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紙芝居(失敗)

 娯楽じゃない紙芝居なら、前に仕事の説明用の物を作っていた。

 今度は物語の面白さをメインに作るとしよう。



 話はパクリで作ろう。

 日本昔話をアレンジするとか、グリム童話を元ネタにするとか、人の作った話をベースにするのが望ましい。


 俺の感性が村の連中にマッチングする可能性と、昔の人が考えた話が村の連中に受け入れられる可能性。

 どちらが上かと聞けば、昔の人が考えた話の方が合うだろう。

 俺の中には現代日本の常識や知識、読み漁った漫画やラノベのストーリー、それらが混じっているからな。あまりまともな話は作れないだろう。

 だったら似たような時代とは言い難いが、それでも俺よりはよほど近い時代の人が考えた話の方がまだマシだろう。


 俺はまず、日本昔話から「桃太郎」をベースにした紙芝居を作るのだった。





 海の果て、蓬莱島。

 そこで戦士の一族に産まれた最強の男・桃太郎は、島の主である西王母の命令で東の果てに居る盗賊団「温羅」を退治すべく旅に出る。


 しかし現地に入り調べるうちに温羅の強大さを知り、桃太郎は単独で戦うのが難しいと考えた。

 そこで桃太郎は最高の傭兵部隊と言われる「犬」「猿」「雉」を「きび団子」という宝物で雇い、温羅の根城である鬼ヶ島へと乗り込んだ。


 鬼ヶ島は海の向こうにあるため、近付けばすぐにばれてしまう。桃太郎たちは浦島太郎という水夫を雇い、竜宮という船で嵐に乗じて鬼ヶ島へと乗り込んだ。

 嵐は船を沈めようと荒れ狂ったが、浦島太郎の操船術により桃太郎たちは鬼ヶ島への上陸を果たす。


 桃太郎たちは鬼ヶ島の水源を探し出すと、嵐が去るのを待ってからそこに毒を投げ込み身を隠した。

 島は広く、桃太郎たちはすぐには見つからない。毒は遅効性だったためすぐには気付かれず、翌日には多くの盗賊が毒に倒れた。


 桃太郎たちは毒が利かなかった盗賊たちを闇に紛れて殺して回り、着実に数を減らす。

 しかし温羅も愚かではない。すぐに侵入者に気が付き、桃太郎を追いこむことに成功する。

 数の利に押され、追い込まれる桃太郎。調子に乗る盗賊団・温羅。

 桃太郎ピンチ! しかしそれは桃太郎の策略だった。

 別行動をしていた「犬」「猿」「雉」が温羅の背後を突いて攻撃し、温羅はあっけなく壊滅した。


 桃太郎は温羅の貯めこんだお宝を全て奪うと、蓬莱島へと凱旋。

 3つの傭兵部隊はそのまま蓬莱島の兵士となり、指揮官たる桃太郎と共にそれからも蓬莱島の敵を打ち破り、末永く島の繁栄の礎となったのでした。

 めでたしめでたし。





「セガール」

「何だ?」


 俺は完成した紙芝居をサヴに見せ、その反応を見る事にしたのだが。

 サヴは何故か頭を抱え、何を言えばいいのかと混乱している様子だった。


 俺としてはよくある英雄譚にある程度のリアリティを追加し、適当に書き加えた話を作っただけなのだが。


 桃太郎の原本から蓬莱島と西王母を引っ張り出し。

 金太郎こと坂田金時の神変鬼毒酒のエピソードを混ぜ。

 浦島太郎を島を渡る船乗りとして友情出演させ。

 某漫画の傭兵団桃太郎を借りて。


 多少ごちゃごちゃしているが、それぞれ元の話を知らない奴ら相手ならこれでもいいかなと組み直してみたのだが。

 不味かったか?


「不味いなんてもんじゃないさ。

 他所の国の英雄譚なんて聞いたことが無い架空の国でも懲罰対象になるし、民心を王から離れさせる工作として疑われる。

 何より、これのどこが英雄譚さ。もっと派手に、魔法の一つでもブチかまして壊滅させた方が分かりやすくて英雄らしいさ」

「リアリティが仇になったのか?」

「セガールはもっと英雄の格好良さを知った方がいいさね。

 剣を振るえば敵を薙ぎ払い、魔法を使えば城壁でも打ち貫く。それが英雄さね。

 セガールの桃太郎は戦上手の将軍でも、英雄じゃないさ」


 むぅ。

 最強天然チート系が人気の英雄か。

 と言うより。

 よくよく考えたら、古代の戦争をモチーフにした有名な話もあるじゃないか。トロイア戦争とか。





 最終的に完成した、某運命を味付けに混ぜつつ作ったトロイア戦争もどきの新作紙芝居はそれなりに好評だった。

 なぜか登場するオーディンのグングニルがアイギスの盾で防がれるシーンはそれなりに盛り上がった。


 人名は神話やらなんやらからパクったが場所は王国の適当な都市を借りて王国の英雄譚として仕上げたので、春にヨカワヤに売り付ける予定だ。



 新作紙芝居を苦労して作ったが、労力に見合う結果は得られなかった。


 紙芝居の問題は、同じネタを何度も使えない事。

 知らない奴への一発ネタとしては優秀だったが、何度も同じ話を聞きたいという奴は少数派だったのだ。

 その為、数年後に子供へ聞かせる事は出来るだろうが、来年の冬に同じネタを引っ張ったところであまり効果は無さそうだ。


 赤穂浪士の忠臣蔵は年末恒例番組だけど、何度も見る人がいないのと同じだな。

 大都市とかならまだいいけど、村の娯楽に紙芝居は向かない。


「大将ー、新作はまだっすかー?」


 そして、労力に見合わない仕事を次から次へと要求されるのがもっと大きな問題だな。

 新作はまだ先の話だ! しばらく待て!

 そうそう面白いネタがあるわけじゃないんだぞ!!

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