ワガママ
「アタシは子供だぞー!!」
「煩いロリババア」
「ロリババア言うな!!」
つまみ食いが発覚して子供のフリをしたサヴへの折か――もとい、教育を済ませる。そういや1年目の冬、つまみ食いした奴を放り出した話はサヴにしてなかったかと思い出すが、些細な事だった。
明文化された法を村長たる俺が無視していいのかという意見も出そうだが、この村の法は俺である。これでいいのだ。
山脈を作る方は遅々として進まないような気分になるが、それでも全く進まない訳では無い。徐々に台地は出来ていく。
それよりも村と山脈の間に作ったため池の方は順調に緑化されており、ちょっと遠出して回収してきた野生の麻もすくすく育っている。
今回は村周辺の環境で育つのかどうかを確認するために試しただけなので、麻の数は少ない。実験なので省力化した結果だ。
そんな少ない労力で、多少どころか、かなり劣悪な環境でも麻が育つのを確認できたのは僥倖だ。村の近くに麻が生えていなかったのは、やはり水不足が理由らしい。
増えた緑が牧草地となり、牛たちのご飯になるまで1月も有れば十分そうだ。
「≪石壁≫、≪土壁≫≪土壁≫≪土壁≫≪土壁≫っと。じゃ、崩れろ」
山脈作りの方は、≪丘創造≫の魔法を全力で使うスタイルから各種壁系魔法で土台を作り、その上に土をかぶせて山にする方式に切り替えた。
やり方を変えた事で1日に作れる山の大きさは削られるが、この方式にしてからは何故か山が削られるといった事も無い。
≪土壁≫単発だと理由も分からず削られるかもしれないのが怖いので、中は≪石壁≫である。どうせ次の工程で水をためる受け皿を作る気でいたから、それがちょっと早まっただけだ。何の問題も無い。
後の時代の誰かがこの山脈を見たら、古墳か何かと勘違いするかもね。
あと、山脈作りにはもう一つ問題がある。
村で何かあった時の連絡手段だ。正確には、それに割く人員である。
何か緊急の事態であれば狼煙を上げてもらう手筈になっているが、それに俺が気が付くまでのタイムラグが長い。
基本的に、魔法は精神を集中させて使うものだ。だから他所に意識が向きにくくなるし、狼煙が昇ってもなかなか気が付けない。
仕方ないので狼煙を確認して俺に報告する人員を1名出しているが、2㎞先の狼煙ではなかなか見えないし、見間違うかもしれない。中間地点にもう2名配置し、そこでも狼煙をあげられるようにする必要があった。
あと、村の方にも狼煙をあげるための人員を1名ださせている。
合計たった4名だが、牛や羊の世話に人手を取られている現状ではそれなりに痛い数である。
かと言って山脈作りをした時のリターンの大きさを考えると、と言うよりやらずに冬を迎えた時のリスクを考えると、山脈作りを止めたくない。
家畜の事だけを言うならもっとため池を増やしてしまえばいいじゃないかという意見も出るけど、それが正論なんだろうけど、家畜の事が無かろうと山脈作りは進める。
山と川は平地の森には無い生物が棲み付く基盤になるのだ。その恩恵が欲しいという、俺の我儘だ。
我儘だろうと俺はやる。
メリットとデメリットなどといった理屈ではなく、感情論で動くのが俺なのである。
 




