美食への道①
ちょっと塩を作りすぎたので、調味料を作ろうと思う。
塩と魚。あと、いくつかの薬草類。
これだけあれば魚醤が作れる。
魚と塩を、重量比4:1の割合で混ぜる。
魚は頭を落とし骨を取り除くけど、ワタはそのまま。ワタ、つまり内臓に含まれる酵素でタンパク質の分解を促すので、ワタは取り除いてはいけないのだ。
しょっつるの場合は麹を使うらしいけど、ここにそんなものは無いので諦める。
薬草類は香りを誤魔化すために使う。
魚醤は臭い。クサヤ汁ほどではないが、独特の臭気を放つのだ。魚醤の臭みは加熱すれば良くなるというが、最初から臭くないならその方が良いだろう。
とりあえずどこかのラノベで薬草を使って臭いを消したとあったので、適当にいくつか試してみる事にした。
試作という事で、まずは小さめの樽に10種類。
どの樽にどの薬草をどれだけ使ったかを記録し、≪活性化≫と≪解毒≫の魔法を『定常化』で使い発酵を10倍速に加速させる。
魚醤は熟成期間が早い物で3ヶ月90日間で出来ると聞くので、9日で完成する予定だ。
熟成が長い物だと半年から1年というけど、9日で駄目ならもう少し熟成させよう。
試すものはもう一つ。
麹だ。
醤油や味噌は穀物に塩を混ぜ、麹で発酵させて作る調味料。酒にも麹は有用だ。
つまり、麹の有無が食文化の広がりを見せる第一歩に他ならない。
この世界は古代ヨーロッパ程度の文化圏だと思うが、こんな時代にも麹はある。
酒造に麹は必須かというと、そうではない。だが、あればあっただけいいと思うのだ。俺は味噌や醤油が欲しい。
麹の作り方はいたって簡単だ。
穀物、今回は小麦を使うが、まず、これを蒸す。
できた物を室温20℃、湿度60%ぐらいの部屋に置き、カビが生えるまで放置。
生えたカビが毒素を持たなければそれが麹で、毒素があればそれは麹ではない。
なんじゃそりゃと言われるかもしれないが、判定に魔法が使えるので、この方法でも大丈夫。
なお、一回判定するごとに部屋を完全除菌している。魔法で。
上手くいくまで何度でも繰り返すことになるが、麹ができるまで数をこなすしかない。
俺の美食道はまだ始まったばかりなので、いきなり結果が出るとは思っていない。気長にやるさ。
余談だが、穀物のたんぱく質を分解するのに、麹ではなく唾液も使える。
「くちかみ酒」という古い時代の酒は、生米を噛んで吐き出した物を一晩以上寝かし、アルコールの甘い匂いがするようになったら飲むという。
ついでに、大麦で作るビールやブドウから作るワインも麹を使わない。
たしか酵母がどうのこうのという話だったが、うろ覚えだ。
まぁ、そこらで買えるから気にしなくてもいいと思うけど。というか、ブドウも麦も、この近くでは栽培できないだろうからどうでもいい。




