王都の新年祭(妖怪2号)
そんなわけで今年もやって来ました、新年祭。
今回は今までと違い、いろんなところでもめ事が起きている。
普段であればそんな事があれば公爵や侯爵といった大貴族がフォローに動くんだけど、今回はその大貴族が震源地の為、フォローは期待できない状態にある。
胡椒貿易終了が与えるインパクトはそれだけ大きかったようだ。
胡椒貿易は大きな、大きすぎる事業の為、抜け駆け防止ではなく資金的な都合で、株式会社のような形をとっていた。
貴族から出資者を募り、出資した金額に応じて配当が出る。
キャラバンで荷の喪失とか問題が出れば大損害だが、何年も何世代もかけて作り上げたキャラバンは、外にいる貴族にしてみれば手堅い投資先であった。そしてその収益に頼っている貴族もそれなりに存在する。
俺も出資者として参加したかったんだが、男爵の身分では参加できなかったのだ。そして見返りは出資期間も算出対象の為、新参の参加者を受け入れ難くするようになっている。システムが出来あがっている以上、新規参加者を募集するメリットがほぼ無いからな。何か事件でもない限り。
それに出資してもお金で返ってくるだけで胡椒そのものが手に入るわけでもない。俺も無理を言ってまで参加するメリットを見いだせなかった。
それでも貿易に参加できなかったことは内心では面白くなかったのも事実だし、こうやって慌てふためく連中に「ざまぁ」と思わなくもない。
我ながら小者の発想であるが、思い通りにいかない事に苛立つのは人間の性だと思っている。変に暴発させず上手くその感情と付き合うのも、大人の生き方じゃないかね?
喧嘩をする者、落ち込み項垂れる者。
俺と同じようにそういった連中を嗤う奴。
中には新しく始まる胡椒栽培に望みをかける者もいるけど、それができるのは最低でも伯爵以上の奴じゃないかね? しかも元となる胡椒の種や苗が手に入るのは爺さん側の貴族が優先されるし。落ち込む奴はどうやっても出てくる。
そして俺に敵意ある視線を向ける奴がかなり増えた。
地位を笠にして俺の目の前に立ち向かうチャレンジャーはいないけど、「俺さえいなければ」と呪すら伴いそうな目でこちらを見ている。
変化の無い生活なんてありえんという、俺にしてみればごく当たり前の現実を分かっていなかったようだ。
俺がやらずとも、いつか既知の外にいるような奴が芽が出ないかなと期待して動き成功させたかもしれない。何らかの理由で原産地の誰かが胡椒の苗付きで亡命してくるかもしれない。胡椒貿易が終わる可能性はあったのだ。
たまたま俺が終わらせただけであり、俺を恨むのはお門違いではないが、それを見越した考えを持っておくのも貴族の務めだと思うがね。
俺がそんな事を考えつつ、出されている飯に舌鼓を打っていると、貫録のあるジジイが現れた。
「やぁ、男爵。楽しんでいるようだな」
「こんにちは、閣下。ここの飯は美味いですから、楽しませてもらっています」
太っているように見えるが力士のような筋肉の塊でできたそのジジイの事は知っている。
爺さんと並ぶ、もう一人の公爵だ。
その妖怪爺2号が珍しく俺のところに来た。
爺さんが柔和な潤滑剤として組織をまとめ上げるのに対し、このジジイは力強さで周囲を引っ張っていく。
貴族になる事が内定する少し前に「俺のところに来い」と破格の報酬を引っさげて交渉に来たのだが、そんなジジイとは波長が合わなさそうだから断ったけど。
それから俺が爺さんの派閥について、このジジイ、ほぼ音沙汰なしだった。興味を失ったという訳ではなく、思い出したようにラブコールは来るけど。
こうやって直接顔を合わせるのは本当に数年ぶりだ。
「去年は若いのがずいぶん世話になったようだからな。挨拶の一つでもしないと不味いだろうが」
「あ」
「……忘れてやがったな、オマエ」
胡椒貿易の話で記憶の彼方に飛んでいたが、夏ごろまで来客がウザかったのを忘れていたよ。
俺に恨みがましい視線を向けていた貴族って、もしかしてその身内だったのか?




