×トロッコ ○キックボード
空荷の時はいいが丸太を積むとトロッコは普通に止まろうとしてもなかなか止まれず、少なくともブレーキ周りの改良が求められた。
破損前提の棒をザラザラにした地面に突き立てたりと、摩擦による減速だけではどうにも足りない。自転車のブレーキを真似してレールを挟んで止まるようにもしたが、それでも簡単に止まってくれない。
他にもゴールで勢いを殺すために僅かに傾きを付けるなど、小さい工夫を重ねていった。それでも駄目だ。
最終的にはトロッコのブレーキによる停止を諦め、停止駅でトロッコを左右から挟むようにして無理矢理止める事にした。
最初はトロッコと同じ幅の壁を作り、50m先にある停止目標の辺りではトロッコよりも2㎝ほど壁を狭める事で安全に減速させることに成功した。
トロッコ側の側面を木製にする事で摩耗をトロッコに負担させ、駅側の損傷を抑えるようにしている。大きな駅より小さなトロッコを直す方が簡単なので。
トロッコ登場により、村民側から要望が出された。
すなわち、公共交通機関、村内トロッコ移動網である。
トロッコの運搬能力を使えばもっと人や物の運搬が高速化され、生活が楽になるのではないか。そんな意見が相次いで出たのだ。
この言葉を鵜呑みにしてはいけない。
奴らの真の狙いは、単なる娯楽の追及である。要するにみんなトロッコに乗りたいのだ。
俺に対し娯楽目的でトロッコを要求をしても無駄だから、こうやって理由付けをしてもっともらしく言っているだけなのだ。あまり本気にしてはいけない。
ただ、村の中でトロッコを動かすのが無駄とは言わない。費用対効果を考えると勿体無いと思うだけで。
丸太の運搬にトロッコを用意したのは、運搬がとても大変だったからだ。他に何か運搬が大変な物がないかを考えると、何も無いので今のところは村内トロッコ網など作らない。
そういうのは、俺の手助け無しに金属チェーンを自作できるようになってからだ。
村内トロッコ網は無理としても、村の中で使える運搬手段を増やすことは悪い事じゃない。
自転車は作れないにしても、キックボードのような簡単な物は作らせてみる事にした。村の木工職人も、その程度の加工ならやってやれない事は無い。キックボードはすぐにできるだろう。
しかしキックボードを運用するにあたり、どうしても道の整備が必要になる。アレは平らな地面でしか使えないのだ。特にタイヤがゴムじゃない、衝撃を吸収できない物の場合は。
グラメ村の道路は村と言いつつ都市なみに整備しているが、それでも完ぺきとは言い難い。道路のガタツキすらマージンに含めたキックボードを作る事が出来ない以上、その普及は遅れるだろう。
しかし、心配してはいない。
みんな、面白そうなら多少の事は気にしないはずだ。そもそも、最善である状態を知っているから不満があるのであり、それを知らない皆の不満は俺よりもはるかに小さいはずだ。
新しい物というのはそれだけのインパクトがあるのである。
さながらCGをガンガン使った最新ゲームの後にドット絵のレトロゲームをやる平成世代と、レトロゲームが初めて発売された当時の昭和世代の感覚ぐらい差があるのだ。
昔はあんなゲームの為にみんなが徹夜で列を作ったのである。
それを思えば村の連中だってキックボードを楽しんでくれるだろう。




