6年目の始まり
6年目の春。
兵役で外に行く連中を敬礼で見送り、俺達は日常を繰り返す。
娘はまだ小さいが、その他の子供、村で生まれた子供たちはすくすくと育っている。
また、飢饉のときに受け入れた家族の子供も村に馴染み、元気に走り回っている。
当たり前だが、村に学校は無い。
日本なら最低ラインの教育もやってない。
足し算や引き算といった算数ぐらいは教えるが、文字が読める子供を増やす気も無い。
そういった能力はそれが必要な人間にだけ教える方針だからだ。
平均学力の向上は人材発掘の面で有効だが、それに付随する村民の意識向上はデメリットの方が大きい。
リスク管理は危険因子を自分の手の届く範囲にとどめておくのがコツである。恐怖政治はできてもカリスマによる人民統制ができないなら学校はまだ早いと言う事で。
俺は元一般人なので統治のコツとか知らないからね。出来ない事に手を出すのは良くない事なのだ。
現状、グラメ村とシュクレ村は特に問題なく運営されている。
シュクレ村はできたばかりで問題が山積みと前言を翻すようだが、それはある意味正常な話なのだ。取り立て騒ぐような、大きな問題は無いので問題無いで間違っていない。
ただ、冬の間に何度か温泉に入るために訪れているのだけど、サヴの様子がおかしいらしい。
普段はちゃんと村長として仕事をしているのだが、たまに外を歩き回っているという話を聞いた。
あの辺りは蛮族と戦った事もあるように、言葉の通じない危険な連中が潜んでいる可能性が有る。魔法使いのサヴに1人で歩き回るのは自殺行為とは言わないけど、それでも止めておけと言いたい行動である。
「そう言えば」程度の話だが、仲間を殺されたあとにサヴはシュクレ村に残る事を決めた。
当時の俺は、サヴは仲間を殺された事を理由に、悲劇を繰り返さない為に残ると決めたのだとばかり思っていた。
しかし、今考えるとそれはおかしな話にも見える。
と言うのも、サヴを取り巻くいくつかの理由があるからだ。
サヴは商隊を率いていたリーダーの役にあった事。責任者として迂闊に動く事ができない人間だった。しかも魔法使いなので変えが利く人間ではない。
サヴが仲間を殺されるのはこれが初めてではない事。商隊を率いていたわけだが、その時に何度も仲間を失ってきたという話を聞いたことがある。女ばかりの商隊は狙われやすく、カモにしか見えない。直接サヴの目の前で襲われたのならともかく、それ以外の場所で襲われ仲間を失った過去がある。仲間が殺されたことを理由にするのは今更ではないだろうか?
そしてこれが一番大きな理由だが、サヴは長い時をあの姿で過ごしているけど、サヴの仲間はどうしたのだ、という話。
北の地へ、船で向かったサヴ達。
その仲間は不老不死にならなかったのか?
仲間の誰かが生き残っていないのか?
その他の誰かの話を、俺は知らない。
いきなりいなくなる事は無いと思うが、何か面倒な事になるかもしれない。




