新人割り振り
「んじゃ、また来月ー」
「おーう」
ぼったくった訳じゃないけど。ほんの少し割高で売った毛皮や数の多い保存食。その支払額を告げた時、ヨカワヤかの目から光が消えた。
割高だけど、売り捌けない額じゃない。
量は多いけど、持ち込んだものよりは少ない。
最終的な収支はこちらの支払いの方が多いから、それなりの額の現金を入手できているよ。
でも、ここまで支払う事になるとは思っていなかったみたいで。
俺との商売の代金、それをアテにして行動しているかもしれない商売仲間になんて言えばいいのか分からないんだろうな。
かといって商機を逃すには惜しく、他の介入を防ぐ為にも自分たちで買わないとまずい事を理解している。
もし独占状態が無くなったら有力な商人に付け入る隙を与え、自分たちが締め出される未来が見えているんだ。性別的に不利で燻ってたけど、彼女らは優秀だから。
とりあえず、換金をお願いした宝石もあるし、そこまで酷い事にはならないと思うけどねー。
さて、ヨカワヤ達の事はいいんだ。
優秀な彼女たちならこの程度の事でへこたれはしないだろうし。
今回購入した物品は倉庫に入れておくとして、注目すべきは人足だ。
男女それぞれ10人、彼らを予備戦力として使えるようにしなければならない。
既存の職場に新人を入れた時、間違いなく作業効率が落ちる。
新人は役立たずで、教える手間と失敗へのフォローで時間が取られるからだ。
あと、新人を組み込んだ作業ルーティンの構築もしないといけないし。
よって、優しい上司である俺は作業ノルマを1週間だけ2割ダウン。
その後は平常の量に戻し、さらに1週間後には1割増しでよろしくー。
「大将! 本当にそれだけでいいんですかい?」
「当たり前じゃないか。リスクに備える人員体制。カツカツの運営をする奴なんて馬鹿だね!」
「――え?」
「まぁ、予定外の仕事でカツカツになっても構わない程度に余裕を持たせるのが、上手に仕事を進めるコツなのだよ」
「……はは、そうっすね」
俺の言葉を聞いた人足改め農民が、何かに疲れた顔をした。
やだなぁ。夜の労力を残せる程度の仕事で済ませているじゃないか。リーダークラスは毎晩優先的にハッスルしているわけだし?
その頑張り具合は娼婦たちからちゃんと聞いているんだ、貴様らが余裕を持って仕事をしていることぐらい、お見通しなんだよ。
「ほらほら、早く朝のミーティングをして。さっさと仕事に行くよーに」
「「うーす!!」」
新人を割り振られた作業リーダーが、どこか自棄になっている気がするけど、気合を入れて散っていった。
元気なのは、いいことです!
 




