農地の8番から真っ直ぐ北に10分ぐらい行ったところな。この葉っぱが落ちてる辺りを目印にしとけ」

「うっす! 他の連中も誘って行ってきまーす!!」

「食いすぎ注意なー……って、聞いてないか」


 おすそ分けした炒り銀杏は漁師男に好評だったようだ。瞬く間に食い尽くすと、追加を求めて森へと駆けて行った。

 俺はそれを見送ると、今度は塩ゆでした銀杏で練り銀杏を作る事にした。



 いくつもの銀杏料理を試し、興味を持った奴に振る舞う事4回。それで手持ちはほとんど使い切った。銀杏料理は万人向けではないが、熱狂的なファンを作ったようだ。わりと好評である。

 残した銀杏のいくつかは俺の屋敷の庭に埋めておこう。

 そのうち芽が出ることを期待する。


 それにしても。


「銀杏って、食べ過ぎると中毒になるんだっけ? 梅干しの天神さまみたいに」


 銀杏料理は食べすぎると体に良くないと言われていたことを思い出す。

 梅干しの天神さまだと「天神様を食べすぎると(死んで)天神様に会いに行くことになるぞ」と言われたことがあったなー。

 銀杏の中毒は吐き気や腹痛、最悪死ぬと言われていた気がするけど。


「ま、いっか」


 多少の毒なら俺がどうにかできるし、あんまり気にしなくてもいいだろう。






 その後、ごく一部の銀杏好きが何度も俺の世話になった。

 これ、別の意味で中毒になっているよな?

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