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世襲

 試合を通してよく分かったが、みんなには「考える習慣」や「新しい発想を得る経験」がほとんど無い。

 そういった能力が全く無いとは言わないけど、基本的には言われたことを言われた通りにやる、素直な性分なのだ。

 末端としてはとてもありがたい性分だが、それではリーダー向きではない。今欲しいリーダーに求められるのは俺の提案する方法以上の、より上を目指す性分なのだ。


 もっとも、あまり好き勝手やるような奴では意味が無い。

 ある程度は俺が制御するから、こちらの要求を理解して、その中で最善以上の結果を出せるような人間が欲しいと言っているのだ。


 ……前世でも、そんな部下は滅多にいなかったよ。



 新しくて相手の虚を突くような思い付きを得るには経験が必要だ。

 それは一朝一夕でどうにかなるようなものではなく、ゲームのルールを熟知し、実感し、経験し、それらを土台に思いつく事だ。

 他に似たようなことをやっていればそこから着想を得るかもしれないが、彼らはこういったゲームの経験が少ない。


 期待するほうが、間違っている。



 彼らは兵士候補なんだし、後は護身術って事で柔道や合気道の技でも教えてみるかね。あと空手やボクシングとか。

 こういった技術も知識チートだし、受け継がれていけば何らかの面白展開もあるんじゃないかな? 数十年後に。





 武官の方はまだまだこれからとして、文官の方は女性陣を中心に鍛えていこうと思う。

 文官に求められるのは知力なので、男女差などは考えなくていい。そして男性陣は肉体労働メインなので武官側に偏らせた方が好都合なのだし、ならば女性に文官をと言うのは発想として大きく間違っていないはず。


 問題は、この世界には女性文官など存在しないと言う事なんだけど。

 地位のある女って、神官ぐらいしかいないんだよ。



「女性を政治に参加させるですか。

 正気ですか?」


 法務官に話をしてみたところ、思いっきり変な顔をされた。

 しかし、村の将来を考えるとそれしかないって話なんだよ。



 グラメ村の女性は、基本的に娼婦だ。あとは生まれたばかりの赤子や幼子だね。その為男性比率が異常に高い。江戸なみだ。


 それが将来的に、男女比は一対一になる。

 そうなると女性には娼婦以外の仕事を与えなくちゃいけない。


 男ほどでなくとも肉体的に恵まれた女性ならいい。男と同じ仕事を割り振れる。


 では、肉体的に劣る女性は?

 食事の準備や洗濯などで体力を使わない部分に専念させてもいいし、織物業を専門にするのもいいかな。今ない仕事を与える事も無理ではないけど。

 その時、選択肢に政治家を混ぜる事は駄目だろうか?

 人口は大きく変わらないのに男女比が変わった場合、男の仕事の方が需要が多いのだから、女性に男でなくともできる仕事を任せるのは、合理的と言えないだろうか?



 外の常識とは違う事を知っている。

 しかし、それは「やりたくない」理由にはなっても「やれない」理由にはならない。

 どうせ外の常識から外れたグラメ村だ、他と違うところが増えたって構わないのではないか?



「他の村へ行かないのであれば、それも選択肢なのでしょうか……。

 しかし、他の村と交流するときに枷となりますぞ? それに女性では世襲も難しい」

「あ。世襲は無しで」

「そんな馬鹿な事を!? 愚かな考えは捨て、考え直しなさい! まだ間に合う!」


 やっぱりそう言われるか。

 世襲制と言うのは貴族的で、現代だと悪い側面をクローズアップされる事が多いが、それでも有効なやり方と言う面も間違いではない。


 文官という事は文字の読み書きができるのが最低条件だ。あと算数。

 そして、村人全員にそんな教育を施せるかというと、そうでもない。

 俺は学校を作る気が無いし、教育は幹部クラスの人間にだけ施せばいいと考えている。領主にやる気が無いのだから民に学ぶ機会など無い。


 それは仕事ができる人間を特定する行為であり、トータルで見た知識や技術の継承効率で大きく劣る方法論だ。現代人なら馬鹿にするやり方でしかない。

 逆に、統治する側は反乱や革命といった反社会的行為を未然に防ぐ有効な施策だ。人権無視も甚だしいこの社会では必要なやり方とも言う。



 学校教育のような国民全員の識字率を上げるやり方は民主主義が前提条件とも言える。たまーに識字率をあげないと民主主義など成立しないと、前提条件を逆に考える人もいるけど。

 明治初期の日本を思い出せば、民主主義なんて識字率が低くて国民のノンポリ層は中々の規模だったわけだよ。もしくは衆愚政治な左翼(かくめい)団体とか。



 だから、世襲を完全に否定するわけでもないんだよ。


「武官の家の娘とか、ある程度教育を受けられる立場の人間の中から、優秀なのを摘まめばいいと思うんだよ。

 ほら。武官の家に生まれようと、文官向きの人間が育つこともあるだろ。家は世襲させるけど、役割は世襲させないって話なんだ」

「む。確かにそうですが、上手くいくとは限りませんぞ?」

「世襲でもリスクはあるし。やる気や適性を見比べるのも必要かなって思う訳だ。競争意識って大事だよね」

「はぁ。意志は固いようですな。では、私からはこれ以上の口出しはしません。正解を見つけるのは次の世代に託すとしましょう」


 教育を施す相手を名士の一族として、名士の家を複数作ればいいんじゃないかなと思う訳です。

 名士以外に優秀なのが居たら、名士の一族と結婚させて取り込めばいい。家が複数あれば、それもやりやすいと思うのだ。



 んじゃ、次はどうやって女性文官を見つけるかだな。

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