全裸祭に忍び寄る……
夏は暑い。
つまり、夏は全裸だ。
羞恥心より解放感。全裸の解放感は素晴らしい。
暑いという事は服を脱ぎたいという事であり、全裸に靴だけがジャスティス。農作業に勤しむ男連中が全裸になるのは当たり前の話であり、それを監督――というか、森の獣を狩りつつ畑も視界に入れている俺にしてみれば、見たくもない光景が広がる季節である。
俺の狩りは農夫を守る意味を含むので、あまり目を逸らすわけにもいかないが。正直、辛い。
テメェら、そのファッキンバナナをしまいやがれ!!
え? バナナって何? ああそうですね、このあたりには無い果物だからね、バナナ。
いかん。あまりの暑さに脳みそに蛆が湧いた。
俺はマッチョな男たちから視線を逸らし、森の方に意識を集中させるのだった。
わいせつ物チン列罪が無いので、全裸が犯罪じゃないのは仕方がない。俺が見苦しいと言って全裸マンを取り締まれない。
逆に目の保養、女の全裸は風呂以外では拝めない。悲しい事に、グラメ村の家には冷蔵庫が完備されている。その余波で家の中はそこまで暑くないから女は全裸にならないのだ。精々が胸帯に腰巻と、普段より薄着になる程度だ。あべし。
いや、女の裸が見たいわけじゃないんだ。
ただ単に、男の裸ばかりを見るのが苦痛というだけで。
何が悲しくて「ウホっ! 男だらけの全裸農業祭」を見続けねばいかんのか。泣きたい。
俺が精神的苦痛に耐えながら狩りを続けていると、遠くの空に黒い影が見えた。ただの雨雲には見えない。俺は思わず舌打ちをする。
「嵐か!」
夏の終わり。その風物詩。
台風が、近付いていた。
台風。
英訳すると「typhoon」。タイフーンはその語源を「テュポーン」、ギリシャ神話最大最強の怪物に持つ自然災害だ。
由来から分かるように、ヨーロッパでも台風被害は昔から深刻だったことが伺える。
つまり、ここが台風の脅威に曝されるのは不思議な事じゃない。
古代ヨーロッパに似ている世界って事は、古代ヨーロッパで起こりえたことがここで起きても不思議じゃないって事だし。
俺だってこの世界に生まれてから、毎年のように台風の脅威に曝されてきた。その被害の大きさは身に染みて分かっている。
下手をすれば海辺のグラメ村が吹き飛びかねない事を、俺は知っている。
そんな現実を受け入れるわけにはいかない。徹底抗戦だ。自然災害だろうと俺の村を、俺の美食への道を、奪わせはしない。
その為の力が俺にはある。いつか来ると分かっていた敵が相手だ。俺が負けるはずがない。
勝利をこの手に!
栄光は我がもとに!
俺の覇道を阻むなら、たとえ最強の怪物でも切って捨てる!!
余談だが、この村の近くで地震はおきない。そこもヨーロッパ風異世界の特徴なんだろう。
ヨーロッパの建物って、耐震構造を無視して作っているんだよ。建築様式がヨーロッパ系で地震のある世界だったら、建物が簡単に倒壊するし。
建築様式と自然環境って、だいたいワンセットという話。




