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それではまた来年

 そして今年最後の行商の日がやって来た。

 行商の間隔が一月あればヒヨコの行進が見られるほどの時間があったと言う事で、鶏の卵が無事に孵化したと言う事だ。その数、42羽。


 途中でいくつか駄目になったようで、全てが孵化したわけではない。理由は不明だが有精卵特有の生命反応が無くなった物もあった。

 中途半端にヒヨコ化していたのでホビロンだのバロットだの、そういったグロ系に多少耐性があっても食べたいと思えない状態だったので、とりあえず見なかったことにして焼却処分の肥料扱いと相成った。うん、俺は何も見てないよ?



 ヒヨコはピヨピヨと鳴き、普段は密集して暖を取っている。もしくは母親の腹の下に居る。色は黄色というより茶色っぽい。しかし手のひらに乗せる事が出来るサイズなので可愛いものだ。

 寒いのが嫌いらしいのでミニ温室を作ってみたところ、その中が温かい時限定で走り回るようになった。ミニ温室は小さいので保温能力が低く暖かい時間はそこまで長くないが、その間のヒヨコはとても楽しそうだ。鶏の方はまずミニ温室に入ってこない。入ってくるのはヒヨコだけである。

 ……今の時期に孵化させたのって、実はあんまり良くなかったか? ブロイラーなら何度か見たことがあるけど、ヒヨコ状態の鶏ってあんまり見たことが無いんだよな。巷ですぐ死ぬと評判の、縁日のヒヨコぐらいだ。親鶏の方は寒くても平然としているが。

 見た目はモフモフなヒヨコだが、きっとまだ羽毛が生え揃っていないからに違いない。


 餌の方はライ麦を中心に与えておくのが良いと言われている。

 卵を産むわけではないので貝殻などは要らないだろう。海藻や魚粉などは栄養バランスを考えると与えた方がいいのかな? 何も気にせず食べる様なので、そちらも与えておく。

 餌があればすぐに食べたいと主張するかのようで、食欲は非常に旺盛だ。食べる時間と寝る時間がほとんどで、水や餌が足りなくならないように注意している。


 あと、成長は非常に速い。

 ほんの数日で倍ぐらいのサイズに成長し、餌の消費量はどんどん増えていく。

 たった7日ではまだまだ手のひらサイズなんだけどね。





「はー。新しい卵料理ですかー」


 ヒヨコが増えすぎると管理が大変になるのだが、それでも鶏はもっと欲しい。雌鶏には2周目に突入してもらうとして、それでも無精卵はたまに出る。

 ヨカワヤが来るのに合わせて確保しておいたので、それを使って飯でもどうだと誘ってみたのだが。


 ヨカワヤの喰いつきは非常に悪い。

 嫌いな物を出されると分かっていて気分が良くなるはずもないのだが、俺の提案と言う事で無視することもできないでいる。

 付き合いが長いからお互いの性格は熟知している。特に料理関係だと俺が食材を玩具にすることは無いからな。それぐらいは信用されている。

 しかしこういう時に俺が出す料理はハズレが少ないのは分かっているが、それでもなんでこんな事をやっているのだろうと思われるぐらいには躊躇されてしまうのだ。


「茹で卵を出すわけじゃないのは分かってますけどねー」

「味も食感も全く違う料理だな」


 そのうちプリンでも作ってみたいが、それは牛乳が手に入ってからだ。あと、卵がもっと手に入るようになってからだ。

 昔試した時は形になる前に材料が尽きたからな。レシピの開発からスタートしなくちゃいけないのだ。

 ……だれか、温度計やタイマー無しで、しかもコンロを使わず薪のかまどで蒸料理をやる方法を教えてください。いやマジで。


 それは横に置き、ヨカワヤはかに玉を見てホッとしている。見た目から茹で卵のイメージと繋がらず、別の食べ物と認識できたようだ。


「あ、これは美味しいですー。ふわふわで、蟹ですかねー、とっても美味しいですー」


 かに玉を口にすると、ヨカワヤは幸せそうな顔をした。

 計算通りだ。

 もちろんヨカワヤは分かって付き合ってくれているのだが、それでも俺の罠にかかったわけだ。



 美味しいご飯は、食後までは幸せである。

 しかし、それが食べられるのがこの村だけなら?


 それはちょっとした拷問である。

 俺の様にいつでも食べられる環境に居ないと、物流がよろしくない環境に居ると、我慢を強いられてしまう訳だ。

 卵を軽んじた代価である。旅先で、あんまり美味しくない野営料理にがっかりするといいさ!



 俺とヨカワヤは付き合いが長い分、互いの事をよく知っている。

 この程度の思惑に気が付いていないはずが無く、この程度のやり取りは茶番でしかない。


「じゃあ、また来年ー」


 新年祭で俺が王都に顔を出すまで、しばしの別れだ。

 来年の春までヨカワヤはこの村の飯はお預けである。

 しかし、それまで待てばいいと分かっているならヨカワヤはあんまり気にしない。楽しみは後にとっておけるタイプなのでしばらくメシマズでも苦にならないのだ。


 こうしてヨカワヤは王都に帰っていった。

 鉄を仕入れ、美味しい物を食べて、幸せな気分にホクホクとした顔で。

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