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ヨカワヤさんと御用達

 この時代の結婚って本人の意思が関わらない事の方が多いんだけど、そんな常識に納得できない人も多少はいるわけで。ヨカワヤはその納得できない人の一人って事なんだろうね。

 あえて深く聞く事はしないけど、多少は気を使うべきだろう。



 家畜はもういいだろう。こっちなら大丈夫かなと思い、麻の繊維を乾燥させている場所に案内する。


「はー。布生産にまで手を出したんですねー」

「もともと羊はそのために買ったんだけどな。他の布地もあった方が都合が良いだろ」


 羊毛は温かい服を作るのに向いていて、麻の服は涼しい服を作るのに向いている。

 用途が違えば並行して作り出しても問題ない。と言うか、あんなにも少ない羊では過剰生産にならないんだから、他の布が作れないと不足分の穴埋めが出来ないんだけどな。

 夏服と冬服といった使い分けをするなら、どちらも全く足りていないんだ。


 だからヨカワヤから服を買うのを止める予定は今のところ、無い。

 少なく見積もってもあと10年は頼らないと駄目だろう。羊は年に2頭産むか産まないかといったところで、簡単に数を増やせないのだ。

 消耗品である服を買わなくなるほどの生産量に届くには、それでも足りないかもしれない。

 そしてこの辺りでは木綿を見かけないので、綿製品はヨカワヤ経由しかないのだ。


「でもですよ? 王女様たちの御用達(ごようたし)が持ってくるんじゃないですかねー?」

「それは彼女らの分だけだから。あいつらが持ってくる高級品を村民用に買ったら俺でも破産するし」

「あははー。そうでしたー」


 ちなみに、王女たちには御用達と言われる専用の商人が付いている。

 御用達は客先を訪ね欲しい物を聞いて回る訪問販売の一種だが、王女や貴族令嬢であれば信頼できる商人以外を相手するはずが無く、彼らはここまでやってきて、欲しい物を調達しては持ってくる。

 ただ、予算の都合か2ヶ月に1回来るかどうかといったところで、王女たちも満足な買い物ができないでいる。王都であれば毎日訪問・即日納品できる彼らでも、辺境まで来ようとすれば今までにないほどの経費が発生するので、この程度に落ち着いている。

 俺の様に割り増し支払い予算を組めば問題も解決するのだが、彼女らの使うお金は実家持ちなので、身分から考えて思ったほど贅沢を許されていないのかもしれない。


 ちなみに彼女らが取り寄せる品の大半が嗜好品だ。

 甘味がメインで、果物のはちみつ漬けなどを分けてもらった事がある。貴重な品であり、完全に高級品である。お高い酒もそれなりの量を買っていたと聞いている。

 他も絹の服や宝飾品を買っているようで、ヨカワヤたちの扱う一般人用の商品とはジャンルが違う。完全に別世界の話でしかない。



 他の商人が参入することで市場を荒らされる事を警戒していたヨカワヤやサヴであったが、杞憂だったようである。


 他の一般商人がわざわざ俺の所まで来ることは無い。

 いくら発展しているとはいえ対外的には村のままであり、商業規模はどうしても小さくまとまる。他を経由するように販路を求めても、突き当たりの村ではそれも難しい。せめてメシマズ村以外に行ける街道があればいいのだが、今のところそんなものを作る理由が無い。


 正常な商業の為には複数の商家を招いて競わせた方がいいのだろうが、信頼できるパートナーがいるのであれば独占契約の方が都合が良い。

 何でもかんでも競争させた方がより良く発展するというのは幻想だ。庇護と依存の関係でしか育たない道も世の中にはある。


 俺とヨカワヤ達の関係はこのまま何年も続くだろう。

 そしてその方が国全体にとってプラスに働くはずなのだ。

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