蜂蜜
食欲に負けた俺は、結局マンソン卿の都市と交易をすることにした。
サヴにその話をしたところ、とっても呆れられたが気にしない。お金の代わりに鉄を持ち込むことにしたけど、その鉄は俺が魔法で作っちゃった奴だけど気にしない。モノがモノだけに俺が直接出向くことになるけど気にしない。
男には、時に誇りを捨ててでも掴まねばならないモノがあるのだ。
「それが食欲ってのがアンタらしいさ」
うるさいよ。
未だ寒い冬だから、マンソン卿とのやり取りは事前交渉だけである。
冬の間に多くの人員を動かすのは利益が薄くなるし、どうせなら互いに儲けが多い方が良い。鉄の現物を見せ、どの程度のホワイトソースを買えるか確認し、購入間隔はどれぐらいにしようかと決めていく。
こうやって安定して鉄を手に入れるのがマンソン卿の狙いだったらしく、そのために新年会で俺に声をかけたようだ。
あの場で直接やり取りをしなかったけど、俺が美食を求めて色々と動いているのは知っていたので、美味い物を食わせれば絶対に食いつくと読んでいたのだ。高級品の胡椒を使ったのも、鉄を引き出すための交渉術である。
……大当たりだよ! 悔しいなぁ。
マンソン卿とのやり取りは俺が出向いてやっている。
ついでにマンソン卿の都市を見学し、俺の村に何か活かせないかと辺りを見渡す。
マンソン卿の都市は石畳に覆われた大通りに街路樹を植え、公共トイレが完備されているから衛生面の管理も万全。水資源も豊富で、水を誰もが自由に汲み出すことが許されている。
外壁の上から外を見れば畑が広がっており、このあたりは雪が降らないので冬でも奴隷たちが働いている。
ただし近場に森が見当たらず、木材については遠くから持ってきているようだ。植林という考え方はしないらしい。あと、石材も近くにはもう無いようだな。
俺の村と違い、人が多く集まる都市には商業が生まれる。個人商店が立ち並び、中には風呂屋なんてのもあった。
どうせだからと風呂に入っていくことにした。
個人経営の風呂屋は日本の銭湯よりも狭い湯船しかない。そこに多くの人間が浸かっている。男女の区別はしていない。混浴だ。
お湯は外で沸かしたものを湯船に注ぐやり方で、それらしい奴隷が大きな瓶を持って行き来している。ただ、どうしてもお湯は温めかな?
部屋は全体的に暗い。外の空気を遮るのを優先し、窓はすべて閉まっている。灯りはロウソクを使っているけど、ロウソクの灯りなどか細い物だ。だが、その薄暗さが混浴の気恥しさを和らげている。
広い風呂に一人で浸かるのもいいものだが、別に一人でいる事に拘りがあるわけじゃない。他人が近くにいても実害さえなければ気にはしないのである。多少騒がしいぐらいは実害とも思わないし。うん、悪くない。
俺は体を洗うと湯船に浸かり、力を抜く。
それからいい気分になったところで湯から上がり、体を拭く。
服を着て外に出れば、そこで売っている飲み物の小瓶を一つ買って中身を飲み干す。
うん、蜂蜜水だな。室温でも十分に冷えていて美味、し、い……?
蜂蜜!?




