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酒の話⑥

 運良く蒸留酒の販売ルートを見付けることに成功した。

 蒸留酒とかきついお酒って、あんまり売れないからなぁ。大衆には発泡酒とか、軽いお酒の方が受けがいいんだよ。

 蒸留酒を好んで飲むドワーフの様な異種族がいないのだから、需要についてはもうちょっと調べないと駄目かもな。



 義兄に売る事は爺さんにも報告した。

 爺さんは蒸留酒を売る事に反対こそしないものの、あまりいい顔はしていない。義兄の妹との結婚を勧めてきたことからも分かるが、外国と俺との間でパイプを太くすることに文句はないハズだ。仲良くするように言われているし。

 使える技術が他所にわたるのを防ぎたいのかな? よく分からない。


 ただ、蒸留酒を国内で広めたいという考えをこちらに示したうえで、増産を求められた。

 製法を教えてくれるのなら、相応の金銭を支払うとも言われたけどそれはまだ早いからと止めておく。


 蒸留酒の価値が決まる前だと買い叩かれるからな。まずは蒸留酒を広めるところからスタートだ。





 添加物を抜きにすると、大麦1㎏から25リットルぐらいのエールができる。

 これを5倍濃縮で度数20%の蒸留酒を作っているわけだから、大麦1㎏が5リットルの蒸留酒になる計算だな。

 もう少し付け加えると、この世界の一般的な大麦生産量は1アール(100平方メートル)あたり5㎏ぐらいである。現代日本の3割未満と、生産性はとても低い。


 村で使う大麦は普段だと毎月5㎏ぐらい。125リットルのエールを作っている。

 500人全員が酒を飲むわけではないが、1人当たりの割り当てはコップで2杯分ぐらい。かなり少ない。


 今は伐採の労いで3倍の15㎏をエールに回しているが、パンに回す分などを考えてもこれが限界ギリギリである。

 当然、全く足りないので外からエールを購入することで対応している。

 出費は痛いが、その分は伐採で儲けているのでトータルでは黒字だ。



 さて。

 今回の販売計画では大麦2㎏分、10リットルを外向けに売るつもりだった。

 それが義兄や爺さんの要望により、桁を一つ増やして対応することになった。しかもどちらに対しても、だ。最低でも200リットルは生産しないと駄目らしい。


 義兄の蒸留酒は材料である大麦が持ち込まれるので材料の心配はしていない。

 燃料の薪も、今回は俺がある程度対応すれば何とでもなるだろう。

 爺さんの方はワイン持ち込みとなっているから、その後の蒸留だけでいい。



 問題は短期とは言え熟成に使う酒造蔵の増築であり、蒸留に取られる手間である。

 酒造関係の施設は毎日稼働していた訳では無いが、現状のままだと連日フル稼働させても全然足りない。10倍生産はそんな無茶なのだ。

 当たり前だが人員も増やさないと駄目だ。片方だけならまだ何とかなるけど、両方から100リットルを要求されるとかどんな罰ゲームだと言いたい。


 蒸留は魔法で対応可能だけど、仕込みと運搬ぐらいは人手がいるからなぁ。

 これまでは片手間でやらせていたけど、本格的に専門家を育てないと駄目かな。



 貴族相手の、ちょっとした高級品販売のつもりだったんだけど。少量販売でプレミア感を出してさ。

 月100リットルって多すぎないかね? どんだけ飲むんだよ、アル中になる気か?

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