公爵への依頼
人間、付き合いが浅くなると変な不安を覚えるものである。
特にすねに傷持つというか、負い目がある人間などは特に。
もっとも、それらの不安をばっさり切り捨てる事が出来る人間もいる。
目の前の爺さんの様に。
「春に続いて夏も顔を出すか。珍しい事もあるものだ。
また、厄介ごとの類か?」
「いいえ、今回はただの相談事です」
ヨカワヤに伝言を頼み、アポを確認してからの公爵邸訪問である。
公爵の爺さんはそんな悠長な手順を取ったにも拘らず、俺の訪問を何かあったのではないかと勘ぐった。
しかし顔はいつものように笑っており、その発言が冗談だと、言葉に出さず言っている。
言葉って、表情によっては全く違う捉え方をされるよな。俺はその辺があまり得意ではないので、こうやって息を吐くように表情を使いこなす人間にはなれないと諦めてしまう。
まぁ、この爺さんがそういうのが得意ってのもあるんだろうが。
「相談事。それもまた珍しい。
が、すまん。何の話なのかが全く想像も出来んよ」
とは言え、さすがの爺さんでも、何の前情報も無く俺の行動を予測しきる事は出来なかったようだ。俺がなぜ顔を出したか、不思議そうにしている。
「食材の件で、少しお話が」
「……聞こう」
「以前、カ……シャオブローマなる果実を頂いたことがあります。あの果実を食す者たちが、甘い芋の類を食べているという話を小耳にはさみまして。一度、領地で育てられるか試したいのです」
思わずカカオと言いそうになったが、爺さんから聞いたのはシャオブローマって名前だった。間違えると面倒な事になるかもしれないので、慌てて言い直す。手遅れかも、知れないが。
ヤムの方も直接名前を出さず、ただ「甘い芋」とだけ情報を伝える。
「芋……甘い芋……? はて、どうだったか。少なくとも、取引はしておらんな」
「そう、ですか」
とても、残念だ。
グラメ村で育つかどうかは別にしても、ヤム芋は一度食べて見たかったんだよな。サツマイモっぽいと聞くし。
それに、臼で搗いて湯で練り、フフという餅のようにして食べるというのだ。餅と言われると興味が湧くというものだ。
俺はヤム芋について本気で残念がると爺さんはそんな俺に苦笑し、ヤム芋を探してくれると言い出した。
俺が現地に行っても言葉が通じないし、原住民を探して取引をするのは難しいだろうからと、代わりに人を出してくれると約束してくれた。
なお、取引先まで片道3ヶ月かかり、今までにない取引だから早くても来年の春まで待ってほしいと念を押される。
いや、探してくれるだけで助かるから。
ただしキャッサバは持ってこないでくれると助かる。あれには確か毒があったはずだけど、毒抜きの方法を知らないから。




