グラメ村の評価
持つべきものは、権力者の知り合いである。
これは現代日本でも古代異世界でも同じ、不変の真理である。
ただし自分が権力者になるのは面倒くさいからノーサンキューな日本人。
動き回れなくなるのが嫌で男爵というなんちゃって貴族として開拓村の村長をやっている俺はまだギリギリのラインに居ると思う。
最近は手遅れかもしれないと思うけど。
きっとまだ大丈夫、大丈夫。信じる事が大事だって、どっかのおっちゃんも言っていた。
あれ?
何か違う。
徴税官のクソ爺は村で一泊して翌日帰るという。
御付きの連中も含め、まとめて村の端にある空き家に放り込んで見張りを付けた。怪しい様子を見せたら「殺ってよし」と言い含めてある。
とりあえず、クソ爺の対処はこれでいい。
俺は夜を徹して公爵のいる王都へ向かう事にした。
その日のうちに着いたので、門番に明日の朝に顔を出すと連絡していつもの家でさっさと寝た。
翌朝、公爵様とはいつごろ会えるのかを確認すると、すぐに会うとの事で爺さんの所に通された。
挨拶を交わし、世間話をする時間も惜しんで本題に入る。
「まず、グラメ村に徴税官を送るなどという話はどこからも出ていない」
公爵の爺さんは真剣な目で俺の方を見る。
いつもはニコニコとして好々爺といった顔つきが、今は公爵の立場に相応しい重みを感じさせる迫力を伴っていた。
「宮廷ではグラメ村に賦役を課し、新たに製鉄業を起こさせようという方向で話をしている。
村から鉄を持っていくより、より多くの場所で鉄を作らせる手助けをさせるのが一番だと、我々は考えている。飲み水を理由に人口増加が頭打ちらしいから、村を拡大するためグラメ村へ水路を作る計画も出ているよ。
村で使う鉄などたかが知れている。市場に流れるのであれば、それは容易に回収できるからね」
爺さんは俺に語っていいのかどうかわからない計画まで説明して、陛下や宰相らにグラメ村から鉄を徴収するつもりがないことを明らかにする。
その代わりに技術者を引き抜き、製鉄業を大規模化する為に働かせようと画策していた。いや、人をと言うより技術を提供させようと言う事か。
確かに、目先の現物を持っていくより将来性のある話だ。
それにしても聞きたくない話だが、水路を作る計画って。
そこまでして欲しくないんですけど。
厄介事を引き込みたくないから、これ以上村を大きくする気はあんまりないんだが……。
「そうなると、どこから徴税官が派遣され、何の権利があって税を盗ろうというのか。そこを明らかにしたい。
頼めるか?」
俺は頷き返すが、念のために状況を確認することにした。
「あのクソ爺は今日中に連行するよ。
ただ、あの爺から「開拓村は正式に村として登録される。よって開拓期間を終えたとして、法に基づき税を徴収するものとする」って宣言されたんだけど。
そこは大丈夫なのか?」
「うむ。そこは問題ない。
“陛下の言葉は”?」
「“全てにおいて優先する”
了解。なら、何の問題も無いね」
「当然だな」
一応、徴税が適切で法に則った行為ならば従うのに異論、異存は無い。国民として貴族として、払うに決まっている。
逆に、法的根拠も無く徴税しようとしていたのであればそれは重罪だ。主犯は最低でも貴族位はく奪の上で拷問処刑、一族郎党も斬首で御家断絶は免れないだろう。
爺さんは「一族まとめて人体実験フルコースだろう」と瞑目した。
医療研究目的で重犯罪者を人体実験に使う事があると聞いていたが、これは普通の死刑よりも上の刑罰である。この国に人権意識は無いが、死者の尊厳を守るという考えぐらいはある。それを踏みにじる勢いで色々やらかされるわけか、あのクソ爺。ざまぁ。
今回の件については、公爵の爺さんの方がご立腹の様子。
もしも俺が払っていれば話は内々に収められ、発覚しなかった可能性が有ったと言う。俺自身、税の話なんて全くしないだろうからその可能性は否定しきれない。ニセ徴税官は大量の鉄をタダで手に入れ大儲けだったわけだ。
そして俺が今回の様に支払いを拒否すれば、王への反逆を演出できる。徴税の話が本当かどうかは横に置き、税を支払う義務を跳ね除けたとあれば俺への風当たりが強まるのだと爺さんは説明する。その話が嘘だと発覚する前に支払いを拒否したというのが重要視されるというのだ。理解しがたいが、貴族の取り決め、やり取りとはそういうものらしい。
なお、無茶な額、鉄の8割を要求したのは袖の下を求めていた可能性があると示唆された。
鉄を求めたのは他の誰かで、ニセ徴税官はただの下っ端。その下っ端が自分の利益の為にそんなことを言いだしたのではないかと爺さんは言う。
「その強欲が致命的であったな」
もしも鉄の4割を要求されていたら、俺はどうしただろうか?
そのまま大人しく従ったような気もするし、あのクソ爺は自分の首を自分で絞めたわけか。
俺は急ぎグラメ村に戻り、ニセ徴税官ご一行を壁魔法でブロック状に梱包すると、犯罪者として王都の官憲に引き渡した。
調査の結果、国内で製鉄業を営む貴族が黒幕だったらしい。
俺の所よりも低品質の鉄しか作れない為、ずいぶん買い叩かれ経済的に追い込まれていたようだ。それまでのように鉄を作っていれば安泰と思っていた領地経営は火の車、それで俺を恨んでこのような犯行に及んだのだという。
……まぁ、それで俺を恨むのは筋違いだと思う。
確かに鉄市場を荒らしたとは思うが、どんな商売でもいつまでも同じように続けられる訳では無いし。何らかの保険は必要だし、常に先を見て色々とやっておくべきじゃないだろうか?
なにより、そこで犯罪に走る段階でアウトだ。それは自爆でしかない。
今回の件で俺は無駄に時間を使い、余計な事に魔力を使う羽目になり大損である。
唯一の救いは将来の納税について今のうちに話を聞けたことだ。あと、水路を作る計画とか。
今のうちに何らかの動きを考えておいた方が良さそうだな。
いや、何をすればいいのかさっぱり分からないけど。




