乳製品
羊乳でチーズを作る。
あまり臭いがよくない羊乳と言う事で、ちょっと臭い消しにミントを使いつつ、製作を進めよう。
羊乳は水気が少なくたんぱく質や脂肪分が多いからチーズやバターの原料として優秀だし、作り方は俺のオリジナルではなく実績のある方法だ。何も問題ない。
最初に滅菌。これは念の為に魔法で行う。牛乳同様、煮沸消毒でもいいんだけど。チーズは菌とかで作るので、最初ぐらいは念のため、だ。
ヨーグルトを加えてよくかき混ぜ、湯煎で温めつつ1時間ほど放置。ヨーグルトの素はヨカワヤから買ったものだ。買った物を種にしつつ、現在はちょっとずつ増やしている。
で、産まれて間もない仔牛の胃から取った消化液を加える。これはレンネットと言う乳液凝固剤で、羊乳を固形化するのに使う。こんな話を聞いたことは無いか? 羊の胃袋を水袋にしていた男が、中に入れていた山羊の乳を固形化させた話を。あれはこのことを言っているのだ。
出来た真っ白な固形物はカードと呼ばれ、紀元前3000年ごろには作られていたらしい。
これに塩と乳酸菌などを加えて熟成させるわけだが、その期間は4ヶ月程度である。
熟成させる品だから簡単にできる物ではないので、いつものように地下室を作ってそこで熟成だ。
なんだか村の地下が地下室だらけと言うか、穴が多くあるよな。
井戸はいいとして、肉を低温熟成させるための地下保管庫や釣り堀用の水路とか。地下の有効活用がこの村一番の特異性かもしれない。
チーズはすぐに食べれないという事で、もう一つの乳製品を作る。
それはクリームやバターだ。
こちらは簡単なので、そう時間はかからない。
まず、羊乳からクリームを作る。
クリームは生乳を涼しい場所に置き、1日寝かせるだけでいい。翌日には上澄みがクリームになっている。
どうでもいいが、日本で市販されている牛乳が冷蔵庫でクリームになっていないのは、ホモジナイズ処理されているからだ。時間をおいても分離しないようにと加工されているので、市販の牛乳からこの方法でクリームを作る事は出来ない。作りたい場合はホイップクリームの素みたいなものを混ぜるしかない。
クリームが出来たらひたすらシェイクするだけ。
冷やした状態でやるのがポイントで、凍らせたら駄目だが持った手で暖まらないよう、水車で動く機械を使ったやり方で半自動シェイクをさせる事にした。人力はいろんな意味で効率が良くない。
最後に乳清という液体が分離しているので、これを取り除いて無塩バターの完成。
どのタイミングでもいいけど、塩を加えた方が保存できるし味が良くなる。
最初の上澄みを掬った後の羊乳やシェイク後の乳清を使ってもチーズは作れる。
クリームやバターって乳の脂肪分だからね。脂肪分の無いチーズになるけど、それはそれで構わない。脂肪分が無いのも使い方次第だし。
食べ比べが楽しみだ。
チーズやバターは俺の知識からではなく、この国のやり方を参考にした。
生乳は駄目だが、加工乳は大丈夫と言われているんだよ。この王国でも牛乳を飲む習慣が無いだけでチーズは嗜好品や保存食として重要なものだし、バターだって普通に作られている。
適当知識で試行錯誤する手間が無いのはいいね。
それに、人任せにしやすい。
「セガール様、味見をお願いします」
最初の魔法が必要な所での手出しや陣頭指揮はしたけど、あとはアシュリーたちに任せた。俺は口を出すだけ。あんまり必要なかったけど。
羊や水牛の育成に失敗しなければ村の特産にもなるだろう、俺が居なくなっても。
って、そんな事はどうでもいいか。
まずはシンプルに。パンにバターを塗って食べよう。
「頂きます」
 




