交配種(F1)
環境を変えながら大根などの生育状況を調べる。
種蒔きの時期をずらしつつ、並行して成育状況を確認する。
その結果、思った事。
大根とか、普通に育つんですけど?
他の作物もそうだが、北では育たないと聞いていたにもかかわらず、大根たちは特に問題なく育っている。
グラメ村だけではただの勘違いかもしれないと思い、メシマズ村にも協力を要請した。そしてメシマズ村でも普通に育っているのを見て、北で育たないという定説がただのガセネタであったと結論付けた。
何を理由に育たないと言われ出したかは知らないが、おそらく一度の失敗で決めつけてしまっただけなのだろう。
あとは生産性の低さから失敗する可能性の高い作物に手を出す余裕を生み出せず、誤情報を修正する機会を失ったのだろうと考えられる。
大根は北の地の方が良く育つ。
メシマズ村を巻き込んだことにより大根の正しい情報が広まっていき、誤情報は修正されていくのであった。
水耕栽培からの鉢植えを経て、大根の種が大量に手に入った。
秋口になれば寒さを感じることが多くなり、そろそろ新規の種蒔きを行う事も出来なくなる。普通ならば。
温室を利用したプランターは発芽から最初の数日間を育てるのに適していて、ある程度は温室で育ててから露地で育てるようにしている。
大根は暖かい場所で育てると、早く大きくなる。しかし寒さを知らずに育てると味が落ちるし、大きく育たない事があるうえ、運が悪いと中から腐る。外で育てた方がなにかと都合が良い。
最初は早く育てて途中からゆっくり育てる方法を使うと、本来は早い品種でも2ヶ月はかかる大根育成を10日近く短縮できる。
あんまり短縮しすぎても品質が落ちるのであくまで生産の補助として行うだけだが。
キメラ化した大根だが、見た目があまり変わっていない物の中で良さそうな物を増やしてみようと思う。
大根なら温室を使えば早いサイクルで世代交代ができるし、その特徴を確認するのも容易だ。で、世代交代を同じキメラ植物とのみ行う。
簡単に言えば、品種の確定をしようと言うのだ。
小麦や大麦は年に1回か2回が限界。しかも、使った畑は地力の回復が必要。
でも、大根なら短縮込みで年に最大6回を目指せるし、連作障害も気にしなくていい。
とても都合が良い。
品種を確定されたキメラ大根を普通の大根と交配したらどうなるか。
元になる大根は同じでも雑種強勢の効果により早く育ち強い生命力を持った次世代、交配種(F1)を作る筈である。
そして交配種(F1)は品質がとても安定する。あとはついでに親の優勢遺伝子を劣性遺伝子の確認ができる。
雑種強勢は1世代限りのボーナスである。
その次の世代、交配種(F2)には引き継がれないので、交配種(F1)がまた欲しければ種を採るのではなく、元になった大根を使ってまた交配種を作らねばならない。
元になる大根2種と、交配種1種。
合計3種を常に育てる必要はあるが、「上手く良い作物が育つなら」やってみる価値はある。
交配種の特徴は親の優勢遺伝子次第という面があり、運が悪いと親の悪い所を集めたかのような品種になるのだ。雑種強勢ボーナスがあってもそんな残念大根だったら要らないし。その時は泣こう。
こういった品種改良ならぬ交配種の作成はとても手間がかかるうえ、乱数に支配される面がある。狙った通りの結果が出るとは限らない。
だからこそ、挑む価値がある。
俺という人間とはちょっとぐらいは苦労をしつつ、困難を乗り越える先に喜びを見出す生き物なのだ。
あまりに大きな苦難だと挫折するくせに、苦労が無いと喜びも無いという面倒な性格をしている。
今回もまずはやってみて、また何かあったらその時はその時に考えよう。




