学校計画(表)
何というか、馬鹿貴族が増えている気がする。
爺さんと少し話してみたが、爺さんも似たような事を感じているという。
王国側で何か対策が必要じゃないだろうか。
こんな時に考え付くのは、やっぱり学校だ。
貴族の子弟を集め、集団行動を行わせて常識を学ばせる。あとは派閥や上下関係とか、暗黙の了解についても教えておいた方がいいだろう。そういった事を学んでいないからあんなことをやるんだ。
読み書き算術など基礎的な学業についてはそんなに気にする事も無いだろう。そんな簡単な事は家庭教師に教えてもらえばいいんだし。
思うに、貴族の子弟というのは自分の領地にいれば王族みたいなもんだ。
自分の一族以上に偉い奴がいないんだから崇められ、敬われ、それが当然になってしまう。自分たちでも配慮が必要な誰かがいる事を忘れて。
こういったのはスタンフォードの監獄実験って言うんだっけ? 最上位者としての立場が王国貴族としての理性的な考えを押しのけてしまったと考えられる。
要するに、閉鎖的な環境にいる人間は思考硬直を起こしやすいって話だな。
本当は一番偉い人間でも何でもないのに長い間にわたって自分が頭を下げる人間に会わないと、本当に自分が一番になったかのように錯覚して、いざ上位者に会ったところで上位者と認識できず傲慢に振る舞ってしまう。
きっと個人の資質に関係なく環境が悪いんだよ。
ついでに、閉鎖した空間にいると、次男以降は絶望しか残っていない。
普通に考えるなら跡取りになれずともその後の未来はいろいろと選択肢があるんだけど、狭い世界ではそれを実感する機会に恵まれない。
跡取りを恨んだり突飛な行動に出るのは視野の狭さも理由にあるんじゃないだろうか。
こういった閉鎖空間の限定的な状況に囚われないよう、王都へたまには顔を出し、正しい状況に慣らす必要がある。
そして子供のうちから集団行動の経験を積むことで変な傲慢さを持たないように教育する。
中には自分が世界の中心であるかのように振る舞う大馬鹿野郎も混じるだろうが、それを子供のうちに矯正できればその後が楽になる。
学校を作ったとして経営はどうするか。
貴族家の子供は数が多いけど、実際には三男ぐらいまでしか通わせないだろうし、生徒の数はきっと少ない。
義務教育のような基礎学力は気にしない方針でも構わない。
3~5年に一回、半年程度を区切りとする。春から秋まで親元を離れて集団行動を学ばせるだけでいいんじゃないだろうか。
集団行動と言っても何をやらせるかはこれから詰めていけばいいとして、集まった子供たちが何らかの縁を結べたらそれはそれでいい事だ。子供の未熟さで派閥の形成に失敗する可能性もあるけど、そこは上手く大人がフォローできるようにシステムを考えておけばいいんじゃないかな。
もしも好評なら回数を増やし、不評なら取りやめも視野に入れて。
そうなると、最初は次男以降を対象にした方がいいのか?
俺は思いつくアイディアをつらつらと爺さんに語ってみせる。
爺さんはまとまりのない俺の話を聞き終えると、自分の中でそれを咀嚼し、俺の目を見た。
「それで。この計画の真意は?」
「子供の洗脳」
俺が語ってみせた表面上の理由をお為ごかしと切り捨てた爺さんは、その真意を問う。
まぁ、学校システムの重要な点に気が付いてない訳も無いか。
俺はあっさりと本音を語る事にした。




