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ヨカワヤさんと鶏

 ここ最近、ヨカワヤと顔を合わせる時間が減ったいたかもしれない。

 どうにも山脈作りで忙しくなり、王女(ユリア)の相手も半ば仕事として時間を割く必要に迫られ、優先度を一つ二つ下げてしまったのが原因だ。


 まぁ、顔を合わせないだけなら気にしないかもしれないけど。

 頼んでいる仕事が横ばいで、特に変化が無いのは問題だったかな? 冷遇とは言わないけど、無関心になっていた。

 久しぶりにゆっくりお喋りをしようと誘ったら、彼女は不機嫌であった。





「ええ、ええ。構いませんよー。婚約者さんとの時間の方が大事でしょうしー」


 とはいえ、互いに大人だ。そこまで険悪になる事は無い。

 軽い嫌味を聞かされるのはどちらかと言えば甘えているだけだ。言葉の裏にある本音を読むのは、親しい間柄であればよくある事である。


「でも、本当に増えましたねー。他ではこんなにたくさんの鶏を扱いませんよー?」

「安定した餌の供給源があるからね。その差でしょ」


 俺達は今、養鶏場に居る。養鶏場というより鶏の庭だけど。

 鶏を持ち込んだヨカワヤならその後の行く末が気になっているだろうと案内しているわけだが。養鶏場として成功しているのを見ると、その成功に貢献した者の一人として喜んでいた。



 プロイラーの様に狭い暗所で育てるのも試してみたが、あれは薬品や照明で健康管理ができるからやっているのであり、俺にはできない。出来ない場合は放し飼いにするしかないのだ。

 あの時はほとんどの鶏がストレスや運動不足で病気になったからな。かなり酷い。ストレス発散の為にイジメ殺される鶏が続出するなど、少なくない被害を受けた。やっぱり1平方メートルに16羽は無理だと思う。


 最近は鶏に油を搾りとった麻の実を食べさせている。その甲斐あって卵を産むのが当初の4~5日に1個から3~4日に1個までペースを上げている。

 一羽ごとの管理はしていないが、特に産卵ペースの良いグループの卵を優先して孵化させているので、来年には2~3日に1個までペースアップしてくれるかもしれない。


 なお、食肉にしてしまうだけなら生後3ヶ月程度で問題ない。ブロイラーなら約2ヶ月と言うし、3ヶ月というのは品種改良前の鶏でも十分な育成期間だ。地鶏だと2歳3歳の方が美味しいとか言っていた気がするけど、あれって卵を産ませる期間を設けただけの鶏だよね? その間の餌代までお値段に含まれるから高級品になっているだけだよね?

 ついでに特に味の良かった鶏のグループを食肉用グループとして増やすようにもしている。

 環境や餌が同じで味に違いが出るのだから、残りは遺伝子的な個性の差だと思う。良い味の鶏はどんどん増えて欲しい。


 家畜として優秀な親から家畜として優秀な子が生まれる。それを繰り返すことで家畜として優秀な品種になる。

 くどいぐらい「家畜として」と繰り返したが、その「家畜として」を抜いた言い方だとヨカワヤはとても嫌な顔をする。実家の事でも思い出しているのかね? 詳しく聞いたことは無いけど、ヨカワヤも複雑だ。



 そうやって現状を説明しつつ、最後は実食で締める。美味い物を食えば不機嫌も晴れるだろう。

 出すメニューは親子丼ならぬ親子パスタ。米の代わりにパスタを使っただけ、鶏肉以外の具は一切なしのシンプルな品だ。卵に合わせる出汁は鶏ガラを使い、魚醤をわずかに加えたのを除けばほぼ鶏尽くしの一品である。


 意外と脂がのっているので味はわりとくどい。が、少量なら美味しく頂ける。

 試食と言って出したので二口三口(ふたくちみくち)で食べ終える分量だったが、ちょっと物足りないぐらいで食べ終える方が人間は幸せだ。下手に満足すると次の要求水準が上がるからね。それに同じものばかり食べ続けると感動が薄れてしまう。適度な節制、適度な変化が長く幸せでいるためのコツなんだ。


「ご馳走様でしたー」


 親子パスタを食べ終えたヨカワヤは、多少マシな顔になっていた。不機嫌を完全に吹き飛ばすには足りなかったようだ。全く効果が無かったわけでもないので無駄じゃなかったと思っておこう。


 ヨカワヤ相手に品種改良ネタはもう話さない事にしよう。

 来年になれば羊や牛の乳の話をするだろうし、その時は餌の話をするだけだから大丈夫かな?

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