不作
女の扱いが下手なのは前世から。
女友達や女の同僚、もしくは姪っ子であれば問題ないけど、それ以上踏み込んだ関係の相手になるとどうしても上手くいかない。
俺のデリカシーの無さは死んでも治らなかったらしい。
俺の教育を受け持ったアシュリー達は、最後の方は理解し難い異星人を見るような目で俺を見ていた。
その後の何か決意を固めた瞳については、全力で見なかったことにしたい。
もうすぐ秋になるのだが、今年の小麦は出来が悪い。不作と言っていいかもしれない。
去年と比べると単位面積当たりの生産量が7割ぐらいに減っている。
ノーフォーク農法の要の一つは、家畜の糞を使った肥料にある。
今年の小麦に水牛や羊は間に合わなかったので、鶏糞で対処してみた。
鶏糞はそのまま使う事が出来る便利な肥料だ。
発酵させて堆肥にしてもいいし、高温処理して臭いの少ない粉末肥料にもできる。土質改善効果が無く、含有栄養素もバランスがいいのでほとんどの作物に使える。
そのまま大量に使うと土中で発酵して害になる事もあるが、それさえ注意すれば大きな問題は無い。
そんな万能肥料を使っていたにもかかわらず、小麦の育ちが悪い。
去年から変わった事といえば鶏糞を使ったことぐらい。土の改善などはあまりやっていないし、水は去年からため池の水を使っている。雑草はちゃんと手を抜かず引いていたぞ。
雨の降り方とか気温も去年とそう大きく違わないので、本当に理由が分からない。
強いて言えば、大きく変えていない事か。
現状維持や継続しているというのは変化が無いように見えるが、目では見えないところが、あるいは周辺が変化しているものだ。
きっと土中の腐植物が足りなくなったとか、そんな理由だろう。
だよな?
他の作物も見て回る。
小麦だけでなく、他も見て回れば何か分かるかもしれない。
農地にある他の作物は、甜菜と大麦。ついでにライ麦。あとはキメラ植物や野菜類が少々。温室や果樹園はそもそも実りを得られるほど木が育っていないので見て回るほどではない。
甜菜は丸々と育っている。甘みを増すため、農地の中でも扱いが特殊なのでちょっと参考にならないかな。
大麦は新しく開拓したところに育てているが、こちらは順調。いや、前回よりも豊作のような気がするほどだ。こちらも参考にならない。
キメラ植物は……うん、比較対象が無いね。元気いっぱいだし。
根っこが甜菜で上は山芋の蔓という、『蔓カブ』とそのまんまの命名をした植物は他を侵食しないように定期的に蔓を切らないと外まで根を張るほどよく育っている。多年草なので冬も越せる強い植物である。甜菜部分からは甘みが抜けているけど、カブと思って食べる分には問題ない。
リンゴを混ぜた山芋の方は、根の芋部分が食べられなくなっている。その代わり、なぜかイチゴのような実を付けるようになったので、『山苺』と命名した。山苺の実は甘味よりも酸味が強い。それはそれで美味しいので、これは村民にも好評だ。なぜか種が無いので増やしにくい。株分けを計画しているが、生命力が弱く、蔓と言うか幹と言うか、胴体部分に大きな傷をつけるとそこから枯れだすほど病気に弱い。回復魔法が無いと無理かな?
やっぱり参考にならない。
今の結論としては、小麦が不作の原因は分からないという事。
経験が足りない、蓄積が足りない。
農法そのものが時代を先取りしているので、何が不具合かも分かっていない。
ま、農業なんて10年20年単位で頑張るしかないからね。
そのうち、何年後かに答えが見つかるだろう。




