山脈、仮完成
夏になった。
結婚を控え妙に安定しない俺の情緒だが、そんな事はお構いなしに仕事はやってくる。
だったら仕事に集中して忘れてしまうのが一番だろう。
山脈作りは終盤を迎え、そろそろ終わりに近づいていた。
山の形は大体できたのだが、それを維持するために緑化運動を進めている。
半分は森からの植樹でこれが定着してくれればいいのだが、たまに深く刺し込みすぎて土に埋もれた幹が腐ったり、逆に刺し込みが甘くて倒壊したりする。
あとは草を持ってきたりドングリや手持ちの銀杏――イチョウの種を植えたりしている。植物の環境適応能力は凄いからな、そこが生まれた場所なら適した育ち方をしてくれるだろうさ。
で、形が出来た事で肝心要の川ができたかと言うと。
短いながらも川は出来た。
山の保水能力が低いからか、それとも川底の水はけが良すぎるのか。川は1㎞持たずに途中で力尽きている。雨が降ると延長されているんだろうけど、途中から川なのか雨水が地面に吸収されていないだけなのか、見た目では分からないほど全然駄目である。
もしももっと川の距離を伸ばして海まで届けたいなら俺が手を加えないと駄目だろう。
とりあえず街道の水路と同じ要領で、村の南までちょっとうねりを作りながら水路を引いてみた。真っ直ぐ作るのも芸が無いし。
川底へ染み込む水の量が減ったからか、なんとか海まで水を届ける事に成功。
もっとも、晴れた日の規模が田んぼの用水路レベルなので、ここに川魚を期待するのは難しいかもしれない。
あとは水量が増えれば勝手に拡張されてくれると思うけど、それは何年か後の話なので、細かい事はまたその時考えればいいかな?
それとも、余裕があるときは山に追加で土を盛るか。
どちらにせよ、これで村周辺の環境が大きく変わってくれる……といいなぁ。
川とその源泉が出来た事で一番期待しているのはワサビだ。
海鮮と魚醤があるのにワサビが無いというのは片手落ち。出来ればワサビを育てたい。
西洋ワサビこと山ワサビは、アブラナ科の植物だ。
寒さに強く、綺麗な水が湧いている場所で育つという。
とりあえずアブラナと、甜菜のキメラ植物を源泉の近くに植えてみたが、これが山ワサビになるかは不明。
お仲間ではあるが、環境が変わったぐらいでいきなりワサビになってくれるとは思っていない。環境調整のつもりである。
あとは川魚でも放流したいところだが、川に餌になりそうなものがまだ無いので今年のうちは我慢することにする。
来年の春先だったら苔なども生え、小さい魚ぐらいは生きて行ける環境になると思う。
海を経由してメシマズ村近くの川からこっちに引っ越してくれる魚もいるかもしれない。
半分妄想じみた期待であるが、無いとは言い切れないのが大自然の奇跡。上を向いて奇跡が起こるのを待っているだけだと問題だが、ちょっとぐらいは夢を見てもいいんじゃないかな。




