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紙芝居

 見積もりが甘かった。



 山脈作りは最初の方から躓き、難航していた。

 雨が降ろうが風が吹こうが俺は休まずチマチマと丘を作り土を盛り、ついでに早い段階で緑化も進めていた。


 だが、作った丘がどんどん沈んでいく。

 見間違いか何かかと思ったが、そんな事は無い。2~3日経つと明らかに丘の高さが変わっている。低くなっていた。これは目測ではなく、≪鉄壁≫による測定をしたんだから間違いない。


 原因は不明。

 魔法の連続使用が関係している可能性が有るが、断言できる事でもない。

 そもそも、俺の≪丘創造≫で盛られる土がどこから来ているかも不明なのだ。今まで気にしてなかったが、≪丘創造≫は質量保存の法則に真っ向から反する魔法ではなく、どこかから土を持ってくる召喚魔法的な効果だったのかもしれない。



 土台作りは30日あれば終わると思っていたけど、ペースダウンしたことで60日を見込まないといけなくなった。

 少々ではなく極端な意見のブレだが、悪い方に予想を立てておいた方が精神的に追い込まれずに済む。


 俺は何も失敗しない完璧超人ではなく失敗を積み重ねながらも前に進む凡人だが、だからと言って失敗してへこまない訳では無いのだ。





 山脈作りが上手くいかないので、気分転換に別の事に手を出そうと思う。

 魔法以外で俺がやる事と言えば料理関係がほとんどだが、気分を変えるんだから違う事をしよう。日曜大工もいいが、魔法でさんざんやっている事も省くとなると……。



「待てセガール。このままでは分かりにくいぞ」

「それならこう書き直すか?」

「うむ。それなら勘違いもしないだろうさね」


 俺はサヴと二人、書類とにらめっこしていた。


 村で行われる仕事はマニュアル作成を行っている。

 俺がやっているのはそのマニュアル内容の確認と編集だ。記入漏れや情報不足の不備を無くし、より分かりやすいマニュアルを作っているのだ。


 ヨカワヤに人員追加をお願いしているが、新人教育で教える手間は少しでも少ない方がいい。その為の一手間、マニュアル作りだ。

 村に来るのは文字が読めない奴ばかりなので、半分以上はイラストなんだけどな。



 出来たものは版画にして紙に移す。

 このまま活版印刷まで時代を進めてしまおうか。製紙産業は既に王国内に広まっているので、安い本が出回る土台は出来つつあるし。

 そんな妄想をしながら俺はマニュアルを完成させる。



「畑の作物は土から栄養を――」

「石ころが多いと水はけが――」


 集めた新人の前で、マニュアルを使っての説明会。

 大きく書かれたイラストを見せ、その内容を説明する。大正時代や昭和初期の紙芝居のような物である。

 作業の意味を教えるのが大きな目的だが、時々ネタを仕込んでいる。


「――と、言う訳でつまみ食いをしたアホは村を追い出され、獣に食べられてしまうのでした。めでたしめでたし」


 車の免許の更新講習会で使われるムービーを真似て、教えたことを守らないアホの末路を物語形式で語っておくのだ。

 新人連中は一様に顔を蒼くしている。こうかはばつぐんだ。


 なんでか知らないが、一緒に作っていたサヴも顔色が悪い。

 おい、お前もか? つまみ食いは重罪ですよ?

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