遠出(二日目・午後)
イカは寄生虫が怖い生き物だったはずなので、今回は全部焼いて食べた。
もうちょっと色々持ってきていれば鍋にしたんだけどね。
って、魚と海藻を回収して煮込むだけでも良かったかな。しまったなぁ。
道を作るのはまた今度でもいいし、拠点には大きめの塔でも建てておけばランドマークの様な目印になるから今日中に作っておいた方がいいとして。
あとやっておくことは何があるのか。
俺は空を見上げる。
雲がほとんどない、夏の青空だ。
うん。これなら行けるな。
俺は上空に向けて全力で飛ぶ。
加速は一瞬。燃費を意識しない飛び方で雲の上を目指す。水中じゃないけど気泡で低気圧と低温に対する防御を行う。
高度1万2千m。飛行機が飛ぶ高さまで1分とかからず辿り着いた。
防御しているからいいけど、この高さまで来ると寒さで死ねる。夏に来る場所じゃない。
そんな高さまで飛んでみたのは、海の向こうを知るためだ。
今日の様に雲が少ない状態なら、きっと海の遥か先まで見えるだろう。
目を細めて見るよりレンズでも作った方が早いな。
俺は氷で凹凸のレンズをそれぞれ作ると、それを覗き込んで北の方、海の向こうを調べる。
覗いた先には海が広がっており、陸地らしきものは見えない。
諦めきれずにさらに北へと視線を動かせば、その先には白い大地らしき場所、北極を思わせる氷の世界があった。
……グリーンランド的な、中継地点は無いらしい。
赤道から北極までの距離は地球だと約1万㎞だったが、俺のいるグラメ村は気候的にドイツ北部かそこら程度で北緯50度前後だったと思うから北極点までが5500㎞程度になったかね。グラメ村から400㎞飛んだから、5100㎞先が北極のハズ。
つまり5000㎞も島も何も無い……って、んな訳あるか!
高度1万2千mから見ているとはいえ、数千㎞先の北極が見える訳ないだろ! 適当に作った望遠鏡が、そこまで見える倍率のわけが無い。もっと近くだよ、あの陸地は!
つまり、100㎞か200㎞先に氷で覆われた陸地がある。そう言う事だろ?
この辺、サヴが詳しいと思うから彼女に聞いてみるのがいいな。
とりあえず、知りたいことは大体知る事が出来た。
400㎞先が陸の果て。イメージ的には東京から仙台に移動したぐらいだけど。ツンドラのような場所で針葉樹の森があった。トナカイが居て、馬の代わりにできそう。
海の遥か向こうには夏でも凍り付いた大地がある。地球換算でノルウェーのオスロぐらいだろうから距離的には色々とおかしいんだけど、異世界だからと思考放棄する。それを言い出したら今いる場所がツンドラなのもおかしいし。いや、イメージ的にツンドラと言っているだけだが。
トナカイの確保を考えれば、また来てもいいと思う。
その時に備えて道を作る事も考える。400㎞分の気候の差は考えない。やってから考えよう。
針葉樹は利用方法を思いつかないし、考えなくてもいいだろ。木というならグラメ村の近くの木でいいわけだし。
あとは、サヴに北の陸地について聞くぐらいはした方がいいかな。
とりあえず、そんなところか。
今日やるべき事はもう思い付かないし、晩飯の用意をして、飯を食べて風呂に入ったら寝るか。
たまの休みなんだし、これぐらいは許されるべきだろう。
……休み?
俺は今、休み、だよな?




