新たな街、新たな商機
俺が見つけた街は、これまでの取引先よりもずいぶん近い場所にあるようだ。
シルクロードの遥か先は中国に相当する国だと仮定すると距離にして6000㎞。1日20㎞移動すると考えれば300日は必要で、迂回などもあるだろうから2年3年はかかる計算だ。
往復1年で済ませる為に途中にいくつか拠点を作り、それぞれの拠点の間だけを移動する事に特化してバケツリレーのように荷を運んでいる。
爺さんはそのうちの一つを俺が見つけたと考えたようだが、それとは全く違う話だった。
というか、その仮定ならもしかして。
「俺が拠点を襲って胡椒を奪ったと考えた?」
「流石にそこまでは考えておらんよ。やらないだろう?」
「まぁ、ね」
うん。
食い物の為なら無茶を通すと思われているけど、俺は一応だが線引きをしているからね。流石に襲撃まではしない。
「だが、こっそりと盗むぐらい出来るだろう?」
出来るけどね。
そんな事をしたと思われたのかい。
まぁ、誤解が解けたならそれでいいさ。
それよりもキャラバンの今後である。
絹の取引があるなら、胡椒の販売が無くなったとしてもキャラバンの存在意義は残る。
胡椒の分の利益が無くなったとして、それに替わる物――例えば生物兵器・竹――を探させるというのも手であるし、何か新しい商売を考えてもらおう。俺にも利益のある形で。
運ぶ荷が減るなら、新しい荷物を積み込めばいいという発想だ。
問題は一つの取引が無くなることで、取引相手に商機が無くなること。
自分たちが納得できても相手が納得しなければ商売は続けられない。胡椒の取引を止める流れからくる影響は小さくないのだ。それだけで金貨数百枚の取引なのだから。
いきなり大口の取引を止めれば心象が悪くなって、その他の物も手に入らなくなるかもしれない。胡椒栽培が軌道に乗るまで数年かかるとしても、移動時間を考えるとその数年後を見越した動きは今すぐに動き出すのだよ。
それに、新しい胡椒購入ルートという低リスクの取引相手が見付かったのに何もしないという訳にもいかない。
新しい商売相手なら新しい商機でもある。俺がもたらしたあちらの情報から売れ筋商品を考えて、外貨獲得に向けて動き出すことになる。
俺が見つけたという事はいずれ誰かが見つけるかもしれないという事で、その先駆者として既得権益を確保するのは当然の流れなのである。
新しい街は新しい利益を生む話だが、同時に問題の火種でもあった。
今年の新年祭は大きく揉めるだろうね。




