家畜の話(後)
兎の食糞についての記載あり(さらっと書いていますが食事前の人はまた後で読むのを推奨)
草だけを食べて生きていけるものの中でも、兎は特殊な部類に入る。
草食動物の中には4つの胃を持つものがいる。例えば牛。他にも羊や山羊。これらの動物を反芻動物と言い、食べた物を口の中に戻して食べ直す「反芻」という行為で草の繊維質を分解し、エネルギーとタンパク質に変えるわけだ。こういった反芻動物は大型のものが多く、食事効率が良いとされている。
兎はそういった特殊な胃を持たず、発達した盲腸を発酵タンクとして使い、繊維質を炭水化物とタンパク質などに分解する。で、腸で作った栄養素を効率良く吸収するために食糞行為を行う。コアラなども同様の食生活であるが、兎の方が高効率らしい。
逆に馬などは草の繊維質を分解する方法が兎と同じ盲腸であるにもかかわらず、食糞をしないので豆などからタンパク質などを直接口にする必要がある。草だけだとお腹を壊すこともある。だから馬は特に値が高い。
草食動物としてどちらが上かは横に置き、餌が草だけでいい兎は小型草食動物の中でも飼いやすい動物であるのは明らかなのだ。最初の選択肢としては悪くないだろう。
とりあえず、兎を50羽ほど捕まえてきた。対人でも多大な戦果を期待できる我が必殺魔法「カーボン・ダイオキサイド・ストーム」の力によって。
指定範囲内の二酸化炭素濃度を異常に高めるこの魔法を使うと、動物はみな酸素不足で動けなくなるのだ。運が悪いと死んでしまうが、非殺傷系魔法としては使い勝手がいい方だ。
新設した畜産センターの中で放し飼いにされている兎たちだが、職員が定期的にカラカラになるまで干した草を置いている。
兎は胃腸が弱いので、へんに水分が多い餌を与えるとお腹を壊すのだ。イメージだけで新鮮なニンジンなど与えようものなら一発なのだが、幸か不幸か手元にニンジンが無いので俺が試すことは無いだろう。
「臭い……くせーです……」
畜産センター担当、新リーダーは他の連中に混じって糞の処理をしている。
兎は食糞をすると言っても四六時中ではなく、普段は出してそのままにしている。食べたい時はケツの穴から直接だ。そこいらにまき散らしているものは片付けないといけない。
フンを放置すれば病気の原因になりかねないので、掘った穴に捨てる事を全力でやらせている。さすがに穴まで掘らせるのは可哀想だったので、穴だけは俺が用意した。たまに兎がその穴に潜るのはご愛嬌。アナウサギだから仕方が無いね。
フンの匂いに対抗するため、兎のいるエリアにも香草を植えている。
香草は雑草の様に生命力が強く、匂いの強さで兎から身を守っているのであまり数が減らない。一部の、立場の弱い兎が食べているが不本意そうだ。兎の世界も弱肉強食である。
「何とかなりそうか?」
「分かんねーですよ。まだ始めたばっかりですから」
兎を育てるようになってから1週間。畜産リーダーはそれだけでは何も分かっていないも同然だという。
「今のところ、死んだ兎はいねーっす。あと妊娠したっぽいのはまだ見つかってねーです」
「減ってないなら重畳、重畳」
畜産リーダーは育てる事に加え、増やすところまでがお仕事だ。
兎は人間と同じで年中発情期と言うし、いつ妊娠してもおかしくないはずだが。
「そういえば、うちの村の娼婦も妊娠してないなー」
ほぼ毎晩ハッスルしている筈なのに、ここまで妊娠しないのも不自然だよな。
今のところ、村の娼婦は40人もいるのに。
若い方で14歳、年長でも23歳なのに。
おかしくないか?




