牛乳
ご機嫌取り、という訳ではないが、もう一つだけ村の皆の機嫌が良くなる話がある。
牛乳だ。
羊乳もあるけど、そっちは不人気だから横に置くとして。
牛乳が飲めるようになったのだ。
真面目なお話、搾りたての牛乳は危険だ。雑菌が多く、何もしないで飲めばお腹を壊す。最悪、死ぬ。
なので加熱殺菌してから飲むのが安心安全な方法である。
沸騰させる必要はないけど、低温長時間殺菌だと63℃で30分だったか。もしくは超高温短時間殺菌だと120℃以上150℃以下で1~3秒とか。
味がちょっと変わるけど、これをやらないと安心できないからね。例え加工用でも殺菌は大事です。
加熱しても栄養価は変わらないので、そこだけは気楽でいいね。
加熱して変わってしまった牛乳のお味は。
薄い。
俺はこの一言に尽きると思っている。
前世の、現代日本の牛乳の濃さと比べると全然だめだね。コクが無くてあっさり風味。物足りないどころではなく、水で薄めたような違和感を感じる。
原因は水牛という日本の乳牛とは違う品種を使っていることよりも、与えている餌の差だと思う。
餌が違えば、肉も乳も味が変わる。
ならば乳の味が俺好みに濃くなる、そんな餌を探さねばなるまい。
100点満点の味は無理だと思う。
品種による限界は存在するだろうし。
飲用牛乳についてはあっためて砂糖を入れて、誤魔化しながら飲むしかないかな。
俺の不満は横に除け、大事なのは俺以外に牛乳が受け入れられるかどうかだった。
元々、牛乳は王国でそこまで受け入れられていない。
牛を農耕に使うなど、労働力としては期待されているが、乳の飲用は「飲んだらお腹を壊す」という認識が強くてされていないのだ。
このあたり、新芽の毒ですぐに受け入れられなかったジャガイモと似た扱いだ。
だから、牛乳が受け入れられない可能性も考慮していたんだけど。
「大将! お代わり!」
「一人一杯までだっ!」
水牛のお乳、人気です。
理由は不明。ただ、飲むことに対する抵抗は一切示さなかった。
嫁さんたち以外はな。彼女らは飲みたくないと言っていたので、それならそれでいいかと無しにした。
牛乳はそんなに搾れないので、今のところは制限つきである。量が安定しない事もあり、毎日飲ませられるわけでもない。毎日品薄だ。
飲むことに抵抗が無かった理由を聞いてみたけど。
「大将が勧めたモンは、だいたい美味かったっす」
ここまで何年も一緒にやってきた俺への、無形の信頼だった。
食べ物の好き嫌いだから多少の個人差があるが、それでも俺が勧める以上は大丈夫だと思ってくれたようだ。
素直に、嬉しいと思う。
次はシチューを作るかケーキに挑戦するか。
ケーキは難しいから、まずはシチューだな。




