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お風呂

 領地開拓から3か月経過。

 人足補給も3回目。開拓村は人口100人を超え、ようやく名前を付ける段階に入った。


 つけた名前は「グラメ」だ。

 グルメじゃないよ、グラメだよ。



 開拓村って、簡単に消えるんだよ。一月で消えるケースがほとんどで、2ヶ月持つことは稀。3ヶ月以上もったとしても消えるときは一瞬なんだけど。

 開拓村はそうやって失敗して離散するケースが多いから、名前も付けずにしばらく様子見がデフォルト。国による村の把握管理って大変だからね、人口100人は存在を認めるまでの通過儀礼みたいなものだ。



 余談だが、この場合の人口って、「男の数」だったりする。

 社会を支える男こそ、数える価値のある人間だっていう考え方。古代とは女性が子供を産む道具扱いの時代です。中世でも似た様な物だけど。婦女暴行は「器物破損」だから犯罪っていう考え方なんですよねー。ペットか。


 女性の人権?

 無いよ、そんなの。

 この時代、この世界で男女の平等とかありえませんがな。

 そもそも人権って考え方そのものが無いんだけどね! あっはっは!!



 ……誰か人権意識を広めてくれよ、本当に。

 あれって個人の権利を守る考え方っていうのが表面的な捉え方だけどさ、実際は「より効率よく社会を動かす考え方」なんだよ。人権意識の無い社会って、単純に効率が悪いんだよ。人権の半分は優しさかもしれないけど、残りは社会を発展させようって意思でできているんだ。

 俺自身、この世界に馴染んで人権って考え方が常識じゃないけど。社会が人権を守ることが、人権保障・人権尊重が常識っていうのがどれだけ国を発展させるかをよく分かっている。提唱したら権力者に殺されるほど先進的で民衆という次代の権力者(・・・・・・)に魅力的な考え方なんだよ。


 俺にできる事と言えば、村民が怪我や病気で死なないような方法で村を運営するぐらいだよ。





 村民への福利厚生というか。俺は日本人転生者らしいことをやる事にした。


「≪加熱≫。これぐらいでいいか」

「大将! もう入れますかい!?」

「おう!」


 海岸線沿いでは、真水は貴重品。黄金の価値は無いけど、酒よりも高い場所だってある。


 そんな貴重な真水を大量消費する、日本人が好む行為と言えばこれしかない。


「全員、服を脱げ!! 風呂だ!!」

「「「「おぉーーっ!!!!」」」」


 馬鹿みたいにでかい、学校のプールのような水場。そこに集まった男女100人の歓声が響き渡る。

 古代ヨーロッパでも、湯に浸かる風習は各地にある。この世界でもそれは例外じゃない。風呂は大衆の娯楽として認識される程度に広まっている。ここにいる村民も、もちろん風呂の事を知っている。


「石鹸はここだ! ちゃんと使えよー!」

「「はーい!」」


 風呂に入るにあたり、石鹸も用意した。

 使う脂が獣の脂肪で、海藻の灰を使った硬い石鹸なのはいいけど、これはかなり臭い。

 ミントっぽい植物があったのでエッセンシャルオイルを混ぜてみたけど、それでも不快な臭いが無くならなかった。菜種はまだ収穫できないし、しばらくは臭い石鹸で我慢するしかない。だれかオリーブオイル、プリーズ。

 この臭さの所為でみんなの声もトーンが低かったが、石鹸が体を洗うのに有効って事はちゃんと理解している。大人しく従ってくれた。


 体を洗うのに使う泡立ちの良いタオルなどは無い。あかすり石のような物か金属のへらを使う。

 最初は目の粗い麻布を使えばいいと考えていたけど、布って高級品だから。こんな事には使えんのですよ。それこそお貴族様ぐらいしか。俺? 使いませんが、何か?



「男爵様、お背中を流します」

「お、ありがとう」


 腕や腹をこすっていた俺に、最近来たばかりの女が寄ってきた。当然、全裸で。


 そう、この入浴は「混浴」なのだ。

 日本だって江戸時代までは混浴が普通だったのだから、古代な感じのこの世界が混浴じゃない訳がない。実に眼福というものだ。

 細かいことを言いだすと、古代ローマでは盛ってしまう連中がいるからと男女別にしたって話もあるけど。ここはローマじゃない。混浴禁止令は発令してない。よって無問題。セーフ。


 ただなぁ。

 美容品に関する意識がまだ低いせいで、髪とかゴワゴワなんだよ。頭髪が固いんだ。

 石鹸で洗うのは……あ。大丈夫か。


「お礼に、髪を洗ってあげよう」

「え? あ、はい……?」


 髪は頭皮から毛先までしっかり濡れているな。ならば問題ない。

 俺は石鹸を泡立てると、泡だけを彼女の頭に乗せる。そして泡をしっかり髪になじませる。頭皮に爪を立てず、柔らかいタッチで行うのがポイントだ。


 最後に泡をお湯で流し、お酢を薄めた簡易リンスでキューティクルを引き締める。

 石鹸でアルカリ性に傾くのが髪に悪いから、石鹸洗いは駄目なのだ。だったらアルカリ性をお酢の酸性で中和すればいい。そうすれば艶のある髪になるというわけだ。



 獣臭い石鹸やいかにも酸っぱいお酢の臭いはマイナス要素だが、触り心地の良さそうな、滑らかで美しい髪は周囲の注目を集める力があったようだ。

 俺は髪の洗い方を指導し、男女どちらからも大いに感謝されることになった。



 これだけハッスルする連中が多いんだ、そろそろ子供が出来るかもねー?

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