追いたて猟
俺は託児所、リーノミの所に向かう。
託児所には去年生まれた、1歳半ぐらいの子供たちが集められている。
1歳半となれば子供たちの行動範囲はかなり広がっており、専用の逃亡防止柵のある託児所で一括管理しているのだ。
安全な環境を用意することで母親たちの心労もぐっと軽減できる。子供から目を離したすきに、というのが一番怖いのだ。
託児所には常駐している職員が2名いるが、その他にも子供の面倒を見ている存在がいる。
それは狼たちだ。
群れを作った狼たちは森に帰した。
しかし森ではなく村に残った狼もいる。その数、7頭。群れ一つ分である。
子供が怪我をすれば遠吠えでそれを知らせ、急ぎの何かがあれば職員を呼ぶこともする。
遊び相手にもなるし、狼たちは子供たちにとって良き守護者となっている。
犬じゃないけど、狼たちは子供たちにとって良きパートナーとして、村のみんなからも認められた存在だ。
彼らは子供の面倒を見る事で日々の糧を得る生活をしているが、狩猟本能を失ったわけではない。
たまに休みを与えると、彼らは森に出かけて自分で獲物を獲る。
木々の間を駆ける事も、集団で獲物を狩る事も、誰から言われるでもなくやってみせる。
それでいて俺に肉を預けて熟成させる知恵もあり、だけど血のりを洗われるのが嫌で逃げ出すなど、飼い犬みたいな面も見せる。
どちらも狼たちの姿だ。
今回は、狼たちに狩りの手伝いを頼みたいと思う。
狩猟犬ではないが、動物を狩りに同行させるのは一般的な行為だ。
人間よりも優れた身体能力と五感を備えた狼であれば、狩りがより一層容易になるのは間違いない。
森の中にちょっと移動しやすい道を作り、その通りに落とし穴を掘っておく。
あとは猪を探し、追いたたせ、道という通りやすい場所を利用させることで落とし穴に落す。狼に追われる事で周囲に気を払う余裕がなくなった猪は、面白いように落とし穴に落ちた。
人間は落ちた猪にとどめを刺し、引き揚げて解体するだけの簡単(?)なお仕事です。
たった1日で5頭の猪を落とすことに成功し、運搬や解体が忙しく手が足りなくなってしまうほどだ。
運搬用の担架を用意したが、これほど簡単に狩れるのであれば運ぶ人数を増やすか森の中に拠点を作った方がいいかもしれない。もちろん拠点と村との間には通りやすい道を作る必要があるな。
担架で運ぶだけでも手が足りない。
道を整備するのは大変だが、そうするだけの価値がある。
俺が狩りの成果に満足していると、ズボンのすそが引っ張られた。
下を見れば狼たちが俺の周りに集まっており、仕事の対価を要求している。
狼たちは誰もが声を出さず俺の顔をじっと見ているだけだが、言いたいことはよく分かる。
俺はこうなるだろうと思って持ってきていた燻製肉を荷物から取りだし、狼たちに与える。塩っ気のない燻製肉だが、狼たちは熟成肉よりもこちらを好んで食べたがる。
尻尾を振りながら燻製肉を齧る姿は見ていて微笑ましい。
今回は頑張ってもらったからね。たくさん食べるといいさ。




